※円夏、GL要素あり





「円堂くんは太陽みたいだ」


 そう言ったみょうじは酷く傷ついたような、悲しい顔をして笑っていて、俺はとても悪いことをしたような気持ちになったことを憶えている。


「明るくて元気でみんなを優しく照らす、太陽みたいだ」


 見間違えでなければきっと、泣いていたんだろう。高二の夏のことだった。





夏未ちゃんが、好きだったんだ。


 そう打ち明けたみょうじは泣いていた。顔を手で覆って、肩を震わせて、泣いていた。また俺が悪いことをしたような気持ちになったけれど、正真正銘俺は悪いことをしていた。なんだか泣きたくなった。

 少しして、落ち着いたみょうじが座ろうと言ったのでベンチに向かった。こうして鉄塔広場でふたりになったのはこれで三回目だろうか。一回目は中二、あの頃の俺は気付かなかったけど、敵視しながら俺と夏未の関係について聞いて、夏未の親友だと言って帰っていった。二回目は高二、泣きそうな顔で俺に太陽のようだと告げた。そして今回、三回目。どれもあまりいい思い出とはいえない気がするのが寂しい。

 すっとみょうじが息を吸った音がやけに大きく聞こえて、自分が柄にもなく緊張しているのが分かった。動悸が速くなる。冬なのに汗ばんでいる手のひらをズボンに擦り付けて、身構えるように唾を飲み込んだ。喉がやたら渇く。


「夏未ちゃんが好きだった。ずっと、ずーっと前から好きだった。私たち幼なじみだったの、知ってるでしょ?」

「…前にここで聞いたな。中二の時」

「そうだね、あの時は私、円堂くんのこと正直言って嫌いだったよ。突然夏未ちゃんのこと盗られた気分になって、面白くなかったから」


 その笑顔が作り物だと分かるくらいには、近しい存在として築き上げてきたものがあった。恋人の夏未とは違う、後輩の音無とは違う、サッカー仲間の秋やふゆっぺたちとは違う…言うなれば女友達というかライバルというか、そんな存在だった。だから分かるんだよ、笑ってないことくらい。気持ちにはまったく気付かなかったくせにな。


「ずっとね、大好きだったんだ…私には夏未ちゃんしかいなかったし、夏未ちゃんにも私しかいなかった。けど円堂くんは、とても簡単に夏未ちゃんの心に入っていったね」


夏未ちゃんの笑顔がひまわりみたいにぱっと明るいのは、私だけが知っていたのに。円堂くんはずるいや。


 また泣きだしたみょうじを見て苦しくなったけど、慰める資格なんて俺にはなかった。今まで辛かっただろう。辛くさせたのは俺だ。気付けなくてごめん。気付いてたら何かできたか?結局俺はみょうじを泣かすことしかできないだろう。気丈で頼りになって夏未にはすごく優しくていつも笑ってるみょうじを、泣かすことしかできないんだろう。水分がなくなりそう、と笑ったみょうじの笑顔は、やっぱり作り物だった。





「円堂くん知ってる?木星って太陽になれなかったんだって」

「木星?って、確か太陽系で一番デカいやつだっけ」

「そう、それ。木星がもう少し大きかったら、核融合反応が起こって第二の太陽になってたかもしれないって」

「へー、なんか残念だな」

「そうだね、でも仕方ないよ。太陽系の惑星をすべてあわせても木星のほうが大きいけれど、太陽と比べれば10分の1しかないんだから」


 最初から太陽になろうだなんて、おこがましいことだったのかもしれないね。そう言って笑った顔は本物だったけれど、俺は無性に誰かに縋りつきたくなった。どうすればよかったかなんて、きっと誰にも分からないのに。


「私は夏未ちゃんの太陽になれなかった」

「みょうじ」

「だって夏未ちゃんは円堂くんを見ているから。ひまわりは太陽の方を向くんだよ」


 幸せになってと笑うみょうじに、俺はこいつの幸せを奪ったんだと気付いた。高三の冬のことだった。





君は眩しい輝きを放つ





 君が明るすぎて私の光は霞んでしまったのかな。







夏未ちゃん嫁に来い。夏未ちゃん視点で続いたり続かなかったりするかもしれない

110821



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