目の前の彼は黒子テツヤくんといって、一言で言うなら影が薄い、二言目が許されるのなら、謎が多い…所謂ミステリアスな雰囲気を醸し出している男の子だ。

 私が彼と付き合いだして、というか彼を見失わず認識できるようになってから、実に四年という月日が流れているわけだが、如何せん彼の事は今だよく分からないままなのである。

 私が彼の事で知ってることといえば、バスケが好きだとか(ただし得意なのはパスだけで、その他はもしかしたら私の方が上手いかもしれない)。本が好きだとか(放っておくと一日中読んでいる。中1の時に昼休みからずっと5時間目になってもそのまま読んでいて、しかも全く気づかれてなくてダブルで驚いた記憶がある)。見た目通り少食だとか(超がつくほど少食。お昼にサンドイッチだけで事足りるのが信じられない。部活中とかお腹空かないのかな…)。そのくせバニラシェイクが好きで(マジバの、ね。一日一回飲まないと気が済まないらしい。私も何度か数えきれないほど、一緒に行った記憶がある)、棒アイスも好き(2 本ついてると一本くれる。当たり棒もくれる。頭キーンってしてくるんだって)。あとは国語科の成績がとても良いとか(他は可もなく不可もなくフッツー。だから総合得点は私の方が上)。

 そして何より影が薄い。目の前にいるのに見失うとはどういうことだろう。卒業アルバムの写真ですらも風景に溶け込んで薄かったもんな…

 ちなみに私のデジカメは最新式ので、顔認識モードがあり、生体がいなかったりレンズから遠かったりすると、自然と風景を撮るのに適した方へと切り替わるのだが…彼に向けるとそうなる。正しくは彼だけに向けると。後ろを人が通るとちゃんとカメラはあの四角いのを道行く人の顔にあてだす。壊れているわけではないらしい。

 薄いといえば、彼とは中学の三年間と高校1年の今、あわせて四年間クラスが一緒なわけだが…私は一回も、授業中に彼が当てられる様を見たことがない。日付で当てられているのも見たことがない。列で順に当てていくのも、見たことがない。

 見たことがないのだ。たったの一度も。


 それくらい、彼は影が薄い、ということだ。



「で、なんでそんなに薄いんだろうね?」

「さあ、なぜでしょうね。僕にもよくわかりません」

「だろうねぇ。自分がなぜ影が薄いかなんて、わかるはずないもの」


なまえさんは面白いですよね。そういうところ、飽きませんし、好きです。


 なんて、笑ってるんだか無表情なのかよくわからない顔で言う、目の前の彼、黒子テツヤくんのことを、私は生涯で唯一無二の存在だと、思っている。

 一緒にいて安心できる。私たちは性別を越えた、生涯で唯一無二の親友なのだ。

 この感情は恋ではないし、友愛である。私たち以外の誰にも理解できない関係。





 目の前の彼女はみょうじなまえさんといって、一言で言うなら面白い、二言目が許されるのなら、謎が多い…所謂ミステリアスな雰囲気を醸し出している女の子です。

 僕が彼女と付き合いだして、というか彼女が僕を見失わず認識できるようになってから、実に四年という月日が流れているわけですが、如何せん彼女の事は今だよく分からないままなのです。

 僕が彼女の事で知ってることといえば、運動神経がいいだとか(パス以外は絶対僕より上手いです。女バスに入ればいいと思います)。人間観察が好きだとか (放っておくと一日中しています。中1の時に昼休みからずっと5時間目になってもそのまま窓の外を見ていて、何を見ているのかと思って僕も窓の外を見たらこれといって何もなくて、驚いた記憶があります人間観察というか、なにかを観察することが好きなようですね)。見た目とは違って甘いものが嫌いだとか(超がつくほど辛党です。ハバネロチップスなんてものを普通の顔をして食べているのが信じられません。彼女の口はどうなっているのでしょうか)。そのくせバニラシェイクを飲みに行くのには付き合ってくれて(マジバの、です。一日一回飲まないと気が済まないので帰り道によるのですが、いつも文句を言いながらついてきてくれます。もう何度か数えきれないほど、一緒に行った記憶があります)、棒アイスも一本受け取ってくれる(2本食べると頭キーンってなるんで、一本さしあげるんです。なので当たり棒もあげます。辛党なのに受け取ってくれます)。あとは成績は満遍なくよいとか(国語科だけは僕の方が上ですが、他は可もなく不可もなく普通なので、総合得点は彼女の方が上です)。

