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青江が目を広場へ向けると、そこには脳が向きだしの得体の知れない相手に蛍丸と手を貸していた男性教師が押されていた光景だった。
そして、視線を向けた隙をついて黒霧は広場にいる死柄木のもとへと転移してしまう。
それに気づいた青江はワンテンポ遅れながらも黒霧の後を追い、階段を駆け下りて広場へ。
更に最悪の事態は重なり、蛍丸は男性を庇い重傷を負っていた。
膝をつく蛍丸。怪物の手が蛍丸へのびるが男性教師が相手の力を打ち消し、武器をつかって軌道を反らした。
ターゲットを男性教師に移しあまりの攻撃の速さと重さでマウントを取られ、腕を握られ小枝を折るようにへし折られた。
「っ!!!」
「くっ…やるじゃん…でも、本気の俺はすげぇんだからね…!」
ブオンッと勢いよく刀を薙いで怪物を男性から離そうとしたが相手は避ける事すらせず、蛍丸の太刀を受けた。
いくら峰打ちとはいえ大太刀の一振りは重い。
しかし、その一撃は吸収されてしまう。
ビリビリと手を痺れさせながら後ろへと飛び退き距離をとる。
「うっそぉー…勘弁してほしいよ…」
「効かないのはショック吸収だからさ。ゆうっくりと肉をえぐり取るとかが正解だね。出来るかは別として」
「うげぇ〜…」
「蛍丸!彼は!?」
「息はかろうじてしてるみたい。俺も結構限界なんだよね。青江は?へーき?」
「…君より身体はピンピンしているよ。精神的にはちゃんと斬らせてもらえないから彼らに遊ばれているようで実に不愉快だね。…さて、まずはアレを彼の上からどかさないといけないね」
「うん」
二刀で刀を構え直して敵と向き合う。
両者がにらみ合っているその時気の抜けるような声が響く。
『ど〜も〜。このパーティーの主催者はあんたであってる?挨拶くらいさせてくれよ』
右手に棍棒、左手に短刀を逆手に持ち死柄木たちを見据える。
「「主!!」」
『よォ、お前ら。蛍はボロボロじゃん。後で手入れな。青江、蛍とその他を下がらせてしっかり守れ』
「はぁ〜い」
「了解」
薊の言葉に従い青江の後ろまで蛍丸は下がり、生徒の盾になれる位置についた。
『さて、ここで選手交代なワケだが…アンタらもするかァ?』
「あー…お前は先生が黒霧に迎えに行かせたヤツか」
『あ?記憶にねーな。ザコ相手にいちいち記憶の容量を割いてられねーんだわ』
「ムカツクなぁ…先生から殺すなと言われていなけりゃ粉々にしてたよ」
『“粉々”ねぇ…それがお前の“異能”?』
「“異能”?“個性”だよ。異邦人」
『“異邦人”じゃねーわ。“審神者”だよ。屑共。俺が用あんのはウチに不法侵入した黒霧っつー阿呆だけだ』
『ウチの政府が大層お怒りでな?面倒事を押しつけられた俺チョー可哀想だと思わねぇ?つーわけで、さっさと捕まれやザコ』
勢いよく駆け出し、炎を纏わせた棍棒を叩きつけるがガードされた。
棍棒を掴まれる前にすぐに身を引き、相手がこちらの懐に飛び込んで来ようとすれば炎のみで牽制をかけた。
炎でひるんだ隙に死柄木から逸れてマウントを取られている男性教師を救う為に怪物の頭部のみ火達磨にする。
肉の焼けるエグいにおいに思わず眉間にしわが寄ってしまう。
しかし、そのまま思いっきり棍棒で燃えている頭部をフルスイング。
流石にその場から怪物も退いたが、今度はターゲットを薊に移し弾丸のようなスピードで突っ込んできたため、回避する暇も無く吹っ飛ばされ水難ゾーンの水の中へ叩きこまれてしまう。
「ザコだなんだと言ってくれたわりには脳無相手にその程度かよ…がっかりだ。先生はなんでこの“ザコ”を欲しがったんだか…」
「死柄木弔。今回はゲームオーバーです。それに彼の身は最優先で連れて来るように言われていたのを忘れましたか?」
「黒霧…最初にあの“ザコ”を捕まえ損ねて、今日更に生徒を逃がしてゲームオーバーにしたのはお前だろ?腹立つな……流石に何十人ものプロ相手じゃ敵わない。ゲームオーバーだ。あーあ、今回“は”ゲームオーバーだ。」
帰ろっかと背を向けたが、
「けどもその前に平和の象徴としての矜恃を少しでもへし折って帰ろう!」