ゆらりと揺れる炎の幻を見た | ナノ


▼ 独占欲

「おはよう」
初夏の陽気に髪を後頭部で結わいた倭はコツコツと階段を下りて、バーに集まってたメンバーに挨拶をした。
「おはようござ…っ!?倭さん、それって…!」
赤城が顔を真っ赤にして指をさした。その指先は震えている。
「ん?」
倭は首を傾げて辺りを見回す。
それに見かねた十束はそそ、と倭に近づき、こっそりと倭に耳打ちした。
「…キスマークと噛み跡、見えてるよ、倭さん」
ここ、と十束は倭の首筋と胸元を指差す。
「えっ!」
倭は素っ頓狂な声をあげ、急いで自分のシャツの襟ぐりを手繰り寄せた。
「み、尊のバカ!」
「…あ?」
スコッチを飲んでいた尊は顔を上げて気怠く倭を見た。
倭は素早く尊に近づくと、顔を真っ赤にしながら小声で責めよった。
「なんでこんなところに跡つけるの!」
「…いいじゃねえか別に。見せとけよ」
「“見せとけ”って、絶対無理!」
「絶対無理」という言葉を声高にいうと、少しでも首筋を隠そうとヘアゴムに手を掛け、バサリと髪を解いた。サラリと栗色の髪が揺れる。
「翔平は、倭さんのコレ見るの初めてかー」
十束はあっけらかんとそう言うと、「俺らは慣れたけどねー」と続けた。
「…倭さんと尊さんってやっぱり…そういう関係だったってホントだったんすか!?」
「だから言ったろ」
坂東はカウンターに肘をついて溜息を吐いた。
「これだから新人は…」
「さんちゃん、これ新人だからとか関係なくない!?」
普通の男がキスマークを付けてるくらいどうでもいい事に感じるが、女性のような見た目、顔立ちの整った倭が、顔を真っ赤にしながら胸元のシャツを手繰り寄せている姿というのは、男と知っていても『イケナイ扉』を開きそうになる。
「家に服取りに行くにしても、コレじゃ目立ちすぎる…かと言って、このままも嫌……そもそも尊が跡つけるからであって…」
倭は胸元のシャツを右手で手繰り寄せ、左手はワナワナと震え、ブツブツと壁に向かって独り言を言っている。
「あーあー、倭。ブツブツ言っとっても何も始まらんやろ。俺のストール貸したるさかい、これ付けて家に服取りに行ってき。まず落ち着きなや」
「…え、ほんと?」
「ほんま。…ほれ」
しゅるりとストールを外した草薙は、カウンターから出て倭の首に掛けた。
「助かった、出雲。…尊、今後一切跡つけないでよね!」
「無理だな」
「なっ…!」
「まあまあ、キスマークは独占欲の証ですから。ねぇ、尊さん!」
千歳はそう言って尊のグラスにスコッチを注いだ。
「そんな独占欲いらないから!」
スカーフを結んだ倭は捨て台詞のように吐き捨てると、家へキスマークの隠れるようなハイネックの服を取りに行くためにバーから出て行った。
「キング。キングもここ、キスマークあるからね?」
ネックレスとシャツの隙間で見え隠れする鎖骨に小さな赤い花が咲いているのを十束は指摘した。
「…フン。独占欲、だろ?」
そう言ってスコッチを煽った。


…………………………
赤城の加入直後くらいの話。


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