ゆらりと揺れる炎の幻を見た | ナノ


▼ affinity

BAR HOMRA。
草薙はグラスを拭く手を止め、店内を眺めた。
奥の席では長い髪を一つにまとめた倭がソファーに寄りかかっている。その膝には、我ら王が寝転がっている。表情をうかがうことはできないが、多分、目を閉じて眠っているのだろう。
所謂膝枕をしているわけだが、気になるのだろうか、倭は時折王へ視線を向け、空中に手を彷徨わせ、またグラスに戻って酒に口をつけるのを繰り返していた。居心地が悪いのか、落ち着きがない。

倭はストレートよりもカクテルを好み、今飲んでいるのも、“アフィニティー”と呼ばれるカクテルで、ベースはスコッチ・ウイスキーにドライベルモットとスイートベルモットをステアしたものだ。
スコッチ・ウイスキーがイギリス、ドライベルモットがフランス、スイートベルモットがイタリア、アンゴスチュラ・ビターズがドイツの原産地なだけに《親しい関係》の意味を持っている。何とも自分らのようでは無いか、と倭は笑いながら言っていた。
差し詰め、スコッチ・ウイスキーが尊、ドライベルモットが草薙、スイートベルモットが十束、最後に入るアンゴスチュラ・ビターズが倭といった感じか。

倭の方を向き、そんなことをボンヤリと思い出していると、倭がこちらを向き、不思議そうな顔で見てきた。

「…何?なんか、おかしい?」
「いや、なんでも無いで。アフィニティーの話を思い出してただけや」
「アフィニティーの話?……ああ、スコッチが尊で…ってやつ」
「せや」
「スコッチはカクテルには向かないからね。なんか、尊っぽいなって。……まあ、こうやってカクテルにされちゃってるわけだけど」
とそう言ってグラスを持ち上げた。ゆらりと褐色の中身が揺れる。
つまり、『混ざりたがらない尊(スコッチ・ウイスキー)が草薙(ドライベルモット)や(スイートベルモット)と混ぜられることによって吠舞羅(アフィニティー)ができた』と言いたいのか。

「なんで自分のこと、ビターズやと思ったん?」
「さあ、なんでだろう……なんでかな?」

アンゴスチュラ・ビターズは、苦味をつけるために使ったり、香り付けをするために使うことがしばしばで、人の好みではあるが、ストレートで飲むこともできる。そして、必ずバーに存在する酒類の一つである。
草薙はなぜ、倭が自分のことを“ビターズ”であると言ったのか、不思議に思った。
そんな問題に倭は首をかしげると、尊がむくりと起き上がった。

「……起きた?」

倭は思考を中断して、彼に話しかける。

「…ああ。」

倭の隣に腰掛けると、タバコを取り出し、自前の火でタバコに着火する。

「…で、なんの話してたんだ。」
「何って?」
「俺がスコッチだの、お前がビターズだの」
「ああ、その話」

なんだ起きていたのか、と思いながら、草薙は「アフィニティーの話や」と言った。

「アフィニティーには“親しい関係”っちゅー意味があるんや。それ聞いた倭が『自分らみたいや』言うて。それで、尊がスコッチ、俺がドライベルモット、十束がスイートベルモット、倭がビターズやって話で」
「…くだらねえ」
「まあまあ…。例え話だよ」
「……なんでてめえがビターズかって話だろ。…それがねえとアフィニティーっつー酒が完成しないからだ」

サラッと言われた一言に倭は固まった。
その言葉だとまるで、「倭がいないと吠舞羅ができない」と言われたのと同義である。

ボッと火がついたように顔が赤くなる倭。

「だろ?」

と、こちらを向いた尊は瞠目した。
倭が顔を赤くして俯いている。

「あーあ……尊、いきなりそないな事言わんと、倭が俯いてしもたやん。」

尊は、ふぅ、とタバコの煙を吐き出す。溜息なのか、ただ単に煙を吐き出しただけなのか、尊にしかわからない。
尊はタバコを片手間に、テーブルに置かれた倭の飲みかけのアフィニティーを飲み干した。
辛口の味わいが尊には合ったのだろう、「悪くねえな」と一言言うと、またタバコに口をつけた。




…………………………
「だからどうした」というような内容ですね…。
アフィニティーは辛味のある大人な味です。私は苦手です。←


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