偽りの群咲

刀剣乱舞夢。
連載とは別女夢主。(とはいいつつ、変換無し)
設定濃すぎるため注意。

─────────


「久我(くが)さん。ホームルームは終わったわよ? 」
 保健医が白いカーテンを開け、夜の帳を溶かしたような黒髪を肩で切り揃えた少女に声を掛けた。
 久我、と呼ばれた少女は頭の後ろで組んでいた手を解くと、目をぱっちりとひらいた。白い布団を剥いで起き上がると、赤い爪先の上履きの踵を踏んで履く。そして、布団の上に畳んでおいておいた黒のパーカーをワイシャツの上から羽織ると、カーテンから出て保健医に顔を向けた。
「いつも悪いね、センセ。私は社会不適合者なもんで。…あの教室は吐き気がする。不快だ。上手く考え事がまとまらない。」
「あなたはホントにクラスに馴染めないわねえ。先生、心配よ? 話してみれば意外とウマの合う子が居るかもしれないのに…。」
「ウマの合う連中はウチの人達で充分。外で作ろうとは思わないさ。…センセ以外はね。」
「あら、先生は特別? 嬉しいわ。」
「センセはウチの事を突っ込んで聞かないからね。ラクなのさ。…そして、私の思考の邪魔もしない。」
「久我さんが他の学生より難しいことを考えているのは見ていてわかるわよ。そんな時に水を差すようなことは言わないわ。人は誰しも思考し学ぶ生き物…若者の学びの邪魔はしないのが私の信条なの。あなたみたいな子は分からなかったらしっかり尋ねて来るもの。先生は、それを待っているだけよ。」
「それだけで充分だ。今後も私の邪魔をしないでくれよ。」
 少女は髪をサラリと耳に掛けると、スクールカバンを肩にかけて、保健室のドアを開けた。
「…じゃあね、センセ。また気が向いたらガッコに来るよ。」
「…あなたに言うのは無駄だけど、一応先生っぽいことを言うと、毎日来なさいな。あなたは、曲がりなりにも学生なんだから。」
 保健医は椅子に座ると、机に肘をついた。
 ドアを閉めようとした少女は、その言葉を一笑に付すと、片眉を上げて人を馬鹿にするような顔をして、一言吐き捨てた。
「センセのそーいうとこ、嫌いだな。」
  ―――バタン
「…嫌ねえ、最近の子供って。生意気で。」
 保健医はドアを見つめて一言呟くと、パソコンに向かった。
 生徒の様子を教師間で共有し、周知するファイルを開き、『久我 言葉(くが ことは)』のフォルダを開く。
 文章は担任と学年主任、保健医が加筆修正しながら打ち込んだものである。
 昨日の日付で新しく更新されていたため、保健医はそれに目を通した。
 
 
 入学一日目、二時間目より保健室に入り浸る孤立生徒。入学前より、保護者から「重度の気管支炎を持っている為、医者から運動する事を一切禁止されている」と通知があった。授業は体育以外はパソコンによる通信授業が主が故、保健室登校を黙認しているが、生徒間での評判は「気味が悪い」と良くない印象を与えている。久我言葉に関わる者が今のところ居ない故、特にイジメには発展していないものの、それも時間の問題だろう。教師間でもその年不相応なまでの老齢したような独特な性格を持て余しており、一線引いた対応を取らざるを得ない状況である。毎日登校せず、自宅での通信学習が主で、気が向いた時に保健室に登校している。どうにか他の生徒と同じようにクラスに登校しないものかと保護者に連絡を取るも、「最低限やらせてますので」と突っぱねられる。学校に登録されている自宅へ家庭訪問に行くも、対応を拒否されてしまったため、問題は本人の性格と共に、保護者によるネグレクトの可能性もあり。また、下校時に成人男性と帰る姿も目撃されることもあることから、『パパ活』などやましいことをしている可能性もある。今後の動向に注意が必要である。
 
