「…サッカー。の、大会」

「そう、サッカー。面白いんだ。こっちの国はみんな好きさ」

「私はよく知らないわ。ジャッポーネではそう流行っていないんじゃないかしら」

「あれ、ジャッポーネの中学サッカーは今凄いって聞いたけど?」

「そうなの?…ああでも、宇宙人がサッカーの試合に負けた中学校を破壊していたような気がするわ」

「そのニュースなら俺も見たよ。というより、大丈夫か電話したじゃないか」

「…そう、だったかしら。そんなこともあったような……ああ、思い出したわ。夜中にかけてきた電話ね。時差を考慮しないなんて、貴方らしくないと思ったのよ」

「それだけ焦ってたんだよ。起こしたのは悪かったと思ってる……って、そうじゃないんだ。大会、大会だよ。来てくれるだろ?」

「私、ルールなんて知らないわ。それに貴方以外に知り合いもいないし」

「大丈夫、ルールは俺が教えるし、知り合いなんてすぐ出来る。チームメイトを紹介するよ」

「でも私は…」

「大丈夫、関係者用の席を用意するよ。そこに座るといい。そう騒がしくはないはずだよ。といっても、試合は白熱するものだけどね」

「…でも私には、貴方の姿もなにも、見えないのよ」

「見えないなら聞いていてよ。君の前でプレーすることに意味があるんだ」



 フィディオ・アルデナは私の婚約者である。といっても産まれる少し前に、親同士が決めたものだけれど。それでも私は彼のことが、多分恋愛感情で好きだったと思う。自惚れでなければ、彼も。

 私は赤ん坊の時に高熱を出して、全盲になった。後天性のそれは、然して先天性となんら変わりなく、私はこの目で見たであろうものはなにも憶えてはいなかった。当たり前のことだけれど。

 目の見えない私は、あまり目を開けることをしない。開けていても閉じていても目の前は真っ暗だから。私はいつしか目を開けることをやめてしまった。だって、虚しいじゃない。

 けれど私のこの目を、フィディオは好きだという。深い闇を閉じ込めたような色だという。闇、普段私が見ている唯一のもの。これが真っ暗、これが真っ黒、これが私の目の色。目の色が黒いから私は黒しか見えないのかしら、と言ったらフィディオは笑って、俺が真っ黒だったら君に見てもらえたのかな、と言った。貴方が真っ黒なら私にもきっと見えるでしょうけど、周りの黒に溶け込んでしまったらどれが貴方か分からないわ、と言えば、それでもいいんだよとフィディオは笑った。







フィディオってそこそこお金のあるお家の子なんじゃないかしら、という妄想から。
私は、盲目とか病弱とか怪我とかアルビノとか、そういったヒロインが好きみたいです。足りないものを愛で埋めたい。失礼な話かもしれませんが。

この後ライオコット島でルシェちゃんと仲良くなるはず。Kのおじさんとも接触するかも。
ヒロインの目はこの先も見えるようには、多分ならない。

130705
移動 131021



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