「あ、えーと、谷原くん」

「…みょうじさん、でしたっけ」





PM01:37





「うん、みょうじなまえです」

「あ、谷原マキオです」

「席、空いてなくて。相席しても大丈夫かな?」

「大丈夫ですよ」

「ありがとう。同い年だよね?敬語、なくていいよ」

「あ、うん」


 今日も今日とて番号札5番は忘れ去られてた。昼時だし店混んでるし、しょうがないっちゃしょうがないんだろうけど、さっき店員は番号札7番のお客様を探してたような気がする。5番絶対呪われてる。腹へったよ畜生。

 そう俺が軽くうなだれてると、後ろから声をかけられた。振り向いてみると、京子さんの友達のみょうじさん。前に数回会ったことがある。まあお互いにかろうじて名前覚えてる程度の回数だけど。相席?どうぞどうぞ。京子さんだったら何も聞かずに座ってるよ。普通聞くよな。恐ろしくて言えねーけど。


「谷原くん、今日学校は?」

「あー、午前だけだった。みょうじさんは?」

「私も午前だけ。でも他はみんな1日でさ。谷原くんに会えてよかったな、一人だと淋しいもん」


 無意識なんだろうけど、そう言われてちょっとドキッとする。俺の周りにはいないタイプの女子で、なんか新鮮。女の子らしくて明るくて可愛くて、付き合うならこんな子がいい。彼女欲しい。

 なんかちょっと気恥ずかしくなって、みょうじさんの持ってたトレーに目を遣る。飲み物と、2番の番号札。ふざけろよ、一周してんじゃねーか…!


「…あれ、谷原くん、私より先に来てたよね?」


 ふと俺と同じようにトレーを見たのか、不思議そうに言うみょうじさん。ああ、大分ね、大分先に来てたよ。


「なんか、忘れられてるみたいで」


 はは、いつものことだししょうがないよ。そう言うと、ちょっと怒ったように眉間に皺を寄せてムッとなった。怒り顔に恐怖を感じないのは久しぶりだ。宮村は無表情で京子さんは笑顔も怖いけど。


「…なに頼んだの?」

「え?あ、てりやきのセット…」

「私、ちょっと文句言ってくる。こういうのは怒ったほうがいいよ」


 ますます不機嫌そうな顔になると、5番の札を持って立ち上がる。なんだかすごくギャップを感じる。こういうの、強く言えない人かと思ってた。芯のある人だったんだ。


「え、いやいい「番号札2番でお待ちのお客様〜」


 俺自分で行くから、と言う前に店員がやってきた。タイミング良いんだか悪いんだか。こっちにとっては好都合、あっちにとっては最悪なんだろうな。忘れたそっちが悪いんだけどさ。


「2番こっちです」

「はい、お待たせいたしました〜」

「あの、私よりも彼の方がずっと待ってるんですけど。5番、もう一周してるみたいですけど、随分と作るのに時間がかかるんですね?」


 ギャップ。これだけはっきりもの言える奴って、なかなかいない。進藤タイプは社交的だし京子さんタイプは女王様だから分かるけど、みょうじさんは大人しそうなのに。本当は京子さんみたいな性格だったりすんのかな。いや、刺々してないし、それはないと思いたい。俺の中で京子さんどんだけトラウマなんだ。

 そんなことをボーッと考えてたら、いつのまにか俺の前にはてりやきのセットとクーポンが置いてあった。てりやきあったかい。なんだよ、こんなに早く作れんじゃんかよ。謝る店員にもういいっすよと返して下がらせて、目の前を見る。みょうじさんはさっきまでと違ってにこにこ笑ってた。可愛い。


「よかったね、谷原くん」

「ああ、ありがと」

「どういたしまして!ああいうの、ちゃんと言わないとダメだよ?指摘してあげるのもお客さんの役目だもの」


 お腹すいちゃった、そう言って幸せそうにチーズバーガーにかじりつくみょうじさんに、胸のどっかからセンチな音がした。きゅんとか、鳴るもんなんだな。





PM01:37、恋に落ちる音がした








好きです谷原くん

101229



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