 
「……ネグレクト? パパ活? そんなようには見えないけどねえ。あの子、何を隠しているんだか…。」
 保健医の言葉は、保健室の誰にも聞かれる事無く、白ばかりの部屋に小さく響いた。
 
 
 ◇
 
 
 少女が校門の前まで行くと、若い男の二人組が少女を待ちかまえていた。
「…待たせた、いつも悪いな。清光、安定。」
 少女は二人の肩を叩くと、加州清光と大和守安定の二人は振り向いた。
 男性の二人のうち、加州は黒のウールジャケットに黒のシャツ、赤のストール、下は黒のジーンズ姿。大和守は白のジージャンに生成色のハイネックセーター、下は色の薄いジーンズを履いている。
「迎えに行くのは、本丸の皆で決めた事でしょ。俺たちも、お嬢に何かあったら困るしさ。」
「お嬢を迎えに現代行くの、結構楽しみな人多いんだよ? 」
 加州と大和守は二人してそう言うと、少女と共に学校を背に歩き出した。二人とも、細い袋を肩にかけている。
「安定、現代への私のお迎えは旅行じゃあないんだぞ。どうせ現代の甘いもの目当てなんだろう? 」
 少女はため息をついて、下ろしていた髪を赤いヘアゴムで一つに結んだ。
 耳にあいた無数のピアスが露わになる。
「それもあるけど…髪を下ろした制服姿のお嬢を見れるしね? 」
 普段見れないんだから、これはお迎え役の特権なんだ。と大和守。
 お嬢、と呼ばれた少女は、パーカーのポケットからシルバーの指輪を幾つか出して指に填めながら、大和守の言葉にプッと吹き出した。
「…物好きめ。仕方ない。今日の私は機嫌がいいから大盤振る舞いだ。福壽堂の餡子プリンを買って帰ろう。」
「やったー! お嬢大好き! 」
「安定、それ好きだよねー。ね、お嬢。せっかく福壽堂行くんだから、セットのやつにしよ、帝塚山プレミアムパフェアイスついてるやつ。俺、パフェアイスの方が食べたい。」
「はいはい。分かった分かった。」
 少女は両手を顔の横まで上げて了承した。
 
 福壽堂で本丸全員分の甘味を大量に買い物をして、大和守と加州が紙袋を持っている。
 そして、『久我』と表札の出ている一際大きな武家家屋の門を潜ると、勝手知ったる順路で屋敷の裏手に回った。
 そこには小さな社と、向かい合わせの狐の石像が鎮座している。
 少女は狐の像を超えて社の正面に立つとその社に向かって手を出す。空間が水の波紋のように波打つと、その中にスッと入り込み、全身を進めて行った。加州と大和守も同様にして、空間に解けて消えていった。
 出てきたのは同じ社に狐の像が鎮座している場所。ただ、周りは桜並木が並んでおり、先程まで秋の終わりで木の葉が散り始めていたのに、こちらは常に桜が満開である。
 ―――本丸。
 そう呼ばれているこの敷地は、時間の狭間にあるのだ。先程までいた『現代』とは違い、ここには刀剣男士と呼ばれた『付喪神』と刀を顕現させられる『審神者』しか居られない。
 加州、大和守は『刀剣男士』、少女―――『久我言葉』は『審神者』なのだ。
 普通、審神者は刀剣男士を顕現させるため『主』と呼ばれるが、久我言葉―――審神者名『紫玄(しげん)』はこの本丸の審神者としては祖母から継いだ二代目の為、刀剣男士達からは敬愛と親しみを込めて『お嬢』と呼ばれている。
 
