※一秋風味





 私の初めてのお友達、一之瀬一哉くんには、大切な女の子がいたのです。



 幼なじみなんだ、とはにかみながら嬉しそうに、二人の男の子と一人の女の子の四人で写った写真を見せてくれました。この子が秋。そう言って女の子を指差す彼の目は、宝物を見るようなやさしい目をしていたのです。私の胸は、ちくりと痛みました。いつものことです、さして気には止めませんでした。


「カズヤくんは、大切なんだね。この、アキって子のこと」

「ん?…うん、大切だよ。優しくて、少し厳しくて…思いやりのある、素敵な女の子なんだ」


 懐かしむような慈しむような視線を写真の女の子に向ける彼の顔は、今まで見たことが無いくらいに穏やかでした。まあ、まだ出会って二週間といったところですけれども。そんな彼の横で私はというと、胸の痛みがさっきよりも激しくなったので、悪化でもしたのかなと至極のんきに考えていました。


 私にとって生は、そう大して執着すべきものではありませんでした。先天性の染色体異常だかなんだかで、症例のきわめて少ない珍しい未知の重い病気にかかっている私は、生きたまま産まれてこれたことが奇跡だと言われていました。なぜなら私の身体は、外気に触れることでさえ危ぶまれる程に軟弱で、自分で呼吸すらもできないほどに貧弱だったのですから。それ故今まさにこの瞬間、私の脆弱な心臓が生きていること、それ自体が、ドクターに言わせると奇跡なのです。

 ごく小さな頃から親と離され、外界から隔離され、ガラス張りの無菌室での生活を余儀なくされた私は、一般の感性や常識というものを発育することができませんでした。無理もありません、一日の殆どを寝て過ごし、そもそも起き上がれず寝たきりの状態だったのですから。

 過ごしていたのは周り一面が真っ白な部屋で、窓もなにもありません。私は、太陽が青空に輝く朝も月や星が暗闇に煌めく夜も、雨も風も雷も雪も、時間や日にち、一日という存在も、言葉も感情の意味もなにもかも、産まれたての赤子と同様にまっさらのまま、まったく何も知らなかったのです。知っているのは、血の色は赤だということ、針で刺されるのは痛いということ、薬の味は苦いということ、熱を出すのは熱いということ、息ができないのは苦しいということ、心臓が止まるのは死ぬということ。私は凡そ、とても子供らしくない幼少期しか送っていないのです。

 死の恐怖を知っています、でも生の希望は知らないのです。私は生きているのではなく、ただ単に生かされているだけなのです。



 何度目かの奇跡が起こり、私の容態は少し良くなりました。しかし、本当にほんの僅かばかりです。けれども無菌室からは出られ普通の病室で過ごすことになりましたし、ドクターとナース以外の人…家族との接触も許されました。私は家族というものがなんなのかが分かっていませんでした。○年間、産まれたときの一度以外に会ったことが無いのですから仕方ありません。懐かしい感じもしない、なにを言われているのかも分からない。私は一気に世界に取り残されました。







あまりの鬱さに中断。
ヒロイン多分アメリカ人。

1110??