白い君は日向ぼっこ

「今日も貴女は此処で日向ぼっこですか?」

その言葉に由貴は声のした方を向くとフニャリと笑った。
彼女の白い髪がサラサラと桜の風に舞った。
煙草を指に挟んだ天蓬は二階の窓の縁に腰掛けて声を掛けた。

「ええ、天蓬。此処はとても気持ちが良くて。桜もとても綺麗ですから」
「こちらに上がってきませんか?面白いものが見れますよ」
「あら、面白いものってなあに?そちらのお部屋は観世音の甥御さんのお部屋でしょう?」
「その甥御さん、紹介しますから」
「え?…と、取り敢えず其方に行くわ」

由貴は座っていたところから腰を上げると、白いワンピースを翻して建物の中に入った。
先程天蓬が顔を出していた部屋の前に行くと、ドタドタバタバタと音がする。
由貴がノックをしようと拳を握って小さく振りかぶったら、バターンッと扉が開き、子供と衝突した。そのまま子供と一緒に後ろに倒れる。

「いてー!おあ!悪い!大丈夫か、ねえちゃん!」
「いたたた…すみません、私がボーッとしていたものですから…」

胸の上に子供の顔がある。
由貴は顔を少し起こしてフニャリと笑った。

「悟空、早くどいてやんねえと、そのネーチャン潰れるぞ」
「おわ!悪りぃ!」

顔を覗かせた長身のガラの悪そうな男の声に、少年はすぐに立ち上がって彼女の上から退いた。
確かにとても重くて動かせなかった。
いくら彼女が非力とはいえ、この重さは尋常じゃないと思っていた。

「遅かったですね、由貴」

天蓬も顔を覗かせた。
隣に金髪の美丈夫もいる。

「ええ、階段を登るのに手間取ってしまって。手を貸してもらえますか?」

由貴は上半身を起こして天蓬に手を伸ばした。

「ああ、そうでした。貴女は片足が無いんでした。あまりに何時ものほほんと外で日向ぼっこしてるものですから、忘れてましたよ」

そう言われて天蓬は彼女の手を取る。
由貴は天蓬の手と残っている片足に力を入れて、「よいしょ」と立ち上がった。
立ち上がってみると、彼女は酷く小柄で、無い片足の替わりに棒が付いている。そして、杖を握っていた。

「誰なんだ、天蓬」
「彼女は由貴といって、悟空と同じ金晴眼の持ち主ですよ」

金髪の美丈夫は天蓬に尋ねる。天蓬も丁寧にそれに応える。先程悟空に声を掛けた長身の男も、悟空も、耳を傾けた。
それから、彼女をよく見ると、白い睫毛の影になって金の目が覗く。その目は金色のというよりかは蜂蜜に近い色をしている。

「ほんとだ!おれとおんなじ目だ!」

悟空はピョンピョンと跳ねながら由貴を見上げる。

「私たち、お揃いの目ですね。仲間がいて私は嬉しいですよ。宜しくね、悟空」

由貴は腰を折って悟空にフニャリと笑った。

「皆さん、はじめまして。私は由貴と言います。私も、人でも神でもないモノなのですよ。悟空ほど大層なものではないですけれど」
「まあ、立ってるのもなんですし、中に入ってはどうですか?」
「…お邪魔してもいいのですか?」

由貴は金髪の美丈夫に尋ねた。
金髪の美丈夫は天蓬に「勝手に決めんじゃねえよ」と言いながらも、由貴を部屋に招き入れた。

「此処に突っ立ってられるのも迷惑だからな」
「ありがとうございます」

彼女は木の棒の足と杖を使い、器用に歩いて部屋に入った。

「自己紹介からですね。彼が観世音菩薩の甥、金蝉童子。この人が一応私の部下の捲簾大将。そして、先程貴女の上に飛んできたのが悟空」
「金蝉さんと捲簾さんは天蓬からお話は予々。悟空も、噂は伺ってますよ」

彼女はフニャリと笑った。

「ここは上の階だから、桜と同じ目線で見れて良いですね」


それが、私たちの出会いだった。

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