ゆらりと揺れる炎の幻を見た | ナノ


▼ 独り占め券

「海いきましょう!海!」

バーHOMRA。夏痩せして細くなった鎌本と共に倭はカウンターでボトルを磨いていたら、誰が言い出したのか、店内の吠舞羅のメンバーで海に行く話が進んでいた。
二階の部屋で寝ているのだろうか、そこに王の姿はない。
皿を洗っていた鎌本が「イイっすね〜海」と倭に言う。

「海かー……夏だもんねえ」

倭がボトルを棚に戻しながらしみじみ言うと、話の中心にいた十束はカウンターに座って楽しそうに振り返った。

「ね、キングの誕生日パーティに海でバーベキューしようよ!」
「いいね、バーベキュー。久しぶり」

倭がそう言うと、十束は「よーし!」と声を上げた。吠舞羅の面々が彼を見る。

「んじゃ、明日のバーベキューの準備しよう!」

勢いよくスツールから立つと、隣でビー玉を転がしていたアンナの手を取り、八田や赤城らと共に連れ立った。

「草薙さん、俺たち買い出し行ってくる!」
「おう。気を付けてなー」

草薙の声に右手を上げて返事をする十束は、パタンと閉まる扉の外に消えた。

「尊、誕生日かぁ。なんだか1年経つの早いね。この前祝ったばっかりな気がする」
「年寄り臭いで、倭。俺より若いねんから、そないな事言わんといて」
「尊さんの誕生日パーティ楽しみっすね」
「そうだね。……そうだ。出雲、鎌本くん、ココ任せて大丈夫かな。」

倭は布巾をバーカウンターに置くと、カウンター内に残った2人に一声掛けた。

「私、ちょっと出かけたいんだけど」
「おー。行ってきい」
「ごめんね、ありがとう」

倭はちょっと急いだ風に扉を開けると、出て行ってしまった。

「あれ、誕生日プレゼント買いに行ったで」
「そうっすね。俺たち、準備しなくていいんすか?」
「十束が考えとるやろ。さっきウィンクして出て行きおったしな」





翌る日、海に来た吠舞羅の面々は、浜辺に置かれた冷えたスイカの周りに集まった。
「ココは尊さんに割ってもらいましょうよ!」と八田が尊を推薦し、嫌々ながら目隠しをした彼をグルグル回すのは楽しかったが、そこからが問題だった。
フラフラする事もなく見事スイカを当てた彼だが、予想通りと言うかなんというか、冷えていたスイカは彼の手によって棒ごと木っ端微塵に砕け散り、食べるところは皆無と成ってしまった。
「あーあ」と落ち込む面々を余所に、草薙と倭は予想通りになってしまった事案に「あちゃー…」と目に手を当て、十束はケラケラと笑い転げた。

スイカの件がひと段落ついたところで、バーベキューの為に張ったテントの中に入り、なんとか言いくるめて尊を誕生日席に座らせると、ジュースを片手に十束はカメラを回して、赤の王を写した。

「8月13日、12時半ちょうど。今日はキングの誕生日。キング、誕生日おめでとう!」

十束の「おめでとう」を合図に、八田、鎌本、坂東、千歳、出羽、藤島は声を合わせて「おめでとうございまーす!」と言った。
尊の持ったビール缶に皆が順番に乾杯していく。

「おめでとう、尊」

最後の倭も例に漏れずビールの缶を尊の缶にぶつける。

「今年も祝えて嬉しいよ」
「毎年毎年…飽きねえな、お前ら」
「飽きないよ、尊の大事な誕生日だから」
「そうかよ」

尊はそう言うと、プルトップを開けてビールを飲む。
案外、満更でもないのかもしれない。倭はそう思った。
その光景を見ていた十束達は楽しそうにこちらに寄り、倭の両肩を掴むと、尊に寄り添う様に押しやった。

「俺たちからの誕生日プレゼントは……倭さんです!」

数秒の静けさの後、その体勢のまま倭と尊はポカンとした表情をした。

「はい?」
「あ?」
「……ちょっと、勝手にプレゼントにしないでよ、多々良」
「他にキングの喜ぶの見当たらなかったんだよ〜。ね、良いよね!倭さん」

そう言うと、十束はパチンとウィンクをした。倭は溜息をつき、肩をすくめる。

「…と言うわけで、誕生日プレゼントは、『倭さん独り占め券』!ね、アンナ!」

十束がそう言うと、アンナが赤い折り紙を尊に渡した。そこには可愛い文字で『ヤマトひとりじめ 1回』と書かれていた。

「…これ、ミコトにプレゼント」

アンナの手書きであろうその紙を尊は受け取ると、フッと笑ってビールを煽った。
倭はそんな尊の隣に体勢を整えるために座り直した。
尊はアンナから受け取った紙を眺めている。

「アンナのプレゼントは不満?」
「不満じゃねえよ」

その言葉を聞いて、倭もビールに口を付けた。『プレゼント』になってしまった今、自分が用意した誕生日プレゼントはいつ渡そうか、と思案しながら。



バーベキューを終え、バー HOMRAに戻ると、尊は倭を荷物を運ぶように小脇に抱え、二階への階段を登った。
吠舞羅のメンバーはさっさと帰ったーーー…というより、王に気を使ったのだろう。草薙や十束も「また明日」とそそくさ帰っていった。アンナは草薙の家に行くと言って草薙と帰ってしまった。

そうして2人しかいなくなったバーの二階の一室に入り、倭はそのまま荷物ごとベッドに投げ出されると、尊がニヤリと笑ったのを見て、顔を引きつらせた。

「コレ、まだ有効だろ?」

コレとは、バーベキューの時にアンナに渡された『ヤマト独り占め券』だった。

「…有効だけど…」
「じゃあ、俺の好きなようにやる」

そう言って倭を押し倒すと、首筋に顔を埋めた。

「んっ…、ちょっ……ちょっとタンマ!待って尊!」

倭は王に静止を求めると、眉根に皺を寄せた彼が顔を上げた。

「…なんだ」
「今日中に渡さないと、このまま渡しそびれるから…。」

そう言って荷物の中から、綺麗にラッピングされたものを取り出した。
手の中に収まるくらいの大きさの包みを尊に渡すと、倭は上体を起こした。

「これ、誕生日プレゼント。尊、誕生日おめでとう」
「中身なんだ?」
「ウォレットチェーン」
「ウォレットチェーン?」
「うん。気に入ってくれると嬉しい」
「…気に入った」
「中身見てないくせに」
「…気に入る」

尊は枕元にそのラッピングされたプレゼントを置くと、もう一度倭の上体を倒した。


夜はまだ長い。



…………………………
尊さんバースデー。(ドンドンパフパフ)
バイト先でやったスイカ割りで、同じ体験をした事があります。(通称、スイカ木っ端微塵事件)
結果的に食べれませんでした。食べ物を粗末にするのはいけないですね。

尊さんはケーキってガラでもなさそうなので、バーベキューになりました。彼が夏生まれで良かったと心底思いました。


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