ゆらりと揺れる炎の幻を見た | ナノ


▼ 女の子の服と怒りと 1

いつもと変わらぬHOMRA。ーーー否、開店前なので、「吠舞羅」か。
吠舞羅のメンバーがいつ来てもいいように、「close」の札をかけてはあるが、扉の鍵は掛かっていない。
クランズマンが店にたむろをするのを怒る癖に、鍵をかけないでいるのは草薙の優しさだろうか。それとも、そろそろ怒るのが面倒になって諦めたのか。

店内は、グラスを一つ一つ丁寧に磨く草薙、それと向かい合ってトマトジュースをチビチビと飲むアンナ。
ボックス席の一角では赤城と鎌本、八田が少し大きな声で取り止めの無い話をしている。
「猛獣使い」と称される十束はまだ来ていない。
尊はというと、奥の2、3人は座れるであろうソファーで長い足を投げ出して一人独占している。眠っているのか、瞑想してるのか(…それは無いか)静かに目を閉じている。
エリックと藤島は数分前にゲームセンターへとドタバタと出掛けて行った。
他のメンバー達は来ていない。まあ個々に予定もあるだろうし、HOMRAに集まるのは強制で無い。それに、アルバイトなどもしているだろう。セプター4のクランズマンの様にクランズマンなだけでお給料が貰えるわけでは無いので、金銭的に食べていけない。
倭はカウンターの奥で客のネームボトルの数と新品のお酒の数、それに数あるリキュールやソフトドリンクと付け合わせのアイスクリームに餡子の数をバインダーに挟まれた表に書き込んでいく。
ーーー…まあ、餡子は特定の常連客しか使わないため、数が他のストックに比べて少ない。タッパー一つにギッシリと詰まっている位である。餡子が無いとすぐに「客のリクエストも応えられないの!?」とクレームを言われるのだ。


「こんにちわ〜!みんないる〜?」と吠舞羅の扉を開けて一人の男が入ってきた。ニコニコと笑顔で店内にいるメンバーと会話しながら、十束はカウンターへと近づいて行く。彼が唐突なのはいつもの事だ。
今日はギターもビデオカメラも持っていない。

「こんにちわ、多々良」
「うん、こんにちわ倭さん!ねえねえ!さっき本屋さんで立ち読みしてて、つい買ったんだけどさー、コレ!」
「十束ァ…それはなん…」

なんや、そう続けようとした草薙も言葉を詰まらせた。ついでにグラスを落としそうになる。

見せられた雑誌は女性用のファッション雑誌。というか、所謂ゴシックロリータファッションの雑誌。
倭は草薙の肩越しに見て、相変わらず勇気があるな…と思った。
特に偏見は無いのだが、いざ自分がこのジャンルの雑誌を持って会計するトコロがまず想像つかない。周りの目とか、少し気になりはしないのか…?
女性ファッション誌の棚に金髪の172センチの男が立ち読みしているのだ。少しは奇異に映るだろう。倭とて、大して身長は変わらない。
しかしそんな彼の考えを他所に、十束はアンナと草薙に見えるようにカウンターに雑誌を置いた。
ボックス席にいたメンバー達も十束の賑やかさに惹かれるようにカウンターに集まって来た。

「なんすかあ?」
「女もんの雑誌ッスか?」
「十束さんこういうの買ってくるの勇気あるッスね…」
「すげ〜…」

八田、赤城、鎌本、赤城と順番に言っていく。…全くもって鎌本に同感である。

「アンナがこの前気に入って買った洋服のブランド、新作が出たんだって〜。ね、アンナ。今日買いに行かない?」

アンナの隣、カウンターに寄り掛かると笑顔で雑誌のページを開いた。
大きくブランドロゴの書かれたのを見る限り、雑誌の目玉の特集ページ。そのど真ん中を指差していた。
そこにはボルドーカラーの膝下ワンピースドレスに白のインナーティペット首に巻いた女の子が同じ白の総レースのパゴダ型のパラソルをさして微笑んでいる写真。

「…かわいい…」

アンナは雑誌を食い入るように見つめ、少し目を輝かせた。
カウンターに手を置いて、乗り出すように見つめている。
草薙はグラスを棚に戻すと、トマトジュースを倒さないようにと少しアンナから離した。その自然な行動たるや、まるでお母さんだ。

「でしょー?アンナは絶対コレ好きだと思った!ねえキング、これアンナに絶対似合うと思うよね!」

ね!といきなり話を振られた尊はのっそりとソファーから起き上がって、みんなが集まるカウンターに近づいてそのページを眠そうな目で見た。

「…いいんじゃねえか?」

そのままカウンターから灰皿を手繰り寄せると、煙草を吸い始め、アンナの右隣りに「よっこらせ」と言わんばかりにスツールに腰掛けた。

「ちょっとお姉さんでいいっすね」
「十束さん相変わらずいいセンスすよね」
「ふふふん、もっと褒めてくれていいよ〜」

十束はそれからさ〜、と続ける。

「倭さんはー…」

いきなり名前を出され、パラパラと2、3ページを捲っている手を思わず掴んだ。

「た、多々良?」
「ん?なに?」

なんでこの雑誌を見ながら、男である私の名前が出てくる?ーーーそう言外に言っているつもりで名前を呼ぶが、十束は笑顔だ。
こちらを見上げながらも、掴まれた右手をそのままに左手でペラリと捲る。ページまで暗記してるのか…。
そして一人の女の子の服を指差した。

「コレ!絶対似合う!」

白いリボンブラウスにネイビーのコルセットの様なものがくっついたオーバースカート。ボリュームのある白のペチコートスカートがオーバースカートの中から覗く。
それを見た尊の煙草の灰がポロリと落ち、十束の手を握っていた倭と目が合う。

「尊…頼むから、こっちを見ないでくれる…?」
「見てねえよ」
「へ〜ヒラヒラすけど、シンプルでいいっすね」
「倭さんスタイルいいッスからね〜」
「…男でも倭さんなら似合うんじゃないスか?」
「ね?倭さんなら可愛いよね〜!八田は分かってる!髪巻いてさ、絶対似合う!」
「お〜ええやん。二人で並んだら絵になるんちゃう?」
「かわいい…」

みんなの言葉に、最早クラリと眩暈をした。いけない、盛り上がり始めてる。
自然と十束の手を握る手に力が篭る。

「痛くないよ、倭さん。だから女子と間違われるんだよー?…だから、いっそ着てみなよ!」
「“いっそ着てみなよ”の意味がわからないし!着ないし!男だし!握力は…き、鍛えるし…!」

そう言ってるうちに、遂に十束の手に爪を立てていた。

「痛い!痛い痛い!爪は卑怯だってば倭さん!」
「天誅です!」


…………………………
続くかも。


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