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ズドォン!!というけたたましい爆音と砂塵が舞う中、薊は状況を見守っていた。
先程の天パ少年の比では無い威力でNo.1ヒーローが猛威を振るっている。
『いや、ほんと何?どんな世界よ。万国ビックリショーも裸足で逃げ出しそうじゃん。つーか、そもそもNo.1ヒーローとは…?アメコミかってーの。どーすっかなァ…』
煙草吸いてぇな…なんて現実逃避しつつ、当初の予定としては自分、蛍丸、青江だけでお偉いさんと会談予定が入っていただけでこんな戦闘に巻き込まれるなんてこれっぽっちも考えていなかった。
最初に相手したチンピラ集団だけなら弱いやつらが群れていただけだから問題は無かったけど、脳無やら死柄木やらの相手をするなら万全の状態で挑まなければ危うい。
自分に触れさせない、近寄らせないってだけならいくらでも距離を取って相手は出来るがそれではいつまで経っても勝てない。
子供を守りながら戦うだなんて厳しい状況すぎる。
そのため子供の保護優先で素早さ重視の短刀部隊を呼んだが、その際のこんのすけのそら見たことかと言わんばかりの目には腹がたったが、自分の力を過信し侮った結果なので目を反らすことにする。
戦況を見守っていると、No.1ヒーローと脳無がつかみ合い、黒霧も手を出していて不利な状況が出来上がってしまった。
それを見た避難しながらも戦闘の行方を気にしていた天パの少年が泣きそうな顔をして突っ込んで行っていた。
『!いやいや、危ないでしょーよ!青江!!』
「はーい危ないよ?少年」
「えっ、うわぁ!」
「どっけ!!邪魔だ!!デク!!」
少年に近かった青江に抱えて下がるように命じ、別方向から飛び出してきた少年がBOOM!!と盛大な爆発を引き起こし黒霧を押さえつけ、マウントを取った。
それと同時に紅白頭の少年の足下から一部の地面が凍り、そのままNo.1ヒーローを掴んでいた脳無の左半身を凍らせ、解放に成功し、更にまた別の赤髪の少年が死柄木へ手を振り下ろして避けられていた。
「くっそ!いいとこねー!!」
「スカしてんじゃねぇぞモヤモブが!!」
「平和の象徴はてめぇら如きに殺れねぇよ」
「かっちゃん…!皆…!!」
「よっ!たぁーいしょ。待たせたな!」
『おー。薬研おけーり。つか、展開早すぎてお兄さんついて行けないんだけど、そこの口の悪い少年はアッチの子じゃないの?』
「ウルッセェ!黙れやクソが!!」
『ワオ。息をするように飛び出す罵詈雑言。威勢が良いなァ…』
「だがその分警戒心も強けりゃ判断能力も悪くないぜ。あと仲間想いのヤツもいて成長が楽しみだな」
「出入り口を押さえられた……こりゃあ…ピンチだなぁ…」
「このウッカリヤローめ!やっぱ思った通りだ!モヤ状のワープになれる箇所は限られてる!そのモヤゲートで実体部分を覆ってたんだろ!?そうだろ!?」
全身モヤの物理無効人生なら「危ない」っつー発想は出ねぇもんなぁ!とどちらが悪役か分からない形相と口調で黒霧を追い詰める少年。
そばにいた赤髪少年が「ヒーローらしからぬ言動」なんて言っていたけれど、どうやらここは正義と悪が明確になっている世界らしい。
『あの子らのお名前は?』
「口が悪いのが爆豪。仲間想いが赤髪の切島だ。あの紅白髪は俺っちも分かんねーが…」
『そうか。というか、俺もこの世界がどういう世界かって理解してねぇんだがどうすっかな…』
「大将と同じように異能を持った奴等がいる世界って理解以外に何か気になるモンでもあったのか?」
『そーだなぁ…明確に“ヒーロー”と“ヴィラン”がいるって事ぐらいか?そんなにはっきり明暗が分かれるモンかな、と』
「なるほど」
『あと異能を持ってるにしても身体的特徴を持ってるやつも多いって事ぐらいか?見た目が岩だったり、脳味噌丸出しとか驚くよな』
「あー、俺もさっきカメレオンみたいなやつとか動物系のやつを見たが驚いたなぁ」
“ヒーロー”と“ヴィラン”
“異能”と“個性”
似ているようで違う世界。
後で詳しく調べさせてもらって何年前から、どんな状況でどう社会が変化していったのか見ておかねぇと…。
俺もついウッカリでこちらの人達に捕まりかねない。
別に捕まっても構わないけど、それはそれで出るまでの手続きが面倒くさそうだ。
こっちの政府はぜってー俺の事を後回しにして何年もかかりそうだし、ウーンやっぱ勘弁願いたいもんだなァ。
さて、俺はどう動こうか…。