※少し暴力/殺人表現あり





 済まない、悪かった、愚かだった、間違っていた、許してくれ。そう言って後輩の私に頭を下げた先輩たち。立派に罪を認めた先輩たち。

 私が一言、許しますと言えばこの話はハッピーエンドとなる。けれどそれは先輩たちだけであって、私にとってはノーマルエンド、天女に到っては放っとけばバッドエンドだろう。そんなのつまらない腑に落ちない納得できない。私はこれまでただの逆恨みで散々苦しんだ悲しんだ辛かった痛め付けられた死にたくなった、その私がノーマルエンドだなんて、とっても不公平だわ。

 だから私は慈愛に満ちた笑顔でこう言うの。


「お断わりします」





 空気が凍り付いたのがひしひしと伝わる。あら、あっさり許されるとでも思ったの?馬鹿ね、どれだけ都合のいい頭をしているんだか。ちゃんちゃら可笑しくてへそで茶が沸かせましてよ。

 冗談はこれくらいにして、私を散々苦しめた存在に制裁を加えるべく、口を開く。さあ、どうしてくれようか。


「今まで、私はとてつもないほどたくさんの傷を負いました。それは体に、それは心に、深い深い傷です。中には一生跡が残るものもありますし、心の傷など拭い去ることは到底できないでしょう、そのくらい、私は傷を負いました。他でもない、信頼と尊敬を向けていた貴方たち、先輩方によってです。それを許せるほど、私は人間ができていません」


 一つ一つ句切るように、主張するように言葉を紡ぐ。その顔、その申し訳なさそうに眉を下げた顔、それだけじゃ足りない。私が見たいのはそんな顔じゃない。もっともっともっと。

 ちら、と目の前の先輩たちを見渡す。それぞれ五発は殴っても釣りがくる、それくらいのことを私はされた。でも殴らない、決して私は手を出さない。冤罪というのは相手が潔白であればあるほど、罪悪感が募るものでしょう?


「ですが、誠意を持って後輩である私に頭を下げてくださった先輩方を無下にできるほど、私は鬼でもありません。これまで、先輩方に優しくしていただいた恩もあります」


 自然と俯いていた顔を上げ、希望を見いだしたような明るい顔を向けられる。…貴方たち仮にも忍者でしょう、そんなにころころと表情を変えて付け入る隙を与えるなんて、向いてないのではなくて?まあ、天女に騙されて手玉に取られた時点で忍者失格だけれども。ああ情けない人たちだこと。

 呆れと失望を悟られぬようにひとつ軽くため息を吐いて、阿呆みたいな顔をした先輩たちを見据える。そういえば天女はどうなっているのだろう、と思い出しそちらにちらりと視線を遣ったら、未だ綾部に地面に這いつくばるようにして抑えつけられていた。潰れた蛙みたい、ああ蛙に失礼ねとどうでもいいことを考えた。


「先輩。そもそも、何が、いけなかったのでしょうね?ねえ、立花先輩」


 にっこりと優しく微笑んで、一番近くにいた立花先輩に声をかける。嬉しそうにしないで、馬鹿みたい。

 どう思いますか、と再度問いかけると、憎々しいといった面持ちで天女さえ来なければ、と言った。それに賛同した他の先輩方も口々にそうだ、と声を上げる。ああ、あああ馬鹿みたい馬鹿みたい、馬鹿ばかり。でもこれでいいの。私が尊敬していた先輩は、あの日、みんな死んだのだから。


「そう、ですよね。私もそう思います。……先輩、私から提案があります。天女様に、天にお帰りいただいてはいかがでしょうか?」


 私の提案を聞いて、天女が俄かに騒ぎ出す。といっても綾部がしっかりと抑えている上に口には猿轡を噛ませているのだから、なんとも情けない騒ぎ方だけど。
 そんな情けない生物を冷ややかな目で見下して、頭をひとつ殴りつけて、綾部は口を開いた。


「…肉体から魂を切り離せば、自然と帰ってくれると思いまーす」


 死刑宣告に真っ青になって涙を流す売女にも優しく微笑む。おかしくておかしくて、笑いが止まらない。

 先輩方と平と田村、五年の先輩方に引きずられて裏山の方へと姿を消して行く売女を見て、そんなに早く心変わりができるなんて流石忍者と感心すればいいのか、これまで天女と過ごした楽しかっただろう時間も決して幻ではないのに、どうしてそんなに早く切り捨てられるのだろうと人間性を疑えばいいのか、私にはもうよく分からなかった。

 おかしくて、おかしくて、涙が止まらない。私が泣いた時に慰めてくれる深緑は、たったの一人もいなかった。そのことが悲しくて、私はまた泣いた。やっぱり私にハッピーエンドは無理だったの。だっていくら天女が天に帰ったって、あの幸せだった日々は、もう、帰ってくることなどないのだから。





微かに煙ったほの赤い記憶が私を燻らせる







天女討伐夢を書きたかった。
味方はあーやとタカ丸さんと下級生とくのたま、中立は教師と五年生、あとは敵。
天女が投下された時点で、もう幸せとかは無理なんじゃないかな。

120???
加筆修正 131020



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