多分きっと、愛してた。ぽつりと零すように落とされた言葉は、発車のベルがけたたましく鳴る車内にあっても、聞き間違う隙もないほど酷くクリアに聞こえた。

 驚いて顔を上げると目には既に過ぎてゆくホームが映って、慌てて後方に顔を向ければ彼女はいつもの笑顔で僕に手を振っていた。結局困惑したままだった僕は、その手に振り返すことはできなかった。それでも彼女は優しく笑っていた。僕が見えなくなってもまだ彼女のいる方を見ていたように、彼女もきっと、僕が見えなくなってもそこに佇んでいたんだろう。

 もっとかける言葉があっただろう。言っておかなきゃいけないことがあっただろう。彼女のあの一言のように、大事なことを。けれど僕がそれを思うには、もう全部遅かった。

 だって電車は止まらない。僕は怖くて降りられないし、彼女はもう乗り込めない。どんどんと僕が僕から遠ざかって行くようだ、と思った。


 色々あってアカデミーを卒業してヒーローになって、けれど故郷に帰る勇気のない僕は、やっぱりあれから一度も、彼女に会えないでいる。

 だから記憶の中の幼い彼女は僕に手を振ったままで、遠くから、僕を見ているだけ。近づくこともできずにだんだんと遠ざかって行くだけ。



 彼女とは所謂、幼なじみという関係だった。小さい時からいつも一緒で、互いが互いを一番分かっている、そんな存在。趣味や好きなもの、考え方なんかは似通ってる部分もあれば正反対の部分もいっぱいあったけど、それでも僕と彼女はとても仲が良かった。僕がNEXTだと分かった時も、周りの他人みたいに数奇の目で見たりしなかったし、なによりすごく喜んでくれた。すごいと褒めてくれた。僕は彼女が大好きだった。

 ヒーローになりたくてアカデミーに入るつもりだ、そう進路用紙を前に告げた時も、彼女は喜んで応援してくれた。両親と担任教師以外では、彼女だけが背中を押してくれた。NEXTのせいで辛かった時も嫌だった時も悲しかった時も、彼女は傍にいて励ましてくれた。喧嘩も大きなものから小さなものまで数えきれないほどしたけど、それでも彼女はずっと傍にいてくれた。僕にとって彼女はなくてはならない存在だった。

 アカデミーに入学するため、国を離れることになった。両親は仕事で来れなかったけど、彼女だけは見送りに来てくれた。ヒーローになるまでは帰ってこないこと、ヒーローになったら帰る暇のないくらい働くこと。そう少し淋しそうな笑顔で言って、向こうでの生活のことを色々注意されて、時間が来て発車のベルが鳴ってそれで、


多分きっと、愛してた。


 僕の気付いてなかった恋心に火を点けていった。





「それがきっと、僕の初恋です」

「きっと?」

「はい。その時初めて気付いたんです。僕は多分、そういう感情も知らない幼い頃にはもう彼女を好きになっていて、それは当たり前のことだったから、気付かないままだったんだって。……これで僕の話は終わりです。何も面白いことなんかなかったでしょう?」

「いーや、折紙の話が一番だったわ!ね、ファイヤーエンブレム?」

「そうねぇ、そうなると最下位はハンサムかしら。初恋の話を聞いてるのにまだだなんて、論外だわ」


 休憩の合間のブルーローズさんの思い付きによる初恋暴露は、こうして思いがけない一番をもらって幕を閉じた。ちなみにバーナビーさんは何となく不満そうな顔をしていたけど、仕方ないと思う。





あたたかな雪の思い出







名前的にロシアンかなと思って。
dustから格上げするのにどうしようかなと思ったけど、特に入れるエピソードがなかったので敢えてあまり変えませんでした。ヒロインと再会も考えたのですが、しっくりこなかったので。初恋は叶わないと言いますし…?
イワンくん雪降ってるイメージしかない。

120329
加筆修正 131020



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