▼ 手の届かない恐怖
包囲された学園島。緊張が漲る中、空気がザワリとした。
「あんた……なんでこんなところに……ウチの警戒線はどうしたんだ」
セプター4が警戒線を張っている中、堂々と表れたのは倭だった。
倭は肩で荒く息をしながら、身体に漲っていた炎を収めた。
「…突破、してきた。」
「やってることの意味わかってんのかよ」
「…」
その答えには答えず、倭は空を仰いだ。そこには、バチバチとぶつかり合う赤と青の二本のダモクレスの剣。
「ダモクレスの剣同士がぶつかり合ってる……尊と宗像さんが戦ってるんだよね」
「……王同士の戦いだ。俺たちには何もできませんよ。…どこに行く気ですか」
空を見上げながら学園島の方へ向かって歩いていく倭の肩を捕まえて、こちらを向かせた。その手を倭は冷たく払う。
「伏見くん離して、ダモクレスの剣が…ダモクレスの剣が落ちちゃう」
「無駄ですよ、やめといた方が良い」
伏見は今度はしっかりと倭の細い腕を掴んだ。
いつの間にかダモクレスの剣は赤、青、白銀、無色、と4つの剣がぶつかっている。
倭は俯いて絞り出すように声を発した。
「なんで…、そんなに冷静なの……。尊が死んじゃう…さっきから徴が熱い…。尊を殺したら…宗像さんだって王殺しの負荷が……!2人を止めないと!ねえ、離して伏見くん!」
「俺たちには何もできないんだよ!分かれよ!」
両肩を掴み、強く言う伏見。
「分かるよ!分かるけど……そんなの見てられない!」
「どうせ、止められねえんだよ、俺たちみたいな下っ端には」
「見てろっていうの…、この状況を」
「それしかできねえだろ。いくらアンタが何かしたとしても結果は同じだ。」
「私が!私が、無色の王を殺せば、尊に王殺しの負荷は掛からない」
「もう無理だ、力が暴走したのは止められないだろ。止めても無駄だ」
「もうダメだっていうの……。無駄だって……。」
「そうスよ、無駄だっつってんだよ」
「……そっか。……もう、無駄なんだ……」
そう静かに零すと、倭は静かに膝をついた。
無色のダモクレスの剣が消え、白銀のダモクレスの剣が消える。途端に、糸が切れたように赤い剣が落下するのが見えた。
「あ……」
倭は短く言葉を発し、手を伸ばした。
その手はもちろん届かず、空を切る。
「…みこ、と……」
呟いた言葉は空中に霧散した。
赤い剣は落下の途中、切っ先から静かに消えていく。
赤き王が消えた瞬間だった。
…………………………
一期最終回ネタ。伏見と一緒。
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