※現パロ





 キミは歌が好きだから。





キミの歌





「俺さー」

「ん?どうかした?」

「お前が好きだわ」


 声が、顔が、体が、心が、手が、瞳が、全てが。俺を引き付けて離さない。


「なに、いきなり。なんか変なものでも食べた?」

「ばっか、俺の食うもんは全部お前が作ってんだろ」

「まあ、そうなんだけど…でも、もしってこともあるじゃない?どうしても足りなくて拾い食いしちゃった、とか」

「お前、素直に喜べよ」

「あはは、ありがとね、ちかちゃん。お礼に今夜はちかちゃんの好きなもの作ってあげるよ」

「いつも俺の好きなもんばっかじゃねえか」

「うん、だって私ちかちゃんの喜ぶ顔好きだもん」

「…そういうとこが、好きだぜ」

「ありがと。私もちかちゃん、好きよ」


 上機嫌に歌を口ずさみながら洗濯物をたたむなまえ。ああ、心地いいメロディー。

 好きだ、好きだ、さっきよりもずっと今の方が、好きだ。時が経つにつれて愛おしくなる。幸せすぎて、どうにかなっちまいそうなぐらい。


「そうだちかちゃん、今夜は三日月だよ」

「んあ?それがどうかしたか?」

「私、三日月って好きなんだ」

「この前の半月ん時も満月ん時も言ってたな」

「ふふ、月が好きなの。毎日、ちょっとずつ変わっていくじゃない?満ちては欠けて、欠けては満ちて。この世界に変わらないものなんてないに等しいけれど、月って如実にそのことを示してると思うのよね。だから私は月が好きなのよ」


 また、歌を口ずさむ。聴いてると胸が暖かくなる。なまえからは愛を感じる。全身から俺を好きだと滲み出ている、気がする。


 洗濯物をたたみ終えたなまえが、その足でクローゼットにしまいに行く。きい、と開けると、不意に香るにおい。いつもなまえの服から香るにおい。いつからか俺の服からも香るにおい。安心する。

 ああ、俺はきっとそのうち、なまえが好きすぎてどうにかなっちまうんだ。鬼が、ここまで一人の女に骨抜きにされるたあ情けねえぜ。だがそれが心地いいと、悪くねえと感じてる俺は…嫌いじゃねえ。

 この髪も、目も、大っ嫌いだったのに。なまえが一言好きと言ってくれただけで、それだけで好きになった。今の俺は…あの頃の俺とは似ても似つかないほど丸くなっちまった。だがそれもやっぱり、悪かねえと思ってる。

 ああ、もう手遅れだ。助けてなんて欲しくはないけどな。


「さ、じゃあお買い物行こっかな!ちかちゃん、一緒にきてくれる?」

「たりめーよ。言われなくたって行くっての」

「ありがと、ちかちゃん」

「おう。俺、車用意してくっから。お前は準備してからゆっくり来いよ」

「あ、待ってちかちゃん。歩いて行かない?」

「歩いて?」

「うん。ね、いいでしょ?」

「まあ、別にいいけどよ…どうかしたか?」

「ううん、ただなんとなく。お散歩も兼ねて、ちかちゃんと歩きたいな、って」

「…そ、っか。なら歩いてくか」

「うん!支度するから、ちょっと待っててね」


 ぱたぱたとスリッパの音を立てて部屋に入ってくなまえ。ああもう、ゆっくりでいいってのに、転んで怪我でもしたらどうすんだ。でもそんなところも好きだと思っちまってる俺は、相当重傷だな、なんて。

 昔の俺はいろんな意味でどこ行っちまったんだろうな。姫だとかいわれてた俺も、鬼といわれて荒ぐれてる俺も、なまえの前ではただの長曾我部元親でいられる。これがこいつのすげえとこなんだろうな。

 放したくない。離れたくない。手放してしまったら俺は俺でいられなくなる。ああ、こんなにも俺はお前に溺れてら。


「ちかちゃん、お待たせ!」

「おう、んじゃ、行くか」

「うん」







時間が立ち過ぎて書けなくなった

キミの歌/CONNECT

110815