「御幸くんみたいな殿上人はどうか知らないけどさ、私みたいな平民は告白されるなんて大イベント、そうそうないんだから。屋上に呼び出されてとか、帰りに寄り道した公園でとか、テンプレだけどそういう感じの雰囲気でされたいなーって思い描いてたわけ、平民なりに」
「はあ」
「それなのにさ、殿上人様ときたら、自習中の騒がしい教室で、今日のお昼一緒に食べない?みたいなノリで『俺と付き合おうか?』ですって。付き合おうかってなにさ、付き合ってくださいじゃないのそこは、なんでそっちが付き合ってあげるみたいになってるの、違うでしょ?いや、喜んでお受けした私も私だけど」
「お前よく喋るな」
「大体、付き合おうかの前に言うことあるでしょ?ねえ御幸くんって私のこと好きなの?好きだから付き合おうとしたの?それとも女避け?カモフラージュのためなの?ねえ、どう思う?」
「好きじゃなきゃ告んねーだろ」
「ほんと?御幸くんにもそれほんとに当てはまってる?御幸くんって野球以外で好きとかあるの?もしかして私に対する好きがあるとして、それってハンバーグやエビフライが好きっていうのと同じ好きなんじゃないの?」
「あー…大丈夫、御幸ちゃんとお前のこと好きだから」
「えっ、根拠は?」
「御幸本人が言ってんだからそれで充分だろ」
「何を言ってるって?」
「だからお前のこと、好きだって。お前のいない時とかよく言ってる。野球部みんな知ってっし、なんなら監督たちも把握済み」
「は?どゆこと?なんで片岡先生たちまで?」
「そんだけ御幸がペラペラ喋ってっからだよ」
「え、それ本当に私のこと?別の人じゃない?そこらのアイドルとかじゃないの?」
「ヒャハハ、お前と同姓同名のアイドルが青道に通ってんならそっちかもなー」
「えー…だって…好きとか言われてない、一言も」
「……それは御幸が悪いな」
「だよね!?私の感覚ずれてないよね!?」
「おう、さすが自称平民」
「…あのね、平民はさ、平民だから王子様に憧れるわけ。あ、これは御幸くんのことを王子様って言ってるわけじゃなくてね。一般論として、子供の頃の延長線上として、王子様に憧れるの」
「いつか白馬に乗った王子様が迎えに来てくれる、ってやつか。ベタだな」
「ベタってことは王道ってことだからね!例に漏れず私も憧れてたの。でも小学生くらいでさ、王子様とかいるわけないって悟るのよ。ちょうど同じ頃にサンタさんの正体も知ったんだけど」
「大人の階段のぼっちまったんだな」
「二段一気にのぼっちゃったの」
「んで?王子はいないと悟って、でも夢持ってっから冒頭に戻る、ってか?」
「そう、告白には憧れてたの!なのに!」
「過ぎちまったものは仕方ない。プロポーズに夢見とけ」
「えっ、御幸くんからの?」
「や、性格の不一致は別れやすいらしいし、御幸にとらわれない方がいい」
「まじか。んー、プロポーズ……とりあえずフラッシュモブはやめて欲しいかな。断りづらい」
「断る前提かよ」
「なんていうか、周りを巻き込むのよくない。あとあれ、絶対無関係の人も見るじゃん。そんで写真撮ったり動画撮ったりしてツイッターにあげるじゃん。ああいうのがほんと嫌」
「それは分かる」
「告白もプロポーズもさ、雰囲気よければいいよ。言葉もシンプルでいいなー。『大好きだから結婚しよう』、くらいシンプルな方が真実味あっていいと思う」
「『毎日お味噌汁を作ってください』」
「採用」
「『この先もずっと一緒にいたい』」
「そう、それ」
「『お前以外考えられない』」
「倉持くん素晴らしい!パーフェクト!もういつでもプロポーズできるね!」
「じゃ、御幸に言っとくわ。あいつがこれでプロポーズしてきたら、思いっきり爆笑してやれよ」
「えっ」
「ヒャハ、変な顔」