 桜並木を抜け、玄関をくぐると、一期一振が丁度目の前の廊下を通っていて、こちらに顔を向けた。
「ああ、お嬢。そろそろだと思っておりました。おかえりなさい。」
「ただいま。一週間空けて悪かった。こちらは変わりはないか? 」
「はい、変わりありませんでした。お嬢は学校で“てすと”でしたね…。学校は如何でしたか? 」
「相変わらず好かん。ほれ、お土産だ。」
 そう言って、加州が「じゃーん」と言い、大和守と紙袋を見せる。
「おお、福壽堂の甘味ですか! 皆が喜びますなあ。」
「だろうと思っていたよ。私は自室に行くから後は頼んだよ。食後にでも食べようじゃないか。」
 目を輝かせた一期一振は加州と大和守の紙袋を持つのを手伝い、二振りと共に厨に袋を置きに行った。
 紫玄は三振りと反対方向の廊下を歩き、審神者の部屋に入った。
 パーカーを脱ぎ捨て、リボンを取り、ワイシャツとスカートを脱ぐと、黒のフレアパンツと黒の開襟シャツに着替え、先まで着ていた物とは別の黒い生地に袖に白ラインの入ったビッグサイズのパーカーを羽織った。
 机に置いてあるパソコンの電源を入れ、網膜認証で「紫玄」を選択すると「ログイン」のボタンをクリックして、パソコンの横に置かれた花瓶に入った一輪の吾亦紅を一つなぞり、机から離れた。そうしているうちに、とっぷりと日も暮れたようだ。
「夕飯時か…。」
  ―――トントン
「入りなさい。」
 紫玄は吾亦紅から顔を上げ、入室を許可した。
 ス、と襖が開き、入ってきたのは小夜左文字だった。
「お嬢…今、大丈夫? 」 
「小夜。どうかしたか? 」
「夜ご飯、出来たって…。食べる? 」
「ああ。ありがとう。食べよう。」
 
 ―――ピピッ
 部屋を後にしようとしたところで、突然パソコンからメールが入った。
 すぐに紫玄は受信した文面を確認する。
「……小夜…残念だが、夕食は一緒に取れそうもないみたいだ。実家から呼び出されたので、一旦現代に戻る。」
「…そう…。誰か連れていく? 」
「そうだな…小夜、来るか? 」
「行っていいの? 」
 小夜は普段言われない一言に、三白眼ぎみな目が輝いた。
「学校に行くのでは無いんだ。大丈夫さ。」
 紫玄はなんて事ないふうに言うと、「一度現代に戻ることを伝えてから行くか」と言って、小夜と居間に向かった。
 居間へ向かう途中、小夜は前を歩く紫玄に質問をぶつける。
「お嬢……“実家”って何があるの? 」
「実家には家長になった姉と、両親がいるんだが…。なんだ、気になるのか? 」
「……お嬢はあまり“実家”の話しないから…。」
「…まあな。好きじゃない…学校の次に嫌いなところだ。特に、姉の婿になった奴がどうにもいけ好かん。」
 話をしていると、居間に着いた。
 紫玄は食事の準備で卓袱台拭きをしていた鯰尾藤四郎に声をかける。
「鯰尾、準備ご苦労様。長谷部は何処だか知ってるか? 」
「お嬢。…ん? あれ? 長谷部さんか…多分、厨かな? さっきまでここにいたんだけどー…。食事取りに行ったかも。お嬢、座って待ってていいよ? 」
「ああ。悪い、実家に呼び出されてしまってな。飯時を楽しみにしていた私としては、かなり腹が立つのだが、今から行かなきゃならん。そんなわけだから、近侍の長谷部に伝えなければと思ったんだが。」
「なら、おれが伝えときますよ! ご実家には誰か連れていきますか? 」
「すまないが伝えてくれ、ありがたい。連れは小夜だ。学校に行くのでは無いんだ、問題無いだろう? 」
「おれの一存ではなんとも言い難いですけど…まあ、大丈夫じゃないですかね? 」
「小夜だって立派な刀剣男子だ。問題ないだろう? じゃあ、伝えておいてくれ。……行ってくるよ。」
「行ってらっしゃーい。」 
 紫玄は、手を振って見送る鯰尾に後ろ手で手を挙げて挨拶し、玄関へ向かう。小夜も鯰尾へ手を振り、彼女のあとを追った。
 
