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懐に入っている短刀を確認するように撫で、耳を澄ませるとキーンという耳鳴りのような音は段々と大きくなってきていて不快感が増してくる。

『……チッ、嫌な予感ってのは外れて欲しい時ほど良く当たるよ、なぁっ!』

懐から短刀の薬研を取り出して耳鳴りの良く聞こえる方向へ鞘ごと振り下ろすと、ガキンッと何かを弾く音が鳴り足元に何かが転がる
今日は月明かりが煌々としていたのでハッキリと見えたそれは何か機械仕掛けの首輪のようなものだった。

顔を上げれば部外者は侵入出来ない筈の自分の本丸に人が立っていた。しかし、相手を人と呼んでいいのか薊は内心狼狽えた。
何故なら相手の首から上は靄がかかったかのように揺らめいて周りの闇夜と同化していたからだ。

「……おや、いい反射神経をしていますね。あの怯えきった役人共とは大違いだ」

『…お褒めに預り光栄だが、あんた誰だ?どうやってこの本丸に侵入した?』

「どれもお答えする義務はありませんね。貴方に恨みはありませんが貴方方の力に我々は用があるのですよ」

『玄関から入る事もお邪魔しますと挨拶をする事もろくにせず人ん家ずかずか上がり込むような不審者はお引き取り願いたいねぇ』

「不審者と呼ばれるのは不本意ですね」

『表情すら分からん輩を不審者と呼んで何が悪い』

「ふむ…それもそうですねぇ。しかし貴方とは長い付き合いをしていきたいので自己紹介でもしておきましょうか。私は黒霧と申します。我々に力を貸していただこうかと思い今日は訪問させていただきました」

『勝手な事ばっか言ってんじゃねーぞコラ。嫌だと言ったら?』

「悪役のセオリー通りに貴方の命は無い、とでも言っておきましょうか」

『今時三流ドラマでもそんな事言わねぇだろ。あんたここがオレの城って判っててそう言ってんだよなぁ?趣味の悪りぃ首輪みてぇな物騒なもん投げやがって。ならオレもセオリー通りにやれるもんならやってみろって言っても良いんだよなぁ?』

「そう上手く行くでしょうか?ほら、貴方の城だというのに臣下は誰一人として出てこないじゃありませんか…可笑しいですねぇ」

『!へぇ…成る程な…役人共から奪った霊力で中庭に結界でも張ったのか?頭のモヤとか結界張ったりといい多芸なやつだな全く…めんどくせぇ』

「助けは来ないというのに肝が座ってますねぇ。貴方を此方側へ引き込む事は骨が折れそうです。しかし敵に回れば厄介ですので多少の強引さは必要ですね」

その言葉が合図になったかのようにお互いが探り合うように交わしていた言葉の応酬は止まり、心地よい風が吹いたその時。タタタッと走る音、勢い良く障子を開ける音が聞こえ始めた。

「大将!!返事をしてくれ!何処にいる!?」

結界の外で薊を必死に呼ぶ薬研の声が響く。目は此方を見ていない。
薬研の本体を振り回しているからこそ異変に気付いたようだ。そのおかげかどうやら中庭に張られた結界は丹念に練られているようで認識を曖昧にするもののようだと気付く。
本丸に居る他の刀剣達も何事かとざわついてすぐに薊の捜索に取り掛かり始めた。

「よく出来た結界だったはずなんですが…この数分で異変に気付き、その上貴方が居ないことをどうやって嗅ぎ付けたんでしょうねぇ。素晴らしい忠誠心だ」

『自慢の懐刀だからな。ついでに言えばオレがこんな城主だからか全員がこんな荒事に慣れっこなんだよ』

その言葉を待っていたかのように烏帽子をかぶった黄緑色の着物の男とストラを付けた紫の神父服のような格好の男が中庭へ降りてきた。

「石切丸本当にここに主がいらっしゃるはずなんだな?」

「そのはずだよ。怪しげな霊力も一緒にあるように感じるし…結界の一種じゃないかな」

「ならすぐに救出するぞ!主!お待ちください少しの辛抱です!」

「相変わらず君は忙しないね。でも早めにどうにかしないといけないから仕方ないか。払いたまえ清めたまえ…はぁっ!!」

二人の刀の力に耐えきれず、パリンと音をたて結界がぼろぼろと崩れ去っていく。

「主、ご無事ですか!?」

「大丈夫かい?」

『お〜悪いな二人とも。助かった』

「…時間切れ、ですね。今日の所はこれで帰らせて頂きますが次の機会に色良いお返事を期待していますよ」

『お断りだ。帰れ帰れシッシ』

「主…そんな犬猫を払うみたいな態度で良いのかい?」

『べっつに政府に不審者を捕らえろとか命令されてねーもーん』

「しかし主の妨げになるような不審人物は生かしておく必要は無いかと」

『そんな事言ってると政府に反逆しないといけなくなるので却下だ長谷部』

「出過ぎた事を言いました。申し訳ありません」

開き直る薊に呆れたようにしている石切丸、頭を垂れる長谷部。その様子を面白そうに見届ける黒霧。
一言で言うならばカオスである
勿論互いに警戒は怠ってはいないが、今回はこれ以上手を出し合うことは無いと分かっているからこそだ。
黒霧の背後には頭と同じような霞みが出現し、そのまま呑まれて男は消えた。

『あ”ーつっかれたぁー!!!石切丸このまま結界の張り直しするぞ!道具持ってきてくれ!長谷部、太郎呼んでこい!』

「分かったよ主」

「はっ主命とあらば」

『それが終わったらとっとと寝るぞ!眠い!!つーか奴は自分で移動可能っぽいし結界張り直しても意味無くね…?』

「大将!無事だったか…!!」

『おー薬研心配かけて悪かったな。お前のお蔭で生きてるよ』

「安心したぜ。いきなり使われた感覚があったからな。大将はそのまま俺を持っておいてくれや」

『そうさなぁ…なら朝返す。んで朝餉のあと本丸会議するか。出陣は無し』

「掲示板への貼り出しと呼び掛けは俺っちがしておくぜ」

『ありがとな』

「主、長谷部殿に呼ばれたのですが結界を張り直すのですよね?」

『おー悪いな太郎。今からやって済ませておきたくなった』

「襲われたのでしょう?無理をしては…」

『怪我はねーよ。他のやつらが狙われないとも限らねぇ。安全策は先にとっておく』

「分かりました」





「あれから一時間かかったけど終わったね…」

「後は片付ければ終わりますね…」

『もういいよ、俺が責任持ってやっておく。お疲れ!おやすみ!解散っ!!』

各々自室に戻り明日に備えて寝る。
明日は直ぐにでもこんのすけに頼んで政府に直接連絡をしなければならない。

(絶対に面倒な事をこれ幸いと押し付けられそうで今から憂鬱だ……取り敢えず寝てしまおう………)







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