※夢主以外に女の子が出ます





 私が黄瀬くんを好きになったのはね、貴方がモデルだったからってわけじゃないの。そりゃあ黄瀬くんはとても綺麗な顔をしているから、好きになった理由の一つではあると思うけれど。それは認めましょう。けれどね黄瀬くん。黄瀬くん。

 貴方は、とても遠いね。




 私が黄瀬くんを好きになったとき、黄瀬くんにはもう既に恋人がいた。可愛い顔、声、体。適わないな、っていうのが素直な感想だった。中学からの仲だという二人はとてもお似合いで、私には割り込む余地もなかったし、あえて割り込もうとも思わなかった。

 私は、ヒロインではないから。

 世界には物語があって、物語には登場人物がいて、登場人物には役割がある。私には黄瀬くんの恋人という役割は与えられない。同じ学校のクラスメート、部活の先輩の妹、よくてお友達。それで十分、不満はない。


「なまえちゃん、これ、先輩から頼まれたの。渡しておくね」

「ありがとう、なずなちゃん。わざわざごめんね」

「いいのいいの!それよりさ、なまえちゃんもまた前みたいに手伝ってよ!なまえちゃんがいてくれたらあたし、すっごく嬉しいな」


 ああ、適わないなって思う瞬間。きっと彼女は私が黄瀬くんのことを好きだと知っても、こうして変わらず接してくれるのだろう。だから適ないっこないと思う。私はこうはなれないから。

 心が綺麗な人には、私はなれないから。


「うん、そうだね。冬の大会の時に手伝いにいくよ」

「ありがと!いっそマネージャーになってくれればいいのになあ。なまえちゃんと一緒にやるの楽しいからさ」


 綺麗なあなたといると、私の汚さが増して見える。輝くあなたといると、私は霞んで見えなくなる。惨めさは感じない。あるのはただの喪失感。私というものがすっぽりと抜け落ちたような感覚。私はあなたと黄瀬くんをただ眺めるだけ。

 こんな気持ちを知るくらいなら、黄瀬くんに恋なんてしなければよかった。会わなければよかった。好きになんてならなければよかった。そうしたら、黄瀬くんの隣を一時でも望んだりしなかった。そうしたら、私じゃ足りないって、私じゃその場所に似合わないって、思い知ったりしなかった。


「なずなちゃん、私、なずなちゃんのこと好きだよ」

「なあに、突然。あたしもなまえちゃん、大好き」

「あのね、黄瀬くんと、幸せにね。二人が幸せだと私も、嬉しい」

「なまえちゃん、どうしたの?さっきから少し変だよ」

「思ったことはすぐ伝えないと、後悔したくないの。ごめんね」

「ううん、びっくりしたけど嬉しい。ふふ、なまえちゃんだーい好きっ」


 黄瀬くんを好きになって。彼女のことも嫌いになれなくて好きになってしまって。黄瀬くんの幸せを望んで。黄瀬くんの幸せは彼女の幸せで。だから私は。




「ご紹介にあずかりました新婦の高校時代の友達です。新郎の涼太くんとも三年間クラスが同じで、あと兄がバスケ部の主将だったのもあり、お二人にはとっても仲良くしてもらっていました。私の一番の親友です。

 二人が会ったのは中学生の時で、私は高校からの付き合いなのでそこら辺は知らないのですが、高校では二人とも嫉妬する気も起きないくらい仲睦まじく、私はひたすら見守る役に撤していました。

 新婦には様々なものをもらいました。あたたかさや優しさや愛情や、ふんわりとした気持ちをたくさんもらいました。

 涼太くん、私の大切ななっちゃんを独り占めするんだから、絶対大事にしてください。なんて、涼太くんはとても優しい人だって私は知ってるので、大丈夫だって分かってるよ。お仕事のしすぎで身体壊して、なっちゃんを悲しませないでください。

