※暴力表現、近親相姦表現注意





「どうして、貴方は、そうなの」


 姉は優しい人だ。


「貴方がサッカーなんてしていなければ、夕香がこんな風になることはなかった」


 姉は弱い人だ。


「それなのに、どうしてまた……どうしてサッカーなんて、できるというのよ」


 姉は寂しい人だ。




 母が亡くなってから、三つ年上の姉は俺たちの母代わりをせざるをえなくなった。家事は家政婦のフクさんがやってくれるけれど、その他の家計のことや地域的なこと、俺たちの学校のことなどは全部姉が面倒をみた。

 姉は一度も文句を言わないけれど、きっと苦しいのだと思う。感情の爆発した姉が俺に暴力を振るうようになったのは、妹が意識不明になって俺が転校して、けれどまたサッカーを始めてしまってからだった。

 妹がああなってしまう前の姉は、試合があると必ず来て応援してくれた。俺がなによりもサッカーを好きなことを認めてくれていた。だから家族が大好きな姉がこうなってしまったのは、紛れもなく俺のせいで、だからこそその償いも俺がすべきだと思った。


「姉さん、俺は、やっぱりサッカーが好きだよ」

「私は、嫌いだわ。サッカーも、サッカーをする貴方も」


 ぱん、と左頬をはたかれる。音ほど痛くはない。加減、はしていないと思う。ただ姉の腕は、人を傷つけるにはあまりに非力すぎるから。罵倒の言葉も姉には滑稽なほど似合わなかった。

 優しくて弱くて、それでいて、それだから寂しい人だ。人を憎むのも誰かを嫌いになるのも慣れていない。醜い人間がいることを知らない。俺のせいで心の汚れる姉を見るのは、とても愉快だった。

 純粋な姉を守りたいと思う気持ちと、汚してしまいたいと思う気持ちと。相反する二つの気持ちがぐちゃぐちゃに混ざり合って、結果、俺は姉のささやかな暴力を償いの意味もこめて受け入れることにした。

 痛いからやめてくれと言えば、姉は我にかえって泣いて謝るだろう。そして自分を責める。そんなのは不愉快だ。妹が意識を閉ざしてからずっと妹ばかりに目をかけている姉を、唯一独占できる時間。それがなくなるのはとても不愉快だ。だから俺は今日も


「俺は、サッカーを嫌いな姉さんも、俺を嫌いな姉さんも、大好きだよ」


 姉のためにボールを蹴ろう。





くらい心でなにを見てるの






くらい=暗い、Cry
豪炎寺はたぶんお姉ちゃんが好き。恋愛感情で。
1期のサッカー再開してちょっとした頃の話。

虐待って、抵抗する能力のない人に一方的にするものだと思います。やり返したら喧嘩、大勢で寄ってたかってしたら虐め。喧嘩は対等、虐待は一方的、虐めは優劣。
豪炎寺は抵抗する気がないので虐待にしました。任意の虐待。可笑しな話ですが。

121109
加筆修正 131021



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