 久我家の玄関に着いた紫玄は、溜息を一つ吐いて玄関に手を掛けた。
 隣りには青いトレーナーにベージュのハーフパンツに着替えた小夜左文字が控えている。
 ―――ガララッ
 引き戸を開けて、「…戻りました」と紫玄は言うと、パタパタパタと彼女と顔の似た着物の女性―――母親だろう―――が割烹着の裾で手を拭きながら迎え入れた。
「あらあらあらあら、言葉さん、お帰りなさい。急に呼び出してしまってごめんなさいね。慎之助さんが出張から戻ってきたから、皆集まってご飯でもと思ってね。」
 母親のその言葉に、分かりやすく顔を顰めた紫玄―――言葉はチッと舌打ちを鳴らした。
「……帰ります。」
 言葉は小夜の肩に手を回し、くるりと玄関を出ていこうとする。
「あらあら、何が気に入らないの? 慎之助さんも久しぶりに言葉さんに会いたいって言ってたのよ? 真実さんも、言葉さんにお話があるようだったし…。」
 『真実』という名前が出た瞬間、言葉の足が止まり、振り返る。
「姉さんが……言うなら、顔だけ出します。食事は入りません。姉さんと話したら帰りますから。」
 そう言って靴を脱いで、母親に続いて奥の間に進んだ。小夜ももたつきながらパタパタと続く。
 姉の部屋の前まで来ると、母親は「ご飯のお支度があるから…」と離れていき、言葉は息を吐いた。
 ―――トントン
「姉さん。言葉です。」
 扉の向こうから「お入り」と許され、襖を開くと、桜色の着物姿の女性が正座して待っていた。
「用ってなんです? 昨日まで私、居ましたよね? その時に済ませられなかったんですか? 」
「……まあ、お座りよ。」
 真実にそう言われ、座布団に正座する。
「……なんの用事です? 私は一秒でも早く向こうに帰りたいんです。」
 座りながら、言葉は顔を顰める。
「…これは久我家として、あなたに言わなきゃいけないことよ。」
「……だから、なんなんです、それは。早く言って姉さん。」
 言葉は急かす。
「…あなた、まさか『パパ活』なんてしてないわよね? 」
 突拍子のない姉の質問に、言葉は転けそうになった。
 ズッコケる、とはまさにこの事だ。
「は? なんです、それ…。どこのバカの情報ですか。するわけないでしょ。」
「…そうよね。まさかあなたがするわけないわよね…。」
 そう言って真実は悩ましげに頬に手をやって困った様だった。
「学校がね、校門の前に成人の男性が待ち伏せてて、言葉と一緒に帰ってるようだ。…なんて言うのよ…。」
 そう言って、真実はスマートフォンを取り出すと、一つの画像を見せた。
 それは、一文字則宗と言葉が校門で言葉を交わしているだろう画像だった。
 言葉は、はたと思い出した。
 覚えている。一週間ほど前に則宗が迎えに来た時のものだ。
「…姉さん…これはうちの刀剣男士です。現代に来る時は相応の服に着替え、刀は隠すよう伝えております。……人選を間違えました。」
「学校にはそんなはずは無いので、放っておくように、と話してあるので、そんなに大事にはならないかと思うけれど。…人選は考えるのよ? 」
「……彼らがクジかなんかで勝手に決めてるんです。私にはどうすることも出来ません。」
「審神者はそんなに権限がないの? 」
「彼らには彼らのやり方がある。個性は大事にしたいので、できるだけ口は挟みたくないのが、私のやり方です。」
「…まあ、私もあなたのやり方を尊重したい身として、気持ちは分かるわ。……学校にははぐらかして伝えておくわ。“親戚です”と。あなたもなにかあったらそう伝えて頂戴ね。口裏を合わせるの、いい? 」
「…お手数、お掛けします。」
 頭を垂れる言葉に、真実は満足そうに頷くと、隅に控えていた小夜に顔を向けて、にこりとした。
