「アーサー、お兄様が結婚するのよ。運命的な出会いをして、刺激的な恋をして、そして、みんなに祝福されて結婚するの。私のお姉様になる方はとっても綺麗な方でね、アーサーもお会いになったから分かるでしょうけど、お母様にね、どことなく似ていらっしゃるの。なんて、私はお母様のこと、少しも覚えていないのだけれど。

 だって、ねえ、私、自分でもよく生まれたと思うわ。別居もして、夫婦仲なんてとっくに冷め切っていたでしょうに、ねえ、アーサーはその時のこと、よく知っているでしょう?それでもDNA鑑定で、私は確かにお父様とお母様の子だとでてきたのだから、驚きだわ。3回、3回よ?信じられなくて、3回も依頼したの、私個人で。その3回とも、同じ結果だった。びっくりしたわ。

 けれどお母様は私を産んですぐにお父様と離婚なさって、やっぱりそのすぐに亡くなってしまったでしょう?当時から今のお母様が私の母代わりだったけれど、生まれた時から王女として育ってきていたから、今更お父様と血が繋がっていないなんて言われても、違和感があるとも思っていたのよ。

 私が産まれた時、みんなが関心を持っていたのは、私の父親のことだけだったわ。その時にDNA鑑定をして、私とお父様の血の繋がりを証明したことはもちろん知っていた。けれど、信じられないこともあるのよ。信じていたけれどね。ああ、こんな言葉遊びがしたかったのではないのよ、ただ、そう、祝福をね、したいの、私も。


 ねえアーサー、私は誰と結婚するのかしら。お兄様みたいに恋愛結婚ができるかしら。そうであれば素敵よね。そうでなくとも、行き遅れる前にどなたかのところへ嫁がされるのでしょうけれど、そうなってしまうのであってもそれはそれでいいとも思っているのよ。どうせ好いた方と結ばれないのならば、ね。

 お祖母様と同じ名前の、偉大なかつての女王陛下。私はあの方が羨ましいの。あの方はまさしく一生を、アーサー、あなたに捧げたのよ。私はおそらく女王になれる立場でもなく、政治のことだってよく知らないわ。アーサーの隣に立ちたくても、それは叶うことなどないのよ。努力でどうにかならないこともこの世にはあるんだって、そんなこと知りたくなかったわ。でもこれが現実なのよね。

 アーサー、あなたに恋をしたレディは数しれないことでしょうけれど、あなたに恋をしたプリンセスはどのくらいいるのかしら。私はきっと、全員だと思うわ。だってあなたは私をプリンセスとして扱うと同時に、対等な立場としても扱ってくれるでしょう?そんな方はアーサー以外にいないもの。加えてあなたはこの国自身。そして一人の男性としても魅力あふれる存在。そんなあなたに恋をしないなんてそんなこと、できるわけがないわ。


 けれど、駄目ね。アーサーは私のことなんて、とんでもなく子供に見えるでしょう?お母様にしたって、お祖母様にしたってそうでしょう?だってあなたは、この国なんだもの。

 どうすればあなたの隣に立てるのかしら。どうすればあなたと共に生きていけるのかしら。私がこんなことを言うのは、酷く滑稽なことに思えるでしょう?私の誕生を、何の邪推もなく心から喜んでくれていたのは、あの当時はあなただけだったこと、私知っているのよ。

 幼い私に謂れのない非難が向かわないよう、耳に入れないよう、人を信じられるよう、愛を与えるため、とても忙しかった当時、あなたが私に特別にかかり切りになってくれていたことも、知っているわ。過激なゴシップに国民が惑わされないよう、私の姿を多く報道するよう根回ししてくれていたことも知っているの。

 あなたがそうやって特別に慈しんでくれたから、イングランドのお姫様は世界一愛に恵まれたお姫様だって、言われるようになった。あなたにとって、当たり前のことだけれど、国民のすべてが子どものようなもの、でしょう。その中でも私は格別に、子どもにしか思えないでしょう?お父様が嫉妬するほどに父親をしてくれたあなただもの。


 ねえアーサー、私は、あなたが私を愛してくれたから、国民に愛されるようになったのかしら。それとも、国民が愛してくれていたから、あなたも私を愛してくれたのかしら。ねえアーサー、あなたにはあなたの感情や意思があること、私分かっているわ。けれど、国民の意思にあなたが、あなたの意思に国民が、左右されることも知っているのよ。ねえアーサー。ねえ、アーサー」


「なんだ、My little princess」


「私はいつまであなたの小さなお姫様なの?」


「いつまでも。いつまでもお前は俺の可愛い姫だよ」


「アーサー、私アーサーより先に死んでしまうの。あなたは私が死んだあとで、私の知らないどなたかに、愛を囁くの?」


「どうだろうな。昔に惚れた女にそっくりだったら、つい口説くかもな」


「私、遠い昔の、お祖母様と同じ名前の女王陛下に、そんなに似ている?」


「………」


「答えてアーサー。私、傷つかないわ。むしろ、…光栄よ」


「………ああ、ぞっとするほどそっくりだよ。血なんか繋がっていないはずなのにな、髪も目も顔も声も雰囲気も、すべてがそっくりだ。まるで彼女そのものかと思うほど、外見は全く相違ない。中身は、お前の方がいくらか可愛げがあるが」


「ねえアーサー、最後に一つだけ答えて」


「…なんなりと、My little princess」



 私が死んだあと、あなたが愛を囁くその方は、一体誰に似ているの?



「My little princessに」



 ありがとう、ごめんなさい、そう呟いて、私の最初で最後の恋はそっと幕を下ろした。アーサーの、長い生涯の2度目の恋も、同時に、閉幕のベルを鳴らしたの。





薔薇に抱かれて死する人たちよ







いばらにいだかれてしするひとたちよ

 捏造・改竄・ご都合展開・史実ネタなどなどを大胆に含んでおります。アウトでしょうか、セウトでしょうか。ちらりと仄めかされた方々は言わずもがな、アーサーのところのロイヤルな方々です。ベイビーが楽しみでございますね。

 アーサーは女王陛下のお国なので、たとえ末姫でも王位継承権は当たり前に存在します。おそらく我が国みたいに騒いだり、あとから近い血で男児が生まれたからどうこう、ということはないだろうと思われます。王位継承順位がしっかりと定まっているからです。仮にこのお姫様がいらっしゃったら、今のところ継承権第4位となります。

 littleには意味が二つありますね。小さいと可愛いと。英語は苦手ですが、そういうところは好きです。

130705
移動 131021



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