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「あ、おそいですよあるじさま!みながまっています!」
『廊下で待たせちまって悪いな今剣』
「ぼくがかってにそうしただけですよ。…ゆめみがわるかったようですが、もうだいじょうぶそうですね」
『あー…、まぁ、大丈夫だ。そんなに情けない顔をしてたか?』
「たおれてしまいそうなくらいのかおいろでした、とだけいっておきます。ぼくはやさしいですからね。こんかいのことはほかのものにはいいませんよ」
『助かる。さぁ、行こうか』
スッと軽い音で襖を開ければ今まで俺が顕現させた刀剣がずらっと並んで揃っていた。
今剣はたたっと軽い足取りで岩融の隣へ腰かけた。
「がはは!主殿、随分寝ぼけていた様だな!待ちくたびれたぞ」
「あるじさまのねおきがわるかったんです!ぼくはきちんとおこしました!」
『待たせて悪かったって。…さて、こんのすけ段取りを説明してもらうぞ』
「はい、では今回の任務についてご説明させていただきます」
いつものように飄々とした態度で佇むこんのすけに広間にいる全員の視線が集まると、こんのすけは静かに話し始める。
「まず、今回の任務は薊様に先程伝令をお伝えしたとおり政府の役人を突如襲い始めた異邦人を捕らえること。相手を捕まえてくれれば政府の方で処置を致します。我々政府が本来干渉出来るのは過去へ渡る刀剣男士に対してのみ。ですが、今回異常事態ということなので顔も確認し、実際に襲われた薊様に異世界へ渡っていただき…」
「待て、こんのすけ。世界渡りにおいて主の身の安全は確実に確保できるのであろうか?俺達は刀剣だ主に振るわれるべき刀だ。その主の身の安全が定まらないのであれば主はいつもの通り本丸にて待機していてもらいたいものだが…」
「岩融殿の仰る通りです…。今回襲われてしまった薊様を直接向かわせるなど危険だとこんのすけも上の方々に進言はしたのです、ですが…」
『どーせ注意喚起した他の審神者たちは表に出すことも出ることもそうそう無いだろうし、上の奴らは政府に侵入されたミスと面倒事をオレ達半端者に擦り付けようってんだろ?んで?オレの身の安全なんてものはぶっちゃけどうでもいいんだろうし?どちらにせよ厄介払いも出来て面倒事も片づけられると。そーいうことだろ?』
「………はい。ですが、こんのすけは!」
『だよなぁ〜。ま、いーよいーよ。そんなこと。どーでもいいから向こうでの生活基盤の保証と、向こうの役人たちに話は通ってるのか、だ』
「…へ?」
ポカーンという擬音が当てはまりそうなほどこんのすけの顔は呆けている。
口を開け、クリクリの目をさらに見開いて薊を凝視していた。
そんなこんのすけの様子を何てことないと一蹴するように薊は呆れたように言葉を続ける。
『だーかーらー、その面倒事片付けてやるから本丸と同じように生活の一切合切を保証しろ。こっちの現世とも同じように連絡取れるようにしろ。それから向こうでオレ達が暴れてもいいという許可をもぎ取ってこい。あっちの異世界で犯罪者になるつもりはねぇ』
「は、はいっ!それは勿論!」
すんなり引き受けた薊とは裏腹に彼の刀剣たちは己の主の身の安全の為に心配そうな目を向け、抗議し始める。
「ちょと!主それほんっとーに引き受けるの!?」
『おう。ついて来い清光』
「そりゃ勿論主が行くならついて行くけど…」
『なら問題無いな。他の奴らは?来ないなら本丸に待機!来るなら来い!』
すっぱりと的確に物事を進めていく。
反論は丸め込み、他の心配を隅に置き、あの主ならば仕方がないと思わせて意見を潰していく。
「相変わらず主は無茶苦茶だね。でもその無茶、嫌いじゃないよ。…放っておくと主は冷や奴しか食べないしね」
『美味いだろ冷や奴。光忠は来るっと…お留守番が良いやついるか〜?』
物事は淡々と進んでいく。
「ぜんいんしゅつじんでそういないですよ!」
『よし。出発時刻は?』
「本来ならば今すぐにでも出発して頂きたいのですが荷物を準備していただく為に一刻後に」
『OK。オレが出した条件は?』
「すでに手配してあります!あちらの用意した部屋とこの本丸は繋げることは出来ますが常時繋いでおくことはできません。早くとも1日はかかります」
坂道の上から転がり落ち、止まることの出来ない小石のように。
『成る程ね。不便だからすぐ繋げるようにしておけよこんのすけ。他の奴らは早急に必要な荷物以外は部屋に置いておけ。じゃ、取りあえず向こうのお偉いさんと話し合いだけだろうし、そうだな…蛍と青江!行くぞ〜!』
「こ、これでもこんのすけは頑張ったんですよ薊殿〜〜!」
更に仕事を増やされ嘆くこんのすけを余所に薊の刀剣たちは各々動き始めた。
「はぁ〜い」
「僕を連れ歩くのかい?」
『今ちょうど2振りと目が合ったから』
「…それだけかい?」
『おう。青江は初期から居るし気が楽。蛍は物騒で可愛い』
「俺褒められてる気がしないんだけどぉ〜」
『頼りにしてるってこった』
「それならいいケド〜…」
全ては大切な人を護る為に