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「攻略された上全員ほぼ無傷…すごいなぁ最近の子供は…恥ずかしくなってくるぜ敵連合…!」
『いやぁ…お兄さん的には敵連合なんてダサすぎて名乗れないわ〜そこめっちゃ尊敬するわ〜』
「…脳無出入口の奪還だ。あとあの男も腹が立つから殺せ」
『嫌だなぁ。俺がただで殺されてやるわけねーじゃん?お馬鹿さんなの?』
死柄木の口から“殺せ”と出た瞬間薬研は刀を構えて薊の前に立っていた。
青江も爆豪にデクと呼ばれていた少年から離れ、薊のそばへ戻っていた。
守りは万全。しかも命令を下された脳無は未だに左半身を氷で固められている。
薬研と青江から敵をわざわざ煽るなを一瞬こちらに目を向けたが、知らん顔でスルーした。
脳無は命令をこなそうと、力ずくで脱出を図り、その際自分の左の手足を砕き割って氷から抜け出した。
『うっわ…まじかよ』
「身体が割れてるのに動いてる…!?」
「皆下がれ!なんだ!?ショック吸収の“個性”じゃないのか?!」
「別にそれだけとは言ってないだろう。これは“超再生”だな」
その言葉と同時に手足の再生が始まっていた。
「脳無はお前の100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバック人間さ」
『改造人間かよ。悪趣味だな』
「なんとでも言え。勝てればそれでいーんだよ」
少し前を脳無が走り抜ける。
風を感じた頃には奥でNo.1ヒーローのオールマイトさんが腕で攻撃をガードした状態で追いやられていた。
目では追えた。
体が動くかが問題だが、まぁ、炎で勢いをつけるのと2振りと共闘した上でなら対処はなんとかなる。
「…加減を知らんのか…」
「仲間を助ける為さ。しかたないだろ?さっきだってホラ、そこの…あー…地味なやつ。あいつが俺に思いっきり殴りかかろうとしたぜ?」
他が為に振るう暴力は美談になるんだ。そうだろ?ヒーロー?
と吐き捨てたヤツの台詞には『なるほど。確かに』なんて賛同しそうになる。
「なぁ、ザコ。お前もそう思うだろ?」
『あー?まぁそう思わねーこともねーけど、お前と同レベルになるのも癪だから俺の意見をはっきり言わせてもらうけどさァ…お前は他所様の家に土足で上がり込んで茶ァ出せなんて言うのかよ。正当防衛って知ってっか?』
『ありえねーだろーがよ。本当に頭に脳味噌詰まってんのか?ただの侵入者たるお前らヴィラン連合とやらは無い頭振り絞ったらさっさと巣穴に帰ってクソして寝ろ』
短刀を逆手に持ったまま中指を立てて言い放った直後。
脳無は薬研の目の前に立っていた。
右腕を振り抜き薬研を吹っ飛ばそうとしたが、空振りに終わったことに気づいた時にはもう遅い。
上に避け、飛び上がった薬研は振るわれた右腕の上にいた。
軽い着地音と共に足を横になぎ払うことで脳無の顔を蹴り、反動で飛び退いてその場を去る。
薬研の影に隠れるように真後ろにいた薊の炎が脳無を襲う。
肉が焼ける匂いがしたが、再生もしていてダメージとしてはそんなに入っていないようだ。
動きが鈍くなっていれば上々くらいで青江が斬りかかる。
左手で防がれ、弾かれたがすぐに体制を立て直しもう一閃刀を振るう。
『ラチが空かねぇな…!おい!おっさん!生徒を逃がせ!』
「おっさん!?」
薊がおっさんと呼んだことにオールマイトはショックを受けた反応をした。
「3対6だ」
「モヤの弱点はかっちゃんが暴いた…!!」
「とんでもねぇ奴らだが俺らでサポートすりゃ…撃退できる!!」
やる気に満ちあふれている生徒達を止めたのはショックから立ち直ったオールマイトだった。
「ダメだ!!逃げなさい」
どうする…?生徒達はやる気だし脳無の攻撃は止まねぇし…
「主、このままじゃジリ貧だよ。どうするんだい?」
「スパッと首をはねさせてくれりゃどうにかなるんだが、なっ!!」
『それが許可出来りゃ俺だって敵全員レアじゃなくてウェルダンに焼き上げてるっての!』
2振りと1人で代わる代わる相手をしているが本気を出して殺してしまえば教育上よろしくない上に後々お話し合いの時に不利になりそうで決断が下せない。
脳無を無力化するには司令塔である死柄木をどうにかした方が早いか…?
攻撃を紙一重で避けながら思考は止まらない。
「脳無、黒霧、やれ。俺は子供をあしらう」
最悪だ。
黒霧までこちらに来るとなると連携が取り辛くなる。
またどこかへ飛ばされては敵わない。
『…チッ!嫌になるなァ…』