父が死んだ。私のことなど何一つ知らないで、サッカーへの復讐と鬼道有人がなにより大切だった父が死んだ。

 犯罪者の父の死は大きく報道された。身内がほとんど参列しない葬式は細々と終わった。棺の中に父はいなかった。私の心に開いた穴は埋まりそうもなかった。




「貴方はいいわ、愛された。でも私は?女だからと見向きもされず、追い掛けてもあしらわれ、抱き上げられた記憶も、笑いかけられた思い出さえも何一つなく、ただひたすら待ち続けることしかできなくて、けれどついにただの一度だって帰ってくることはなかった。私は変える場所にすらなれなかった。滑稽よね、私の待つ家なんてあの人にはどうでもよかったんだわ!だから私のことだってどうでもよかったのよ。ねえ鬼道有人、貴方に私のこの惨めさが分かる?利用さえしてもらえなかった私のこの、無価値の烙印を捺された、総てに否定されたような疎外感が、貴方に分かる?いいえ分かるはずがないわ!だって貴方は、」


だって貴方はあの人に愛されていたのだから。


 馬鹿みたいに声を荒げて、頭が痛くなって、私は泣いているんだと気付いた。どうして泣いてるのか分からない。父が死んだことに戸惑いはあった。けれどそこに悲しみはなかった。当たり前だ、悲しむほどの思い出なんてない。私はいつだって私に背を向ける、あの人の背中しか知らなかった。あの人の目に私が映ったことなんてきっと、ない。

 私は鬼道有人が羨ましかった。理由なんて惨めすぎて改めて述べたくもないけれど、一番にあの人にとってどうでもいい人間ではなかったから。

 私はあの人にとってどうでもいい存在だった。あの人が逮捕された時に面会に行った。会うならば今しかないと思ったから。あの人はちらりと私を見てそれからすぐに逸らし、なぜ来たのかと問うた。会いたかったからと答えれば帰れと言われた。お前に用はないと言われた。私は泣きながら家路についた。

 その翌日あの人は釈放された。きっと、用がある人によって。


「私はねぇ、馬鹿みたいに使い捨てられるだけでもよかったの。利用価値があるって少しでも、思ってくれればよかったの。あの人に父を求めるなんてもう小さい昔に諦めたわ、だからせめて、」


 その先は言葉にできなかった。せめて。そのせめても私には叶わなかった。これからも叶うことはない。だってあの人、死んだもの。



 鬼道有人は口を開いた。


「俺がお前を愛そう」


 鬼道有人は続けて言う。

「お前はただ愛が欲しかっただけだ。俺はお前に愛を与えられる。お前も俺を愛せばいい」


 鬼道有人は尚も続ける。


「だから死ぬのはやめたほうがいい」


 鬼道有人は私を抱きしめた。心地の悪い他人の体温。それなのに私は、ついに振りほどくことはできなかった。




 それで結局、二人は数年後に結婚したんだって。女の子は男の子に依存したみたい。もうすぐ子供も産まれるよ。

 ここだけの話。本当はね、男の子は知ってたんだって。女の子があの人に愛されてたって。でもね、男の子は、初めて女の子を見た時に彼女に恋をしたんだって。だから本当のことを教えてあげなかったんだって。でも二人とも幸せそうだし、僕としては別にいいかなって思うんだ。

 え、誰のことって?……僕の従姉と、その旦那さんのお話。





故意下心に潜んで相成れば







下心が恋、真心は愛。じゃあ上心ってあるんでしょうか。
タイトルは口に出して読んでもらえれば分かると思いますが、完全に語感重視です。(こいしたこころにひそんであいなれば)恋した心に潜んで愛なれば
心の隙に付け込んだからそうなった≠恋心が時間が経つにつれ愛に変わった

最後は輝くん。そして影山の血が入った鬼道家→キラード博士という流れ……完全にここからの妄想です。だってあの顔…

○○×影山娘としてあとフィディオを考えています。考えてるだけですけど。

グランドファーザーだとか黒岩流星だとかいうのが出てきたので少し修正しました。

120718
加筆修正 131021



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