※現パロ、家族パロ





 ぽつり。一粒。

 ぽつり。また一粒。

 次から次へと止めどなく、でもゆっくりと静かに流れる涙。

 どうしてだろう。すごく、悲しい。





呟き





 小学2年生、父と母の仲が良くないです。父は私と二人きりの時母の悪口を言います。母も私と二人きりの時父の悪口を言います。

耳が聞こえなくなっちゃえばいい。

 一緒に公園で遊んでた時にぽつりと呟いたらハレルヤが、


「そしたらオレの声も聞こえなくなんぞ」


 とそう言いました。それならハレルヤの声が聞きたいから、耳は聞こえたまんまがいいやと思いました。

 父が結婚しなければ良かったと言いました。母があんな人だとは思わなかったと言いました。ハレルヤはぎゅっと私を抱き締めて、安心しろ、オレはここにいると言いました。

 大丈夫、ハレルヤの声が聞こえるから。



 小学3年生、父が時々帰ってきません。父がいる日は母がいません。8歳の私の誕生日を最後に、3人揃う日がなくなりました。9歳の私の誕生日には皆揃うのかな。2人でご飯食べても美味しくないよ。

それなら、ご飯なんて食べたくない。

 下校中にぽつりと呟いたらハレルヤが、


「食わなかったら生きてけねぇぞ。そしたらもう一緒に遊べなくなっちまう」


 とそう言いました。それならちゃんとご飯を食べようと思いました。

 それから毎日父も母もいなくなりました。2人揃うのも時々になりました。



 9歳の私の誕生日、机の上にはたくさんの豪華な料理と大きなバースデーケーキ。でも食器は一人分です。少し泣きたくなったけど、我慢して食べることにしました。ハレルヤと一緒に遊びたいから。

 椅子に座ったけど、料理に手をつける気にはなれません。カンカンと呼び鈴がなりました。

 ドアを開けた私が見たものはたくさんの笑顔と紙吹雪。聞こえたのはHAPPY BIRTHDAYと小さな爆発音。

 ハレルヤがお邪魔しますも言わずにズカズカ上がり込んで来て、私の席の隣りの椅子に座りました。アレルヤとソーマお姉ちゃんとマリーお姉ちゃんがお邪魔しますと言って、アレルヤは私の逆隣り、ソーマお姉ちゃんとマリーお姉ちゃんは私の向かいの席に座りました。セルゲイさんとアンドレイお兄ちゃんは困惑する私の手を引いて、笑いながらダイニングに連れて行きました。ホリィさんは静かに微笑みながら後ろから私の背を押してついて来ます。

 セルゲイさんは普段父が座っていた席、ホリィさんは母が座っていた席、アンドレイお兄ちゃんはセルゲイさんとマリーお姉ちゃんの間に座りました。ハレルヤがお前も早く座れと言いました。ソーマお姉ちゃんが言葉遣いは丁寧にしろと言いました。温かくてくすぐったくて、笑って席につきました。

 久し振りに笑顔に囲まれて、美味しいご飯を食べました。



 小学5年生、父と母が離婚するそうです。親権はどっちが持つかでもめてます。飛び交う言葉を聞くのがとても嫌です。でも、その合間に私に意見を求められるのがもっと嫌です。何を言ってもふたりはもっとひどい喧嘩になります。

それなら、喋れなくなっちゃえばいいのに。

 休み時間にぽつりと呟いたらハレルヤが、


「オレはお前の声好きだけど」


 とそう言いました。

 ハレルヤが好きだって言ってくれるなら、私は人魚姫にはなれなくていいやと思いました。

 お父さんが出ていきました。お母さんも出ていきました。銀行の私の口座には毎月5万振り込まれるようになりました。学校にはもう5日行ってません。

このまま、泡になって消えちゃいたいな。

 そう呟いたら、ハレルヤの怒鳴り声が聞こえました。

 いつの間にか家の中に入ってきたハレルヤは、私を見て怒りを隠すことなく顔に表しました。そして手を振り上げて、降ろして躊躇って、また振り上げて。叩かれるのかと思ったけれど、次の瞬間、私はハレルヤの腕の中にいました。

 ハレルヤは泣いていました。泣いて、私を抱き締めて、そっと好きだ、と、呟きました。

 ハレルヤは私の魔法使いです。私は声を奪われることも、泡になることもなかったけれど、私の欲しいものをくれるのは全てハレルヤだからです。


「ハレル、ヤ。私、ね、もうどうしたらいいのか、わかんな、いや」

「もう、いいんだ……もう、いいから…そんな消えそうに、なんなよ…」

「違うよ、私は、消えないよ…だってハレルヤは私に声を与えてくれるし、泡にしないでしょう?」


 私は幸せな人魚姫だから。ハレルヤは優しい私の魔法使いだから。童話の人魚姫は魔法使いに泡にされて消されてしまったけれど、私の魔法使いはハレルヤだもの。ハレルヤはそんなことしないもの。それに、私の好きなのは王子様でも何でもなくて、魔法使いの、ハレルヤだから。だから私には足がなくていいし、人間のお姫様に嫉妬することもない。

 ねえハレルヤ、ハレルヤ、私は今まで貴方のために生きてきたのよ。ハレルヤが私に生きろっていうから、ハレルヤが望んでくれたから、生きたの。


私ね、ハレルヤに依存してるのよ。


 そっと呟いたら、痛いくらいに抱き締められて、それから二人で静かに泣きました。


ハレルヤ、好きよ。私も大好き。

私は今やっと、幸せになれた気がするの。





呟き





 私の呟きを、一言も聞き洩らさずに受け止めてくれた貴方がいなかったら、私は生きていたでしょうか。

 きっと私は生きてはいなかったと思います。

 でも私には貴方がいるから。これからもずっと、貴方の傍でなら生きていけるから。
 






現パロと家族パロとちっちゃいハレルヤさんの話

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