ゆらりと揺れる炎の幻を見た | ナノ


▼ 腹痛の生命力

「あれ?倭さんは?」
カラン、とドアベルを鳴らして入ってきた十束はいつもいるはずの彼がいないことに気が付いて、草薙に声をかけた。
「上で寝とるで。なんや具合が悪いみたいや」
グラスを拭きながら答えた草薙は、上の部屋のある天井に目を向けた。
「珍しい…。大丈夫なの?」
十束はスツールに座りながら首をかしげる。
「腹痛やって。薬いるか?って聞いたら、苦しそうに要らないって言うとったけど。」
「大丈夫かな…っと、噂をすれば倭さん。あ、キングも降りてきた」
ややげっそりとした倭は腹を抱えたままゆっくりと階段を降りてきた。後ろには倭の歩調に合わせるように階段を下る尊の姿があった。
「…出雲…水…欲しい」
「倭さん平気ー?」
十束の問いかけに片手を上げて答えると、バーカウンターから出てきた草薙から水を受け取り、ゴクリと飲み干した。倭の小さな喉仏が上下する。
「…だいぶマシになった…と思う…」
「ていうか、倭さん、シャワー浴びたの?」
苦しそうに腹を抱えた彼の髪が濡れていることに気がついた十束は、バーカウンターに肘をついて不思議そうに尋ねた。
「え?う…うん。まあ、ね」
倭は自分の髪に触れた。
「お腹痛いのに、そんな事したら冷やすんじゃない?」
「…ちょっと事情があって」
頬を細い人差し指でチョイチョイと掻きながら倭は視線を十束から外した。
「事情?…ってあー、なるほど…わかった。」
『事情』という言葉と倭の後ろに立つ赤の王の若干満足げな姿を見やり、十束と草薙は全て察した。
「察しが良くて助かる、多々良」
「…そういうことやったんやな。そら、薬飲んでも治らんわ」
草薙は憐れむような目で倭を見やると、グラスを置き、腰に手を当てて苦笑した。
「だから、『中に出さないで』って言ってるのに。尊ってば」
そう言って、倭は自分より背の高い尊をジロリと見るが、当の尊は視線が合うと「フン」と鼻で笑うだけでビクともしない。
「倭も大変やなぁ」
「環境がいいと長生きするらしいからねぇ…。…というか、キングの長生きしそう。全部掻き出すの大変じゃない?」
しみじみとそう言うと、倭に尋ねた。
「まあね…指が届かなくて大変」
そう言ってゲンナリとした倭。
「…だから俺がやってやるって言ったんだ」
タバコに火をつけて紫煙を吐き出した尊は、倭を見やり、彼の湿った髪に空いている左手で手櫛を通して弄び始めた。
「キング、それじゃ絶対終わらなそう」
十束はアハハと笑う。
「完全に掻き出すだけじゃ終わらないし、そもそも掻き出してるの見られたくない」
倭はぶっきらぼうにそう言うと、尊に視線を投げ、「やめて」と言わんばかりに倭の髪に手櫛を通していた手を払った。
「受けのプライドってのも大変やなぁ」
その言葉に、倭は草薙の顔を見やって顔を顰めた。
「出雲、完全にふざけてるでしょう。コッチは本当に大変なんだから」
「まあ、相手が相手や。その辺は諦めた方がええんと違う?」
「まあね…諦めつつあるけど。」
そう言って倭は溜息を吐くと、コップを持って近くにあったソファへ体を沈めた。
「…嫌じゃねえくせに」
尊にそう言われ、倭は眦を上げると、コップをテーブルに置き、ハァと一つ溜息をついた。
「あのね、嫌じゃないけど、それとこれは別の話なの。大変なわけ!すっごい大変なんだから!」
尊は倭の向かいのソファに座るとタバコをふかした。
「『もっと』ってヨガるクセによく言うぜ」
「人をビッチみたいに言わないでくれる?しかもこんな人の前で!」
ヒートアップしていく会話に草薙はハァと溜息を吐くと、楽しそうにその場を見つめる十束にチョップをし、仲裁に入ることにした。
「2人ともやめや。十束も楽しんでるんやない。なんで俺が仲裁に入らなあかんねん。痴話喧嘩はよそいってやりや」
そう言うと、倭は前のめりにしていた体をソファに預け、「出雲ごめん」と言った。尊は謝りはしないものの、倭と同じようにソファに上体を預けて、長く紫煙を吐き出した。


…………………………
終わっとけ!
そんな訳で下ネタでした(笑)
尊さんのは長生きしそうです。なんか、生命力強そう。そんな考えから生まれたネタ。


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