ゆらりと揺れる炎の幻を見た | ナノ


▼ 徴

どうやらうちの王様は、街中のゲーセンの前でたむろをしていた男子中学生達に声を掛けた上、あまつさえ炎で男子中学生が飲んでたコーラの瓶を燃やしてやったらしい。
そんな話が舞い込んできたのは、十束が火の鳥を飛ばしてきたからである。伝書鳩ならぬ、伝書火鳩だ。全く器用なものである。

(その辺の目つきの悪ーいゴロツキみたいな不良でなければいいのだけれど。)

……まあ、出雲がいるなら大丈夫かな…。
そんなことを思いながら、汗をかいたグラスに入ったアイスティーをゴクリと飲み干した。新鮮な茶葉の香りがはなから抜け、一抹の不安は幸せな香りが持って行ってくれた。
さて、王様と従者達はどこまで行ってしまったのだろう。
手持ち無沙汰になってしまった倭は、年季の入ったローズウッドのバーカウンターをひとなでした。


赤のクランの本拠地、鎮目町のBAR HOMRA。
草薙出雲のお店で、赤の王・周防尊のお城。そこに集まるクランズマンと言う名の従者達。そこにあるのはーー

「……血よりも、濃い…繋がり…」
ポツリと口から零れ落ちた。


血縁なんて紙面上の形だけの家族が苦しかった。
独りぼっちだった。学校に行けば知り合いもいた。だが倭には友人は居なかった。彼らが欲しいのは「竜田」という家柄の名前。

ーーあ、アレアレ。「竜田」の息子。
ーーでも愛人の子供なんだって。
ーーうそ、マジで?
ーーマジマジ。親が話してるの聞いちゃった。
ーーでも本妻の子供は?
ーー身体が弱くて死んだらしい。
ーーマジか〜。本当に身体が弱かったんかね?
ーーどういうこと?
ーーアイツが殺したとかじゃね?
ーーそれお前怖っ。でもアイツ本邸に出入りしてるってことは、本妻の子が死んで昇格した感じじゃね?
ーー昇格とか!超すげえじゃん!
ーー親が仲良くしときなさいってさ〜。
ーー俺も仲良くしとこ。殺されたかねえし。
ーーアハハ、お前なんか殺されねえよ!

クラスの連中がずっとそうやって囁いていた。…知らないとでも思ったか。全部聞こえてるよ。
そう思いながら、寂しく1人で授業をサボる。いつも1人で居た場所にはその日に限って2人の先客が居た。
……周防尊と草薙出雲だ。
校内で有名な彼らも、このちょっとした中庭の死角になっている空間で午後の授業をおサボリですか。
それから、よく此処で話をするようになった。
どうやら周防尊という男は、周りがどう言おうと気にしないタイプらしく、私が「竜田」の息子である事を知らなかった。草薙出雲という男は二つ上の先輩で、情報通でありながら、周りに流されずに、竜田倭を特別扱いすることなく接してくれた。
2人とも、「竜田の息子」ではなく、1人の竜田倭として見てくれた。

生まれて初めての友達だった。

そうしているうちに、十束多々良という少年も加わり、彼はとても明るく気さくだった。大怪我をしても何のその。
「へーきへーき、なんとかなるって」
魔法のように心にストンと落ちてくるこの言葉は、彼の口癖だった。

そのうち気が付けば、周防はこの世の理の内の“暴力”の象徴「赤の王」となっていた。

そのクランズマンとして、草薙、十束、そして私も迎えてくれた。
欲しくて焦がれて、唯一とも呼べる友達が自分にくれた“徴”。
「親愛」「友愛」そして、「絆」
血よりも濃く、赤いトライバルのような模様は、草薙には右の肩甲骨に、十束には左の肩甲骨に、私には項に浮き上がった。


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