※円夏要素あり





 自分のことを一番愛してくれる人と、自分が一番愛する人は、つまりイコールでは結ばれないのだと思う。

 この星には70億の人がいて、一番に巡り合える可能性はかなり薄い。そりゃもうクロワッサンの生地より薄い。大抵、巡り合うことなんてできずに人生は終わるんだ。…ま、調べることなんかできないから分かりっこないんだけどさ。


「私が言いたいこと、分かるかな?」

「うーん、難しくて分からないな!」

「だと思った。じゃあ円堂にも分かるように説明してあげる」


 例えばお空の上に、神様やら仏様やら非科学的な存在がいたとして、その存在が人の運命とか人生とかを決めているんだとして。つまり、全ては生まれてくる前にもう決まってるんだとして。

 私と、円堂がいる。仮に私を一番愛してくれる人が豪炎寺、私が一番愛せる人が鬼道だとする。仮に円堂を一番愛してくれる人が秋、円堂が一番愛せる人が春奈だとする。けれど私は豪炎寺とも鬼道とも会ったことがないし、これから会うこともない、そう決まっている。円堂も、また然り。

 私と円堂が出会う。私にとって円堂は248番目に愛してくれる人で、537番目に愛せる人だとする。円堂にとって私は338番目に愛してくれる人で、406番目に愛せる人だとする。70億から考えたら相当上。二人は運命的な出会いを果たしたと思って結ばれるの。

 でも真実はこう。私を一番愛してくれる人は豪炎寺だけど、私が一番愛せる人は鬼道で、鬼道が一番愛せる人は秋だけど、秋が一番愛せる人は円堂で、円堂が一番愛せる人は春奈だけど、春奈が一番愛せる人は豪炎寺で、豪炎寺が一番愛せる人は私。

 これは狭い世界での話だし、本当のところは誰にも分からないから確かめようもない。でも一つ分かることは、一番は決してイコールでは結ばれないってこと。順番通りに結ばれていたら、世の中に片思いなんてなくなるわ。貴方が好き、僕も君が好きだよ なんてすんなりいく告白は、どうせフィクションの中にしかないの。


「分かった?」

「いや…全然、さっぱりだ!」

「だと思った。円堂には難しすぎたね、ごめん」

「んー……なあ、」

「なに?休憩もうすぐ終わるけど」

「夏未が俺のこと好きだって」

「…     」





透明な赤い糸は千切った







確かめる術のない真実というものは一貫して神秘的でいいですね。あとクロワッサンの生地はほんと薄い
片思いだったのか違うのか、解釈はご自由に。

120228



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