18
ボロボロになりながらも拳を握ったまま口元に笑みを浮かべ、勝利を確信したようにオールマイトは話し始めた。
「やはり衰えた。全盛期なら5発も撃てば十分だったろうに300発以上も撃ってしまった。さてとヴィラン、お互い早めに決着つけたいね」
「チートが…!衰えた?嘘だろ…完全に気圧されたよ。よくも俺の脳無を…チートがぁ…!」
「どうした?来ないのかな!?クリアとかなんとか言ってたが…出来る物ならしてみせろよ!!」
威嚇するオールマイトと首回りをかきむしりながら負け惜しみを言う死柄木。
ブツブツと不穏な空気を感じ取った薊は一気に死柄木の横に立っていた黒霧へ突っ込んで行った。
「「主!!/大将!!」」
「青年…!?」
『黒霧を逃がす訳にはいかねぇ!ここで確実に仕留める!!』
「焦るな大将!部隊の揃っていない今確実な確保は難しい!!」
「俺の事は無視かよ。ムカツク奴だな…黒霧、そのままアイツを飲み込んで先生への手土産にしよう。あぁ…脳無さへいれば!!奴なら!!何も感じずに立ち向かえるのに……!!」
「死柄木弔…落ち着いて下さい。あの男は好都合ですし、それにオールマイトはよく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている。問題無いでしょう」
『ウルセぇな!好都合だの何だのと…!そう何度も見てるワープに飛び込みに行くかってーの!!』
…たぶん俺の見間違いじゃなけりゃ土埃にまぎれておっさんの体から蒸気のような物が上がっている気がする。
あれだけのラッシュを打ち込んで走り回ってんだ。
体への負荷におそらく耐えられてないのだろう。
口を動かす前に拳を叩き込んできた人だ。
つまりおっさんの無駄口は時間稼ぎで、たぶんもうそこから一歩も動けないのだろうと思ったからこそ動く理由のある俺が飛び出した訳なんだが…。
上鳴たちと会ったときにここは“学校の敷地”だと言っていたし、恐らく援軍ももうすぐ来るはず…!
数分、数秒でもいい。
『オラオラァッ!ボーッと突っ立ってるとそのまま丸焼きにしちまうぞ!!』
奴らの気を引いて時間を稼ぐ!!
「無茶すんな大将!俺っちも行くぜ!!」
「背中は任せて欲しいな。古参のプライドもあるからね」
黒霧と死柄木へあと数センチで切先が届きそうになった瞬間
ドズッという音が何発も響き渡る。
…ようやく援軍が到着したようだ。
時は少し戻り――――
―山岳ゾーン―
乱が走ってたどり着いたその場所は敵だったであろう人達が倒れており、電撃で焦げている人や炎で焦げている人も見受けられる。
更に奥へ奥へ走って行くと、少し開けた場所へ出た。
咄嗟に人影を確認した乱は岩の影に身を隠し、様子を伺う。
見えた人は4人。
2人ずつ向き合ってはいるが、男の方は少年を盾に少女2人を脅かしている。
少年は体に力が入っていない様で相手のなすがままになっている。
声は思ったように聞き取れないが、危機が迫っていることは明白。
まずはどうにかして男の意識を反らさねばならない。
幸いにも少し左に回り込めば背後を取れる位置にいる。
周囲を見回し手頃な小石を手に取った乱は大きく振りかぶり山なりに石を投げ、男の頭上を越えたその先に石を落とした。
ヒュッ───……‥
カツン──…‥
落ちた石の音に一瞬でも目を向けた相手の背後を取り、刀をのど笛に突きつける。
手っ取り早く押し倒してマウントをとってしまう方が確実だが、それをすると少年が怪我をしてしまうのでやめ
た。
「なっ…!」
「その子を離して。おとなしく言うことを聞いてくれないと首と胴体がおさらばするよ」
「くっ…!このガキが目に入ってねぇのか!死ね!!」
「貴方がその少年を殺すのとボクが腕を振り抜くの、どちらが速いか…試してみる?」
殺気を込めて睨めば男の手は少年の方へ近づける事はしなかった。
いや、出来ない、と言った方が正しい。
いくらヴィランといえども本物の戦場を生き抜き、駆け抜け、存在した経験者の殺気に耐えられはしないのだから。