好きな人がいました。けどあの人は私のことなんて、好きじゃなかったの。それでも私、好きでした。たぶん意地で好きでした。


「好きなの?」

「ううん、好きだったの。もう好きじゃないよ」

「そうなの?」

「そうなの」


 だってあの人は私のことなんて好きじゃないから。だからやめたのよ、だって悲しいじゃない。だって虚しいじゃない。どんなにどんなに好きでも愛してても、報われないなんて。見返りが見込めない愛は時間の無駄よ。それでもずっと、ずっとずっとずーっと大好きだったんだけれど。


「それで、誰だったの?みょうじの想い人はさ」

「内緒」


 ズルいと叫んだ友達を見て、ふと笑みが浮かぶ。あんたの彼氏だよ、ばーか。幸せになんかなるな。





「罰が当たったのかもしれない」

「ばち、ですか?」

「そう。今日こんなに仕事があるのは、私に罰が当たったからだわ。巻き込んでごめんね、柳くん」

「いえ、あの、みょうじさん何かしたんですか…?」


 控え目に、それでも好奇心は押さえきれなかったのか少し緊張しながら問うてくる柳くんは、今日同じく日直になったクラスメイト。仲が特別良いわけでも悪いわけでもない、会えば挨拶するし短いながらも会話は交わすけど、二人きりだと少し気まずくなるくらいの距離。可もなく不可もなく、普通のクラスメイトってやつね。だから資料室の整理を任されてしまった今の状況は、はっきりいって若干気まずい。

 そもそも気まずい原因には柳くんも少なからず関わっている。柳くんは俗にいうイケメンだ。鼻は高いし目は大きいし睫毛は長いし顔は小さいし声もイケメンだし性格も良いし敬語キャラだし眼鏡とかギャップだし名前も明音とか可愛さも兼ね備えてるしなんなの。そんなイケメン完璧人の柳くんは視界に入れるだけなら目の保養になるけど、接するとなると本当無理。緊張っていうかなんか無理。柳くんの人柄に関しては文句ないよ、いい人だと思うよ、けど無理。柳くんが無理っていうより綺麗な人が無理なんだろうな……あ、関わるのが、だけど。見てる分にはいいんだ。

 話が大幅に反れたけど、そんなこんなで今二人きり。逃れようにも逃れられない気まずさから脱するために口を開いてみたはいいけど、なんかもっとマシな話題なかったの自分。まあ別にいいけど、柳くん言い触らしたりするような人じゃなさそうだし。


「大したことじゃないんだけどね。ずっと好きだった人が、友達と付き合いだして。それで、幸せになんかならなきゃいいって思ったの」

「…そうだったん、ですか」

「ごめんねー、こんな暗い話でつまんないよね、ごめん」

「いえ、その…分かります。僕もフられたばかりなので」


 なんて控え目に笑うこのイケメン、気を遣ってくれたのかな。イケメンでもフられることってあるの…?だって柳くん勝ち組じゃん。どっからどう見ても勝ち組じゃん、女なんかより取り見取りじゃん。いや、柳くんそんな人じゃないと思うけど。これは私のイケメンに対する印象がいけないな。

 話を聞くと、一週間ほど前に好きだった子に告白したら、その子には彼氏がいたらしい。ああ、最初からフられるパターン。そりゃこんなイケメンのお眼鏡にかなうんだから、彼氏くらいいても不思議じゃないわ。誰だろう、レミちゃん?確か会長の仙石くんと付き合ってた気がする。違ったら申し訳ない。

 それにしても、じゃあ柳くんもこの一週間ひそかに傷心だったわけだ。親近感が湧くけど、できたらこんなことではごめんこうむりたい。同じクラスなのに全然知らなかったのは、私が彼とあまり仲が良くないからなのか彼が感情を隠すのが上手いからなのか。そんなこと考えたってなにになるわけでもないんだけど。




 それから私と柳くんの妙な関係が始まったりすることを、誰が予測できただろうか。誰もしねーよ。





どうせ友達止まりでしょうけど?





 だってお互いに恋愛に発展するような感情なんて発生するはずもないもの。







たぶん本当に友達止まりっていうか、友達でしかない関係
これを無理矢理くっつけようかどうか迷ってる

110818



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