※宗像家捏造
※愛称のところにお名前をカタカナで入れてください。そうですアンナちゃん用です。
十束多々良という男の続き





 冬独特の少し曇った低い空。冷たい空気が身体を冷やす。寒さに震えると、エスコートをしてくれていた礼ちゃんがマフラーを巻いてくれた。スマートでかっこいい。


「これから身体を冷やすのは絶対に避けることだ。安定期に入るまでは外出も控えて、大学も休学届けを…」

「だから礼ちゃん。安静も必要だけど、適度な運動も必要だって言っていたでしょう?大学はギリギリまで休みません。それにもうすぐ休みになるんだし、無茶はしないわ」

「しかし…」


 バーに行ってから3日後の今日、身体に異変を感じた私を礼ちゃんが自ら病院に連れてきてくれていた。結果はなんと妊娠。その報せを受けてから、礼ちゃんは増して過保護になってしまった。もちろん心配してくれることは嬉しく思うんだけど、過ぎたるは猶及ばざるが如し。普段冷静な礼ちゃんがこんな風になってるのは、面白くもあるんだけど。


「もういいから、早く帰ろう?今日は普通にお仕事だったんでしょ?世理ちゃんたちきっと困ってるよ」

「…はあ、仕方ないな」


 礼ちゃんは一つため息をついて、止めていた足を動かした。私もそれに従って、礼ちゃんの隣を歩く。手を握ったら握り返してくれた。とても、胸が暖かくなる。


『ありがとう』

「どういたしまして」

『愛してる』

「…ありがとう」

「フェアじゃないな」

「…ずるい、口に出してよ」

「愛してるよ」

「……私も」

「聞こえないな」

「…大好きよ、礼ちゃんだけ、愛してる。私は、礼ちゃんの特別な存在でいられてすごく嬉しい。ありがとう、礼ちゃん」


 自分で言っておきながら恥ずかしくなって、ちらっと礼ちゃんを盗み見ると、耳や頬が少し赤くなっていた。礼ちゃんに限って照れてるだなんて、そんなことあるのかな。寒いからかな。…もし照れてるんだったら、可愛いな。

 私にだけそっと聞こえた言葉は、暖かい気持ちと一緒に大事にしまっておこう。今この瞬間、私たちが世界で一番幸せだった。




「よい、しょ…っと、」

『は、ちょ、バッカじゃねーの!?』

「おい、お前何やってんだ」

「あ、猿比古ー。何って、荷物運んでるんだよ。見て分かるでしょ」

『こいつなんでこんなに呑気なんだよ』

「お前な、そんなもん持って転けでもしたらどうすんだよ。そんな雑用、そこらの暇そうなやつに頼め」

「え、でも普段からやってることだし、これ礼ちゃんの趣味の物だよ?お仕事に関係ないのに頼むのは気が引けるし」

「…じゃあ俺が持ってくから。お前に今無茶されたらこっちが困るんだよ。ほら貸せ」


「へっくち」

「なまえちゃん体冷やしたらダメだよ!?」

「日高さん。…花粉症ですよ」


「あ…」

「うわああああ!?ちょっとなまえさんなにやってるんですか!?安静にして!部屋から出ないでください!」

「大丈夫ですって秋山さん」

「何を言ってるんですか、今転けそうになってたのに!?」

「大袈裟ですよ。ちょっと躓いただけですし、そんなに簡単に転びませんって」




「と、いうわけでして、誠に申し訳ないんですが、抜け出すのが非常に難しくなってしまいましてですね…」

「いやいやいや、それは本当に安静にしてもらわなあかんって!大体なまえちゃんは自分の危険を省みんとこが」

「Nick name、ここに赤ちゃんいるの?」

「うん、そうだよ。産まれるのは来年の夏前くらいかなー」

「聞いて!」


 前にも増して過保護になってしまったみんなの目を盗んでなんとかバーに着くと、ここでも草薙さんからお説教をもらってしまった。話半分にアンナちゃんとおしゃべりをしていると、背後から刺さるような視線を感じた。なんだろう、と思って振り返ると、そこには顔を真っ赤にした八田くんの姿があった。


「どうしたの八田くん、熱でもある?」

「いっいや、別に!?なんつーかその、ど、同級生が母親とか、その…」


 真っ赤な顔のまま視線を宙に彷徨わせて、しどろもどろに言葉を探す八田くん。ちょっと面白い。彼は妊娠という事実に照れてるというか、戸惑ってるのかもしれない。まあ…あまり品のない言葉は使わないけど、なんといいますか。経験、なさそうだもんなあ。なんか八田くんは弟みたいだ。

 微笑ましい視線を、決して目が合うことのない八田くんにぶつけていると、お腹に違和感を感じた。目線を八田くんから真下にずらすと、アンナちゃんが私のお腹をぺたぺたと触っていた。かわいい。


