就職




「…有お前、何してんだよ…?」



信じられないと目を見開き、誰に問い掛けるでもなく、ポツリと呟いた伏見が見上げた先には自分と同じ様に目を見開き、自分と同じ様に青い制服に身を包んだ岩戸が居た。


「…就活してたら、宗像さんに、室長に公園でスカウトされた」
「…は?」
「“は?”じゃなくって、スカウト。本当にされたんだってば」
「…お前、此処がどういう場所か分かってんのか?」
「美咲じゃないんだから、分かってるって。」

ムッとしながら伏見の問いに答える。
廊下で不穏な空気を醸し出しながら会話をする2人に、周りは遠巻きに不躾な視線を寄越しながら関わりたく無いというように、足早に去っていく。
時々ぼそりと2人に対する悪意が飛ぶ。



「あの2人って、元吠舞羅なんだろ?」
「鞍替えするクランズマンなんて聞いたことねーよ」
「どちらにしろ、チンピラだろ」
「あんなチンピラを抱え込むなんて、室長は何考えてんだろーな…」



その言葉を聴きながらも、伏見と岩戸が連中に目を向けることは無い。
伏見はそれらを黙らせるだけの力量も、采配も持ち合わせていたし、いちいち突っ掛かっていたとしても無意味な事だと分かっているからだ。
対して、岩戸はその言葉を耳にしてぐっと唇を噛み締める。
力量はあるが、伏見のように特別秀でていたわけでも、現場を取り仕切れる程頭がキレる訳でも無いのだ。
腫れ物のような扱いをされることは目に見えていた。
只でさえ、チンピラ集団の中で数少ない女子なのだから、悪目立ちするだろうし、吠舞羅の頃は八田や伏見と肩を並べて暴れて居たのだ。
目立つな、と言う方が難しい。
確固たる地位があれば、堂々胸を張って歩けるかも知れないが、なんてネガティブに考えて深い泥のような思考の渦に沈みそうな岩戸の意識を呼び戻したのは伏見だった。


「…有、今所属どこ。」
「今度正式に撃剣機動課特務隊…に、移動になった…。その前は、所属自体曖昧で室長の命令だけ聞いて動いてた。時々副長からの命令もあったけど…」
「…いつからセプター4にいるんだ」
「さっちゃんが、みーちゃんと喧嘩して吠舞羅から居なくなって2週間後位…」
「あの後すぐじゃねーか!」
「さっちゃん居ないし、別にBARに集まるのは任意だしって思って…就職しようかなって公園でボーッとしてたら…」




―――――――
――――
――




…空、きれいだなぁ…
さっちゃん何処にいるんだろ…
みーちゃんももうちょい冷静に話し聞いてくれればなぁ〜
そんな事を思いながら公園のベンチに座り、ボーッとしていると、不意に声をかけられた。


「こんなところでお嬢さんは何をしていらっしゃるのですか?」
「!?」

声をかけてきた方へ顔を向けると目を見開いて岩戸は驚いた。

「…青の王がなんの用ですか」
「おや、私の事をご存知でしたか。いえ、赤のクランの方が見えたので、何を考えていらっしゃるのか、と思いましてね。」
「私の事も知ってるじゃないですか。」
「そうですね。ですが、詳しくは知りません。只、私が知っているのは、岩戸有という少女が赤のクランズマンとして、在籍しているという情報だけです。」

その発言に少し岩戸は身構える。

「おや、誤解をしないで下さい。こちらは争う気はありませんよ。」
「ほっといてください。」
「そんな事を言わず、ここで会ったのもなにかの縁ですし。…少しお話ししませんか?」
「1人で考えたいので、」
「知らない相手に話すことで、悩みが解消されるかもしれませんよ?」
「……。青の王にとっては突拍子の無い、下らない話しかもしれませんよ。」
「ですが、貴女はその“下らない話し”で悩んでいるんですよね。ならば、青の王の宗像礼司では無く、只の宗像礼司として、聞きましょう。」


どうしますか。と全てを見透かすような目で宗像に見られ、岩戸は身じろぐ。
あの日からずっと誰かに聞いて欲しくて、でも、赤のクランの誰にも言えなかった思いをこの人に言ってもいいものかとぐるぐる考えて、打ち明けようかと、少し考えた後に口を開いた。


「自分の……自分の、大事な人が、大事な居場所から居なくなっちゃって、探そうと思ったんですけど、相手の迷惑とか考えたらやめた方がいいのかな、とか。もう1人の大事な人も傷付いてるんですけど、あの子には今何を言っても聞き入れてもらえないって分かってて、自分がどうすればいいのか、何をすればいいのか分からなくって、頭を冷やそうと思って…」
「思って、公園に来たのですか?」
「はい。後は、就職しようかなって考えてて…でも、私みたいなチンピラの中卒を雇うところなんて、アルバイト位しか無いですし…」
「フム、そうですか。前者は当事者同士である貴女方が解決しなければならない事なのでお役にはたてませんが、後者でしたら、どうにか出来ますよ。」
「へ?」






「私の元に来ませんか?セプター4として、私のクランズマンとして、その力、奮ってみませんか?」





――貴女の探し人も見つかるかもしれませんよ?








―――
―――――
――――――――



「っていう。」
「はぁあ!?」
「ね。そうなるよね。」
「は!?おま、は!?」
「と、言うわけで、さっちゃん探しでめでたく就職しました〜。いえーい。草薙さんとかには、就職決まったんで顔あまり出せないです、とは伝えてある。」
「…美咲には」
「……なにも」
「…そうか」

何処と無く気まずいような、それでいて、心地いいような空気が流れる。
立ち話にしては長いこと立っていたように感じるが、そんなに時間は経っていなかったようで、この話しはまた後でしよう、と2人はそれぞれの部所へ戻るために足を向けた。







その後の伏見と室長と岩戸と青モブ

(伏見君。)
(なんすか)
(君には、本日をもって情報課から特務へ移隊していただいて、彼らを率いて頂きます。)
(は?)
(実質、キミはセプター4の3なのですから、恥じないよう精進して下さいね。)
(…チッ)
(あぁ、それから、特務隊には君を探している人物がいるようですよ。)
(…!)
(それと、特務隊の面子から君の補佐を選んでおいて下さい。)
(いりません。)
(これは命令ですよ、伏見君。)
(チッ。分かりました)



(あれ、さっちゃんさっきぶりー)
(有お前、今日から俺の補佐やれ)
(は!?)
(上官命令)
(え!?あ、はい!)



(っていう出来事がありまして、私は就職したんです。)
H(へー。そんな経緯があったんすね。)
E(赤のクランは大丈夫だったんですか?)
(はい。尊さんにもちゃんと後で正式に挨拶に伺ったので…)
D(えっ!赤のクランに1人で行ったのかよ!?)
(はい。クランズマンがいないことも草薙さんに確認を取ったうえで行ったので。)
G(あ、一応確認は取ったんだね)
(そうですね、さすがに私もそこまでは図太くないので…)
F(まぁ、普通はそうだよな)
H(おい、伏見さんが普通じゃないみたいな言い方はやめろよ)
D(誰も伏見さんだなんて言ってねーぞ日高〜)
H(え!?お、俺、そんなつもりじゃ!?)
(チッ!)
H(え、伏見さーん!!ちょ、待ってください!)












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