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俺と目が合った平野が慌てたように駆け出してきた。
その後を追うように3振りも早足で集まった。
「主君!お怪我は?というか、濡れたままではありませんか!?そのままでは風邪をひいてしまいます!」
『俺のことは後でいーの。ありがとな』
「主、これで良かったら使うかい?」
『それお前さんの白装束じゃん。せめて手ぬぐいをくれよ』
「ガーゼと包帯ならあるぞ大将」
『使えたとしても足りなさすぎるだろ〜がお茶目か』
持っているものをこちらに差し出してくる青江と薬研の行動を見たお小夜が自分も何かしらを出さなくてはと思ったらしい。
上目遣いで差し出してきたものは…
「…主…袈裟、使う?」
『ありがとなお小夜。でもお小夜もずぶ濡れじゃん?それめっちゃ水滴ってるじゃん?とりあえず絞れる所は絞っておきなさいよ』
「はい…」
「俺のマント吹っ飛ばされたりしてボロボロで砂埃まみれだけどこれつかう?」
『なに?俺もしかして蛍に嫌われてんの?』
「いや、俺もこの流れにのった方がいいのかなって」
『皆あれだろ。ボケ倒すってことは結構疲れてるだろ。半笑いで差し出してきてない平野とお小夜は良い子だからあとでとっておきのカステラをあげよう』
「ヌかなきゃいけないのはつらいよね。…手加減の事だよ?」
「向こうは殺す気で来てるからなぁ。ま、やられる気なんざ更々無いが」
「あとでちゃんと手入れしてよね主。あと俺も食べたーい」
「…兄様たちの分も欲しい」
『おー分かってるって』
ケラケラ笑いながらおやつの話しをし出した途端、顔色が悪くなりだした平野。
恐る恐る挙手をして口を開いた。
「…主君、とっておきのカステラというのはもしや黒糖のカステラでしょうか…?」
『ん?そうだけど…あれ、平野に前にやったことあったか?』
「あ、いえ、その…恐らく多分絶対一昨日鶯丸様と一緒に頂いてしまいました…申し訳ありません!」
『おーそーか。別に食うのは構わねぇよ。でもさ、あいつなんで俺が隠した数あるおやつの中で良いとこのヤツみつけるの上手いの?ブラフも仕掛けてんのに……』
「大将そんなことしてたのか」
『秋田と今剣と隠し場所考えながら一緒にやった。後悔はしてない。でもたまに俺もどこに隠したか忘れかけた時に秋田が見つけ出してくれて一緒に食べたり他のやつらに回したりしてる』
「ちょっと危なくなったお饅頭とか揚げ饅頭にして食べたよねー」
「あぁ。あれ美味しかったよねぇ」
「…厨組が発掘したお蕎麦を揚げたやつも美味しかった。かりん糖みたいで」
『それな。火を通して揚げりゃ大体旨くなる。つまみにもいいから酒飲み連中にも人気だったなァ』
だらだら喋りながら重傷の蛍丸とずぶ濡れの小夜左文字を先に帰すために陣を展開させた。
『よーしゲート開くぞ。平野は蛍を支えて手入れ部屋に連れて行ってやってくれ。お小夜は風邪ひいたら兄ちゃんズがおっかないから先に戻って体を温めておいで』
「はい。お任せ下さい」
「はい…」
3振りを見送り、残りの刀たちを待つ。
来ていないのは後藤、乱、愛染。
練度的にもやられることは無いだろうと悠々と待つことにした。
おそらくだが本来なら今日行われるはずだった話し合いは後日に流れてしまうだろうな、と思いながら相手方への謝罪やら根回しやらをどうしたもんかと頭を捻らせる。
「大将!戻ったぜ!」
「わぁ!彼が後藤君の主さん!?和服の似合うイケメンさんだねー!」
『随分賑やかなのが帰ってきたなァ』
「いや、氷で足固められたりしてこっちも大変だったんだぜ?つーか大将!葉隠さんすごいんだぜ!見てくれよ透明人間!!」
「どもども!」
『ヘェ、服も透けんのか。…ん?でも手袋と靴は見えてる、よな…?』
「服は透けないです!」
『ちょっと待て。え、全裸……?…全裸!?後藤!!』
「了解!!」
葉隠さんが全裸でいると知るや否や後藤が素早い動きで俺の言いたいことを理解し、上の服を1枚脱いでYシャツ1枚になり肩に服をかけてやる。
いくら見えないとはいえ、少女の全裸宣言の後そのままにしておく趣味は無い。
俺も貸せるなら羽織を渡したかったがそれは八百万に貸したままなので手元に無いし、残念な事に今自分自身もずぶ濡れなので貸せる服又は布が無い。
とりあえず後藤の服でも問題は無さそうなのでそのままにして、他に戻ったやつらはいないかと周りに目を向けると、奥からまたもや元気に帰ってきたものがいた。