僕が死んでも決して泣かないでねと言ったあなたが、私が死ぬからといって泣いてしまうのはおかしいと思うの。だって私は言ったでしょう、じゃあ私が死んでも決して泣かないでねって。


 私ね、あなたを救いたかったの。ずっとずっとあなたに申し訳ないなって思いながら生きてきたのよ。双子なのに私だけ元気な心を持っているんだもの。だから私は走ることが出来るし、あなたの大好きなサッカーだって出来る。

 でもね私には、こんなに立派で丈夫な心はいらないのよ。ううん、本当はすっごく必要。でも私よりあなたの方が必要としてるから、だから私の心はあなたにあげるね。幼いあの日のクレヨンのように、返してだなんて言わないよ。その代わり、大切につかってね。



「太陽くん、移植して助かったんですって。奇跡的に年の同じドナーが現われて、拒絶反応もなくて」

「本当に奇跡よね」



 僕は知ってる、妹の存在を。ずっとひた隠しにされている(少なくとも僕には)けど、僕らはお互いの存在を知ってる。会って話したこともある。たぶん父さんと母さんはこのことを知らない。

 明日は妹がくる日。でも手術があるから、明後日まで僕は眠ったまま。明日の手術は最後の手術だって先生は言ってた。つまり僕は、元気になる。

 次に妹に会うその時、僕はどんな顔をして迎えようか。僕がもう元気だって知ったら、妹はどんな顔をしてくれるかな。そうだ、ボールを磨いておこう。すぐに使えるように。





再会のち永遠の別れ







心をあげる(物理)

120801
加筆修正 131021