「ごめんなさいね、刀剣男士さん。現代には現代のやり方があって、苦労かけるわね。……言葉ちゃんの事、よろしくね。」
「……はい。」
 小夜は小さな声で返事をした。
「じゃあ、ご飯にしましょう。」
 真実は手を叩くと立ち上がった。
「食事はしません。向こうで食べるので。私たちはこれで暇とします。…小夜、帰ろう。」
 そう言って言葉も立ち上がり、小夜に声をかける。
 襖の方に振り返ると、男性が立っていた。
「なーんだぁ。帰っちゃうの? 言葉っちー。」
 ワイシャツにスラックス姿の男がこちらに寄ってきて、真実の横に並ぶ。
「あら、慎之助さん。」
 真実の声が弾んだ。
「言葉ちゃん、帰ってしまうんですって。忙しい子だから仕方ないわよね。」
「とか言ってー、本当は向こうに好いた相手でもいるんでしょ? 言葉ちゃんもお年頃なんだからさあー。」
「…口は災いの元です、お義兄さん。気をつけた方がよろしいかと。…失礼します。」
「本当にいないのー? 俺ちゃん聞きたいなあ。あっちは男ばっかなんでしょ? 」
 慎之助は、出ていこうとする言葉の通せんぼをすると、嫁である真実の前で言葉の肩を撫でる。
「…やめてください。」
 言葉が慎之助を振り払おうとするが、彼の力は強かった。
「……それ以上、お嬢に近づくな。」
 言葉が嫌がっていると、小夜が慎之助の手首を力強く握って捻った。
「わお、今日はガードが硬いこった。参った、ギブギブ。」
 そう言って小夜の手を振り払うと両手をヒラヒラさせて真実に擦り寄った。
「…なんだあ、つまんねえ。」
 小さな低い声でぼそりと言うと、笑顔を貼り付けて、「真実ちゃん、行こうか。」と肩を組んで出ていこうとする。真実は「お見送り出来なくてごめんなさいね、言葉ちゃん。」と言い残して言葉の前から居なくなった。
 取り残された言葉は、ハァ、と溜息を吐いて小夜を見やった。
「……さっさと帰ろう、小夜。皆が待ってる本丸に。」
「……うん。そうだね、お嬢。」
 さっさと玄関で靴を履き、社を通って本丸に戻ってきた紫玄と小夜は、桜並木を肩を並べて歩いていた。
「…お嬢、あの男……。」
「……なんだ? 」
「……なんでもない…。」
「……そうか。話したい時に話してくれ。それでいい。」
「…話したいこと、ちゃんと纏まったら話すから…。」
「ああ。」
 玄関を二人で潜ると、長谷部が正座して待っていた。
「…お嬢、お待ちしておりました!無事でしたか!」
 物凄い圧で迫ってきた長谷部に思わず紫玄は吹き出して笑った。
「……嫌いとはいえ、実家に行っただけだぞ。取って食われるとこじゃない。」
「ですが!」
 大声で長谷部が騒ぎ立てるので、刀剣男士達が「お嬢帰ってきたんだ」と玄関にわらわらと顔を出した。
「…皆出てきてしまったじゃないか、長谷部。…無事に帰ってきたんだ、良しとしてくれ。それよりまだ福壽堂の餡子プリンは残ってるか? 」
「もちろん残っております!夕餉はどうされますか? 」
「もちろん食べるさ。悪いが今から用意をしてくれ。小夜の分も忘れないでくれよ? 今日の功労者だ。」
「やはり何かあったのですか!? 」
「なに、露払いが上手かったのさ。みんなにも見せたかった。小夜は男前だな。」
 ははは、と紫玄は笑って小夜の肩を叩くと、小夜は恥ずかしそうに先に玄関を上がっていってしまった。
 そして、くるりと紫玄と顔を合わせ、「……当たり前のことをした、だけだよ…。」と、ぼそりと言い残し、人混みを掻き分けて廊下の奥へと居なくなった。
「ふふ、一番かっこいい台詞を知っているじゃないか。皆、見習いたまえ。」
 そう言って紫玄も靴を脱いで玄関に上がった。
 
 

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