君とプリンを

正義が出勤すると、すでにリチャードはソファーに掛けていた。
なにか、チラチラと奥の部屋を気に掛けていたが、それ以外はいつも通りのリチャードだ。
それから予約の客を対応し終え、リチャードが宝石を片付けに部屋の奥へ行った。
それを見送った正義はお客さんとリチャードが飲んだカップを片付け、にキッチンに行こうとしたところで、奥の部屋からリチャードの声が聞こえてきた。何語かは分からないが、誰かと話しているようだった。

(…電話か?)

いや…それにしては、今日は妙に奥の部屋を気にしていた。
誰かいるのだろうか。
奥の部屋で大きな溜息が聞こえ、呆れた声で「カモン」と聞こえた。
リチャードが奥の部屋から戻ってきた。
…なんか、すんごい美人の子供を連れて。

「…まだカップを片付けてなかったんですか、正義」
「あ、いや、なんか話し声が聞こえてきて…立ち聞きってほど聞こえなかったけど。今朝からリチャード、奥の部屋を気にしてたみたいだし…誰かいるのかって思って」
「言いそびれていたんです。あの部屋から出すつもりはありませんでしたから、会わせるつもりも無かったんですが。…彼が、『一人で居たくない』なんて珍しく言い出すものですから」
「彼?…お、女の子じゃないのか!?」

正義は目を見張った。リチャードの斜め後ろにいる、リチャードのスーツをキュッと掴んだ美少年。身長はリチャードのお腹くらいの背丈。10歳くらいだろうか。
肩につくくらいのリチャードより色素の薄い金髪。ストレートヘアだ。不貞腐れているのか、目が伏せられており、長い金色のまつ毛が頬に影を作っている。

「クリス。…ご挨拶は?」
「……。ハジメ、マシテ…」

正義はカップを持ったまましゃがみ込んで、目線を合わせた。

「はじめまして。俺、中田正義。よろしく、クリス」
「まだ、日本語があまり上手くないのです。簡単な言葉しか喋れません」
「そうか…。あー、クリス、ナイストゥーミートゥー。アイム、セイギ・ナカタ」

見事なまでの小学生レベルの英語だ。
クリスは顔を少し上げて正義を見ると、リチャードのスーツを握る力を強くして、小さな声で返事をした。
正義はニッコリして、腰を上げる。

「リチャードの隠し子?」

正義は純粋に聞くと、眉を潜めて不機嫌な顔をしたリチャードはハァと溜息をつき、言葉を発した。

「…私は独身ですし、クリスは実子ではありません」
「え、そうなの?じゃあ、誰かの子供を預かってるんだ?」
「師の養子です」
「シャウルさんの?」

そこまで会話をしていたら、キュルキュルとクリスのお腹が鳴った。
クリスは恥ずかしそうにお腹を押さえている。
正義は少し考えてから、もう一度美少年に視線を合わせた。

「プリン、食べるか?」

正義がそう言うと、コクリと小さな頭が上下した。

「プリンがあるなんて、聞いてません」

リチャードがいつもの顔に戻った。

「なんだよその顔。リチャードも食べるだろ?」
「食べないとは言ってません」
「分かったよ。準備するから」



…………………………
(20200704)
続きません。

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