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『荷物よーし!青江と蛍よーし!護身刀の為の前田(本体)よーし!…そんじゃ、行こうか』
「分かったよ主」
「ほーい」
「主君をきちんとお守り致します!」
「「「「「いってらっしゃい!」」」」」
『行ってきまーす』
ゲートを潜り、目的を果たすための1歩を踏み出し体がゲートから抜けきるその時。
「あ」
誰かがポツリと呟いた声を薊は確かに聞いた。
『え、え、ちょっと待って。待って。待ってよ頼む。今誰か「あ」って言ったろ。失敗しちゃったてへぺろ位のやつだったろあれ』
「うーん後ろ髪を引かれるってやつだねぇ」
「座標が間違ってた感じかな?」
『お前たちは落ち着いてるね…』
「主と居るとそれこそ厄介事が頻繁に起こるんだし、これくらいならマシな方じゃない?」
「前に政府からの嫌がらせで座標ずらされて時間遡行軍の目の前に転送された事あるからねぇ。今敵は目の前には居ないし…あぁでも、ちょっと距離はあるけれど向こうでドンチャン騒ぎしてるみたいだよ?」
『そういやあったなそんなこと……ドンチャン騒ぎ、ね…行ってみるかァ』
額に手を当てて最近の記憶を掘り返す。
2ヶ月前くらいに狸みたいな役人に集会の時に突っかかられた上に、相手は何を思ったのか本丸の転移装置の座標を数日間ずらしてきたのだ。全くもって迷惑な役人だ。
一応相手に処分は下ったようだが建前なだけで今も元気にこちらを見下している。
まぁ、そんな事はどうでもいいんだけどな。気にしてたらキリがねぇんだからしょーもねぇ。
辺りを見回すと、今いるのは山岳地帯のようで見晴らしのいい切り立った崖が周りにある。すぐそばには落ちそうな橋がかけられている。
『こーんなこの世の終わりみたいな場所にいつまでもいたくねぇわな…とりあえず青江、蛍索敵行ってこい。ドンチャン騒ぎしてる内の好きな方に味方していいよ。隙があれば奇襲もしておいで。あぁ、面倒だから殺しはNGな』
「了解」
「了解。…でも、いいのかい?」
『問題ねぇよ。行ってこい。あとこんのすけ』
一声かければドロンと音をたててこんのすけが現れた。
それと同時に2振りは騒ぎの中心へ駆け出していく。
「はい!ここに」
『何か言いたいことは?』
「も、申し訳ありません薊様…完全にこちらの不手際です…ですが言われた通りゲートは薊様の霊力で常時開閉可能となっております!」
『それに関する嫌がらせか?』
「そうではありませんとはっきり言いきれないのが現状でございます………」
尻尾と耳をたらりと力なく垂れ下げてこんのすけは言う。
目線もこちらに合わせることなく地面を見ていた。
『そ。とりあえず本丸の奴らに説明だけしとけよ。今日は最初と変わらず部隊を動かす気はねぇから待機とも言っておいてくれな〜』
「そんな!危険すぎます!第一部隊だけでも連れ歩いてくださいませ!」
『やァだ。それに俺強いもん』
「貴方様がお強いことは存じておりますがそれとこれは別でございます!!」
『こんのすけちょっと黙れ。敵さんがそこらに隠れてんだよ。あんま大きい声だすんじゃねーよ』
「なっ…青江様と蛍丸様はそれを承知で…?」
『分かってるだろうなぁ。俺の自慢の刀剣だぜ?』
「……はぁ…畏まりました…。こんのすけは伝令役として本丸へ向かわせて頂きます。何かあればまたお呼びください…御武運を……」
『お疲れちゃ〜ん』
ヒラヒラっと手をふりこんのすけを見送る。
それと同時に左手で前田を握り周囲の警戒を怠らない。
――――ふと、目の前の空間が歪み始めた。
以前本丸へ侵入した黒霧と名乗る人物が去り際に見せたゲートと酷似している。
『こりゃいきなり当りかもしんねぇな〜』