ゆらりと揺れる炎の幻を見た | ナノ


▼ Delicieusement

「アンナ、おめでとう!」

その日、パーティは盛大に行われていた。
折り紙の輪をつなげた飾りが、いつもより豪華な料理が、高く積まれたマカロンタワーや赤いイチゴが沢山盛られたドームケーキが、普段落ち着いた色味のBAR HOMRAの店内をカラフルに彩る。
珍しく全員揃った吠舞羅のメンバーは、それぞれソフトドリンクやアルコールを掲げた。八田とエリックはコーラ、アンナはブラッドオレンジのジュースだ。成人組は全員シャンパンを持っている。
乾杯の音頭は自薦した十束がとった。

こういう事にマメな男である。倭とてアンナの誕生日を忘れていたわけではないが、十束の気合の入れようには負ける。
「巨大なケーキを作ろう!」なんて言い出した時はどうしようと思ったものだ。

そう思いながら、ワイワイと楽しむメンバーを見つめながら、ソファーに身体を預ける。立ち話をしているのも少し疲れた。
みんなに囲まれていたアンナも輪から外れ、倭の隣に座り、彼女を挟むように尊もソファーにドカリと腰掛けた。

アンナと目があって、グラス同士をチンと軽く当てた。

「お誕生日おめでとう」
「ありがとう、ヤマト」
「どういたしまして。……尊、…尊もおめでとうって言えばいいのに」
「あ?あー…」

そう言って上を向いてしまった。
…不器用な人だと思っていたが、「おめでとう」の一言も言えないのか。
そう溜息を吐くが、まぁ毎度のことなのでクドクドと責めることもしない。

「めでてぇんじゃねえの。アンナ」
「ありがとう、ミコト」
(おっと…。)

倭は目を瞬かせて驚愕した。
アンナは嬉しそうに頬を緩めている。見ているこっちも嬉しくなった。
…今年は言った、今年は言ったぞ。
そう思っていると、尊がこちらを向いた。

「なんだ」
「あ、いや…珍しい事もあるものだと…」
「俺だって言うときは言う」
「そうだけども、毎年誰の誕生日も“おめでとう”言わないから…」
「お前が言えって言ったんだろ」
「そりゃあ、言ったけど…」

何か悪いものでも食べたんじゃないか、と少し思った。
ふと、笑いがこみ上げる。

「ふふ、素直じゃないね」
「うるせ」

そんな会話をしていると、アンナが「二人とも、」と話しかけてきた。

「なんだ」
「なに?」

「ありがとう」

「…」
「どういたしまして。…あ!」

何かに気がついたのか、倭は席を立って二階に上がった。
何事かとアンナと尊、他の話で盛り上がっていた吠舞羅メンバーは倭を目で追った。
すぐに降りてきて、アンナの前に差し出されたのは約30センチ程の箱。
白にゴールドのストライプ柄の包みに包まれた箱。それには赤いリボンが巻いてある。

「アンナ、プレゼント!」
「いいの?」
「開けてみて」

アンナは丁寧にリボンを解き、包みを剥がしていく。
箱に入っていたのは深紅のテディベア。
右足には“Anna”と刺繍されている。

アンナはテディベア抱き上げると、倭の方を見た。

「私と尊から。気に入ってくれると嬉しいな」

そう言ってニコリと微笑む。
タバコをふかした尊も優しそうな眼差しでアンナを見ている。

「ありがとう…!大切にする」

彼女はテディベアを抱き締め、尊と倭を交互に見た。



「…なんや、子供を溺愛する両親みたいになっとるで」

草薙の一言に十束も笑った。

「いんじゃない?幸せそうで」
「…せやな」

そんな幸せな12月8日の夜。


…………………………
アンナちゃんバースデーおめでとう!
草薙の「家族みたいになっとるで」が書きたかった。
テディベアはピンからキリまであって、高いものはお値段がすごいですよね。

Delicieusementはフランス語の音楽用語で「楽しく」。


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