 なっちゃん、なっちゃん幸せですか?私は今、最高に幸せです。大好きな二人の結婚が、こんなに嬉しいことだなんて知らなかったよ。これからもずーっと、幸せな二人でいてください。

 ご結婚、本当におめでとうございます」





オルタナティブイズミー
(代えのきく、私という存在)







はじめに、この先に後書きという名の解説がありますが、いつも以上に長くなってしまいましたので、読んでくださる方は心してお願いします。使用楽曲だけ知りたい方は、申し訳ありませんが一番下までスクロールお願いします。


傍観夢、というものの一例として、こうあるべきだと私の思うものを書いたつもりでした。脱線しましたが。
傍観夢というのは私の中で、キャラに関わらないこと、脇役であること、という定義付けがあります。私が傍観夢を書く際に気を付けていることでもあります。あくまで私の中でだけなので、他の方が書いている傍観主がキャラとがっつり関わっていたとしても、それはそれでいいのです。楽しければなんだっていいのです。

今回書いたこの話の主人公は、正規の夢主ではなく傍観主の位置にいる子です。なのでまあ、報われないといいますか、夢主には勝てないんですね。黄瀬くんとは友達になるのが限界です。そして残酷なことに、夢主の友達という位置も与えられました。だから彼女が結婚式で、こうして友人代表としてスピーチをしているのは、この物語にとってはトゥルーエンドというわけなのです。もちろん彼女にとってはハッピーエンドではありませんが、一重にバッドエンドというわけでもありません。そこがまた彼女の不幸な部分ですね。
一応笠松くんの妹、という位置も与えてみたのですが、だからどうこうということはなく、バスケ部との関わりを持つためのただのツールという形にしました。
正規の夢主、白咲なずなちゃんは、もうなんかもう完璧な感じのザ・夢主って感じの子です。ギャルゲのメインヒロインみたいな子です。中学は帝光で、軽い逆ハーな感じだったのではないかと。非の打ち所もない素晴らしい子です。性格を最悪にしようかと思ってましたが、この話を書く上でそれは違うと思ってやめました。

余談ですが、冒頭でも書いた通り、傍観夢というのは私の中で、キャラに関わらないこと、脇役であること、という定義付けがあります。そこで読んでくださっている方がいたら嬉しいのですが、拙宅には「君は野に咲く」というめだかボックスの連載夢があります。あの話は傍観夢、と銘打ってはいますが、この二つの定義付けとは大きく異なった話です。それは何故か?
私は小説を書く際、登場人物の役割というものに重点を置いて話を作ります。それはこの小説でも少し触れました。今回の主人公にはあえて脇役という役割を与えました。主人公なのに脇役です。その理由は既に語った通りです。
話を戻しまして、「君は野に咲く」の主人公、デフォルト名・野咲あざみは、めだかボックス世界に来る際に神様のような存在に“傍観主”という役割を与えられました。そしてライバルとして御吉野美桜は“逆ハー狙い”という役割を与えられました。要はバトってドンパチやって勝った方が逆ハー主になれますよ、って物語を、神様は望んだわけです。そして、読んでくださっている方はご存じの通り、そう簡単にはいかなかったわけです。
だからあの連載は傍観夢ではなく傍観夢“もどき”であり、あざみさんは傍観するつもりのない、与えられた役割なんて知ったこっちゃない傍観主なのです。純粋な傍観夢を求めていらしてくださった方には本当に申し訳ないです。私も最初は普通に神様が望んでたような話を書くつもりでしたがどうしてこうなったやら。

というわけで、長くなりましたがここまで読んでくださった方、ありがとうございました。後日別のページにも記載したいと思います。君は野に咲く等、他の連載も続きのストックはかなりあるので、そろそろちまちまアップしていきたいと思います。更新停滞すみません。あけましておめでとうございます。今年もマイペースに更新したいと思います。


隣人に光が差すとき/安藤裕子

130127
加筆修正 131021



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