 そして何より面白い。目の前にいるのに見失うと言われる僕を見失わないのも不思議だし、そんな僕の影の薄さの原因を徹底解明するなどと奮闘しているのもとても面白くておかしいです。言動が他の人とは逸脱して変ですし、彼女は感受性がとても豊かです。そして努力家(?)なので、僕の影の薄さについてレポートをまとめたりもしています。

 なんでも顔認識モードがある最新式のデジカメで僕を撮ろうとすると、勝手に風景画モードになるのだとか。ちなみにそのモードは生体がいなかったりレンズから遠かったりすると、自然と風景を撮るのに適した方へと切り替わるというものらしいですが。ああ、正しくは僕だけに向けると、ですね。僕の後ろを人が通るとちゃんとカメラはあの四角いのを道行く人の顔にあてだすらしいです。壊れているわけではないのね、ならなんなのかしら…と呟きながらノートにガリガリ何かを書き込む彼女は…正直少し怖かったです。

 あとそういえば、彼女とは中学の三年間と高校1年の今、あわせて四年間クラスが一緒なわけですが…僕は一回も、授業中に彼女が当てられない様を見たことがありません。日付で当てられるのも見たことがありません。列で順に当てていくのも、見たことがありません。

 見たことがないのです。たったの一度も。


 それくらい、彼女は僕とは違い影が濃い、ということです。



「なまえさんは面白いですよね。そういうとこ飽きませんし、好きです」

「そんなことないわ。君の方が見てて面白い」

「まあ、自分の面白さが自分で分かる人はあまりいないと思いますがね」


なんにせよ、君は私の興味をとてもそそるいい観察対象だよ。これからもよろしくね。


 なんて、笑ってるんだか無表情なのかよくわからない顔で言う、目の前の彼女、みょうじなまえさんのことを、僕は生涯で唯一無二の存在だと、思っています。

 一緒にいて安心できる。僕たちは性別を越えた、生涯で唯一無二の親友なのです。

 この感情は恋ではないし、友愛である。僕たち以外の誰にも理解できない関係。


「ねえ、テツヤくん」

「なんですか、なまえさん」

「私たち、親友よね」

「奇遇ですね、僕も今そう考えていたところです」

「私たち、結構正反対なのに」

「だからこそ、ではないでしょうか」

「…そうかもしれないね」

「はい、そうかもしれません」





つまりはそう、仲良しということでよろしいのではないでしょうか?





「さ、マジバに行ってバニラシェイク飲みましょう」

「え、今日も行くの?」

「当たり前です。毎日行きます」

「明日も行くの?」

「明日も行きます」

「好きだね、バニラシェイク」

「好きです。まあ、いつものことでしょう」

「そだね、いつものことだね。…ま、テツヤくんを観察する時間が増えた、とポジティブにとらえとこうかな」

「はい、そうしといてください」

「あ、ちょ、先に行かないで!見失うと困る!」

「見失わないように頑張ってください」

「私は科学に勝ってみせる!」

「デジカメですか。頑張ってください」

「よし、マジバまで競争するよ!負けたらマジバの激辛チキン奢ってよね」

「え、ちょ、僕絶対負けますから嫌です……って、もうあんなとこに…これじゃ僕が見失いますよ」







読みづらさを重視!
黒子くんみたいなお友達が欲しい

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