※夢主男装してます





 私はずっとサッカーのために男装をしていて、そのせいで男と誤解されることが少なくなかった。というか、敢えてその誤解を解かなかった。マネージャーたちは鋭いもので会った瞬間に同性だということに気付いたそうだけど、他の部員は誰一人として気付かなかった。好都合だったので黙っておいた。



 公式戦は疎か練習試合もない、どころか人数も足りないサッカー部。頑張ってるキャプテンには悪いけど、私にはぴったりな場所だと思った。

 公式戦ができるようになって、私はベンチに引っ込むことになった。本来私のいる場ではないと思ったし、普通に考えて女子は公式戦に出られないのだし。部員の中には不思議に思う者もいたみたいだけど、私は敢えて気付かないふりをしてやり過ごした。監督は私の事情を知っていたのでその点は不器用な嘘を吐いて誤魔化してくれていたようだ。ピンチに駆け付けてくれたエース様を恨まないでもなかったけど、余計なことをしてくれたな、とは少し思ったりした。あとゴーグルマントの視線が、痛い。

 どういったわけか宇宙人を退治することになって、私は久しぶりに試合に出た。大阪には女の子だけのチームがあって、私はここに住めれば良かったのにと後悔した。後の祭り。宇宙人は人間だった。ゴーグルマントはやっぱり私を睨んで?いた。


 事件が起こった。学校に来いという手紙を受け取ったので行ってみると、日本代表の選考会だった。監督は私が女だと知っているはずなのに。わけが分からなくて監督を見ると、練習相手として、と私を紹介した。ホッとした反面悲しくなったのは、私だけの秘密にしておく。ゴーグルマントの視線は最早、私を射殺さんばかりに鋭くなっていた。




「みょうじ、お前はどうして選抜選手じゃないんだ」

「実力が伴ってないからだろう。私以外にも選ばれなかった人はたくさん、いる」

「思えばお前は公式戦にはでていない。何か理由があるのか」

「だから、私には実力がないって、ただそれだけだ」

「エイリア戦を見て、俺はそうは思わなかった」


 ゴーグルマントは。もういいか、鬼道は、私を疑っていた。ずっと、それこそ一番最初の練習試合からなんだろう。私が出れば目金のような初心者が出なくてもよかったわけで、まあ私が出たとしても試合経過は変わらなかったと思うけど、みんながあんなに傷つくこともなかったかもしれない。 すべてたらればだけれど、きっと、そうだったに違いない。知っている。私は醜くてずるい人間だ。


「鬼道、私は、ただサッカーができればいいんだよ」


 うそ。


「公式戦だとかそういう気負いをしたくない。好きなようにサッカーをしていたいんだ」


 うそ。もしそうなら男の子の格好なんてしなかった。もしそうなら木野や音無のようにマネージャーになった。


「日本代表選手の練習相手だなんて、最高だ」


 うそ。


「嘘だな」

「そうだよ、嘘だ。私は嘘つきだから」


 全部嘘だ。学ランを着て授業を受けていることも、こうして男の子としてサッカーをしていることも、そうやって生活していく中でできた友達も、全部嘘だ。

 …けれど、だからなんだというんだ。今更、どうすればいいっていうんだ。その内どうしたって女だと知られてしまう日がくるだろう。隠し通せなくなる日がくるだろう。ならそれまでは、嘘吐きでいいじゃないか。



 いいわけないじゃないか。限界だ。



「ずっと私は、みんなに嘘を吐いてきたんだ。それは今更変えられるものじゃない。鬼道も、気に、しないでくれないか」

 うそ。気付いてほしい。


「今までだって別段、私が嘘吐きで困ったことなんてなかっただろう。私だって困っちゃいない」


 うそ。助けてほしい。


「だから私のことは放っておいて、練習をした方がいいよ。相手になろうか?」


 うそ。もう嘘なんて吐きたくない。


「ねえ鬼道、」

「みょうじ」


 鬼道の口が私の名を呼ぶ。その目は、やっぱりゴーグルで見えないのだけど、少なくとも笑ってはいないのだろうと思った。

 胸が痛い。よもや病気なのではと疑ってしまうほど、気持ちの悪い痛み。この痛みに名前を付けるなら、罪悪感。このまま行くときっと張り裂ける。


「みょうじ、どうして教えてくれないんだ。お前にとって仲間は、そんな存在なのか」

「鬼道、なら君は、どうして知りたい。君にとって私は、どんな存在なんだ」


 鬼道。鬼道。鬼道、鬼道、鬼道。君はどうしていつも私を見ていたんだ。私からは君が見えないのに、君は君を隠してしまっているのに、誰に見られることもないのに、どうして私を見るの。どうして私に気付いたの。どうして見て見ぬふりをしてくれないの。そんなことをするから、私は、期待、してしまうじゃないか。

 鬼道なら、助けてくれるんじゃないかって。そんな、馬鹿みたいな期待、しちゃう。


「問い詰めたりして、悪かった。…少し頭を冷やしてくる」


 気まずそうにそう言って去っていく後ろ姿の、ひらひらとゆれる赤いマントを、掴もうとして、けれどあと少しのところで届かなくて、中途半端に空を握った手を降ろすと、なにか大切なものを失った時のように、言い表わせられない胸の騒つきが私を襲った。

 裏切られた気分だ。でも、勝手に期待したのは私だ。鬼道は悪くない。それなのに。


「みょうじちゃん、泣くなよなー。仕方ねーだろ、俺以外、男はみんな気付いてないんだし?鬼道クンなんて特に、サッカーしか知らないお坊ちゃんだぜ!無理だよ、諦めな。そのうち嫌でもバレんだから」

「……泣いてないよ」

「…俺が気付いただけじゃ、不満か?ま、そーだよな。ずっと一緒にいた仲間なんだろ。それなのに気付かないなんてヒデー話だよな!」

「不動は優しいね。今私は、不動のお陰で救われてるよ。大丈夫だ、みんなを嫌いになったりしない。ありがとう、不動」

「……………お前、馬鹿だよな」

「うん、知ってるよ」





テーゼの叫び声







ダブル司令塔の間で揺れる話を書き始めたつもりだった。
明王ちゃんのは友情です。もしくは同情。鬼道さんは分からぬ。狂ってほしい。

続けたら続きたい。

130310
加筆修正 131021



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