「まだ全然分からないでしょう?」

「うん。何も聞こえない…」

「もう少し大きくなるまで待っててね」


 私のお腹に耳をつけ、そのままソファに寝転がったアンナちゃんの頭を撫でて、綺麗な髪を梳く。絡まることなくさらさらと流れていくその髪に、十束さんがお手入れしていたんだろうか、と感じた。

 アンナちゃんは幼くして両親を事故で亡くしていると聞いた。まだ親が必要だろうに、アンナちゃんの心に陰りを落としていないか心配になる。愛情は充分でも種類が問題だ。それにアンナちゃんは女の子だから、吠舞羅の人たちじゃ手に負えないことも、この先絶対に出てくる。そんな時に助けになれたらいい。

 私は吠舞羅にとっては一応敵だし、この先関係がどうなるかも分からない。だから親代わりになるとか、そんな無責任なことは言えない。言えないけど、アンナちゃんを大切に思う気持ちに変わりはないから。

 十束さんが大切にしてきたものを私も大切にしたい。私のことを優しいと言った十束さんの思いを、反故にしたくはなかった。


「はあ…まあそういうことやったら、無理に俺らに協力せんでもええよ」

「え?なに言ってるんですか?協力しますよ、十束さんのためですから」


 もちろん、無理しない範囲でですけど。そう言うと、草薙さんを筆頭に八田くんやら鎌本さんやらがわたわた慌て始めた。ああなんかデジャヴ。


 この前、バーに行った時、赤の王様は私に十束さん殺害の犯人探しの協力を求めてきた。犯人…つまりあの映像に映ってた、白髪の男の子。吠舞羅で探し出すから、確認して欲しい…そう説明してくれたのは草薙さんだった。私はそれに二つ返事で了承した。もちろん礼ちゃんには内緒で。

 白髪の男の子のことはセプター4も探している。無色の王、と名乗っていた彼のことは地上の支配者である黄金の王様も把握していないらしい。さらに十束さんが亡くなった辺りから第一王権者の白銀の王様と連絡がつかないらしくて、セプター4や吠舞羅に限らず王権者とその関係者はみんな俄かに騒ついてる。私には、よく分からないことなんだけど。

 もちろん、何も知らない一般人よりはとても多くの事情を知っていると思う。宗像家は元々名家で、次期当主である礼ちゃんが青の王になる前から黄金の王様との交流はあった。私にとってはおじいちゃんのような存在だし、何と言っても私のストレインとしての能力は、黄金の王様の人の「才」を最大限に引き出す能力によって目覚めたんだから。それによって私は、礼ちゃんが統治する前のセプター4にお世話になったこともある。けれどそれだけ。私自身はただの王の成り損ないで、夫となる人が王になったけど妃になるわけでもなく、クランズマンでもない。セプター4では差し詰め上司の配偶者ってだけで、あんな風に私に優しくしてくれなくたっていいのに、…みんな優しいと思う。

 私はストレインで礼ちゃんのお嫁さんになる身だけど、やっぱりそれだけで、言ってしまえば関係ないから、どんなに十束さんを殺した犯人を捕まえたくても捜査に協力できるわけじゃない。礼ちゃんは私のこの能力を利用してくれない。それは大切にされてる感じもして嬉しかったけど、淋しくもあって。だから吠舞羅の申し出はすごく有難かった。


「あの、無色の王と名乗った男の子。彼に接触さえできればあの日の真相が分かります」


 私の思考を読み取る能力には実はもう1段階上の使い方がある。すごく疲れるから滅多にやらないけど、こういうことにはうってつけだ。

 吠舞羅が総動員で探している、十束さんを殺した犯人。何としてでも見つけ出してもらわないといけない。利用するようで気が引けるけど、ギブアンドテイクの関係だし問題ない。


「………何ですか?草薙さん。止めても無駄ですよ?」

「ああ…そうみたいやな。けどほんっとうに、無理だけはしたらあかんで?」

「大丈夫、分かってますよ」


 過保護な草薙さんを安心させるようににっこりと笑って言うと、彼は深いため息をついて頭を抱えてしまった。…解せぬ。

「Nick name、赤ちゃんの名前、決めた?」

「ううん、まだまだ。男の子か女の子かも分からないから」

「そうなんだ…」

「男の子でも女の子でも、アンナちゃん遊んであげてくれる?」

「いいの?」

「もちろん」


 いつだって心配事や不安なことはたくさんあって、あれもこれもしなきゃいけなくて、ふと気を抜くと潰れてしまいそうになるけど、心が休まる場所だってちゃんとある。その場所を守るためにも、私は頑張らなきゃいけない。

 アンナちゃんのさらさらの髪を手で梳いて、私は自分のやるべきことを再確認した。







お久しぶりです室長。前半がクライマックス。もし同じ設定で劇場版の小話書くとしたら、もう産まれてるってことですね。
説明回というか整理回というか、そんな感じです。原作沿いません。

タイトルの○○という男、特に該当者がいなかったので一番多く喋ってた草薙さんにしました。なのでもしかしたら後に本当に草薙さんメインの草薙出雲という男2があるかもしれません。多分ないです。

140815



↓叱咤お願いします