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賑やかな夕餉が終わり皆が広間でゆっくりしていたり自室に戻ったりして各々自由に過ごしていた。
外は満月の月明かりに照らされ中庭の紅葉があやしい色を孕んでいて幻想的な雰囲気だ。
薊は廊下を歩きながら目的の一部屋の前で立ち止まる。
『太郎今手ぇ空いてるか?入るぞー』
「おや、構いませんが…主何かありましたか?」
『おう明日ちょっと本丸の結界を張り直したいんだよ。手伝ってくれ』
「私に出来ることでしたら使って下さい」
『助かる。あと石切丸にも声はかけてあるから卯ノ刻にオレの部屋の前な』
「そうですか。わかりました…主、不穏なことは余り言いたくありませんがなんだか嫌な予感がするのです…何もないと良いのですが……」
『お前がやな予感するとか信憑性高すぎだろ…オーケー頭に入れておく。寛いでるところに悪かったな。また後で』
「はい、お休みなさい主」
スッと障子を閉めて歩き出す。
考えるのは昼間きたメールの内容と夕方帰還した乱の報告、自分でハッキングした内容を頭の中で確認していく。
相手は正体不明。目的すら不明だが現状を見る限り霊力の強奪、もしくは消去。更に奪った?消した?霊力の利用法は不明。
現時点では奪い取ると仮定する。霊力を消すのなら歴史修正主義者は政府の役人より審神者を直接的に初めから狙ってくる筈だ。
そもそも霊力を奪い取るって時点でそんな事が可能なのか?と前提から疑問だらけだが、奪い取られたヤツは寝ても覚めても霊力は戻らなかった。
つまり読んで字の如く根こそぎ無くなっている。これが審神者だったらと思うと恐ろしくなってくる。もし、奪い取った霊力を自分の力に変換可能なら?本丸を乗っ取る事は簡単に出来てしまうだろう。
そんな事はさせないと思っていてもどうなるかなんて分からない。自分の王すら守れなかった苦い思い出が蘇る。
未来視の力なんてものはオレには無いから自分の勘頼みだ。
太郎も言ってはいたが今回のはオレも嫌な予感がする。
個人的に言えば審神者としての始まりも唐突な胡散臭い役人からの招集で、抵抗するなら吠舞羅に摘発かけるぞと脅されていたからなので政府を襲撃した奴には「すっきりしたありがとう」と固い握手をかわしたいくらいだ。
暴力を司る赤のクラン的に言えば政府を無視しても問題はないんだろうがいかんせんうちの前王は崩御、継いだ次世代の王はお子様だ。何かあっちゃ困るってのがオレとNo2の出雲とで出した答えである。
(審神者としての未練なんてクソ程も無いからいっそ霊力が無くなった所で引退ってなっても構わないんだがなぁ…自分で拾って自分の内側に入れた仲間なら大事にしろってアイツなら言ってくるんだろうなぁ)
『はぁ…』
「たぁーいしょあんたが溜め息なんて珍しいな。乱からちらっと聞いたがそんなに政府からの案件は面倒なのか?」
『おう薬研か。まぁ、気になる所を上げていけばきりがない位にはめんどくせーな』
「なんなら俺っちを懐に入れておくかい?有事の際は力になれるぜ」
『そうだな…安全面を取るならその方がいいか。頼むわ』
「任せてくれ大将は必ず守る。そのための懐刀だ」
薬研の本体を預り懐に入れる。薬研はそのまま長谷部や宗三がいる部屋へ向かって行くのを見届け、そのまま自分は自室へと向かいながらあと声をかけるべき面子は居ただろうかと首を捻りながら廊下をひたひたと歩く。
青江とか?いやアイツは幽霊担当だろ。光忠?物理にモノを言わせるか?いやいや違うだろ…
まぁ、いーかどうにかなるだろ。なんて軽く考えていた。
――――ふと、空気が変わった気がした
キーンと耳鳴りのような音がし始めて一向に止まない。周りを確認しても刀剣達には何も無いようで誰も廊下へ出てくる感じはしない。
『薬研、悪いな早速仕事してもらうぞ』
薊の声に反応するようにカタリと刀が震えた