「いいんですか、貴方はそれで」

「…いいもなにも。民の総意だよ」


 奴はやりすぎたんだ。そう言ってこの話はもう終わりだとでもいうように踵を返し、私に背を向ける。この人のこの大きな背中を、私はもう何百年と見てきたけれど、目にするたびにいくつも傷が増えているような気がしている。

 この人は大帝国、それは認めよう。大きな国、強い国。けれど国内が平和であるとは到底いえない。毎日小さな反乱から大きな戦争まで起こるこの人の国はばらばらだ。内乱続きにも関わらず遠征に行って領土を増やしてまた反乱が起きて、それの繰り返し。力で人を押さえ付けるからいけない、ちゃんとした政治をしようと言って立ち上がった者も、権力を手にすればやはりそれに溺れてしまう。その結果として明朝、一人の権力者を殺すことになった。


「力で力を押さえ付けるんですか。また、そうやって」

「………」

「彼の妻と息子が黙っていないでしょうね。まして彼女は巫女で、エジプトの女王ですよ」


 大きなその背中に投げ付けるようにそう言えば、じゃあどうしたらよかったんだと怒りを抑えた声で問われた。どうって、私には分かりません。このことが最善なのかも何も分かりませんよ。


「けれど、あなたのこれまでの行動が最善でなかったことは分かります。これから先、この国は必ず分裂しますよ」


 私の忠告を聞いて苦虫を噛んだような顔をしたこの人に孫ができるのは数百年後。この人が消えるのにまた数百年。幾度となく始まりと終わりを見てきた私はまた一人、友がいなくなるのを感じた。







カエサルさんを暗殺するローマ爺ちゃんの話
クレオパトラさんに翻弄される爺ちゃんも書きたかった

1110??