血と夜と操り人形

蝶屋敷と呼ばれる胡蝶さんの屋敷へついてからというもの、表立っては何事もなく日々は過ぎていく。
採血は2〜3日に一回されるものの、量は一般的な献血の量と同じくらいである。
胡蝶さんだけが私の採血をし、尚且つ実験もしているようだ。
しかし変わった鬼として蝶屋敷で預かることになったという情報の共有はされているからか、数週間もの間胡蝶さん以外の看護師さんがたには目が合う度に怯えられている。
その度に良い笑顔の胡蝶さんが「うふふ。採血の時間ですよ。」とぶっすりと注射針を刺してわざと痛くしてくるので、学習した私は基本的に部屋から出ることをやめた。
不死者とて痛いもんは痛いのである。
御館様から連絡用にと預かった鎹烏から伝令を受けたら部屋から出るようにしている。
なので昼夜逆転の生活だ。
スティーブンさんともろくに会っていない。
会おうと部屋を出れば怯えられて痛い採血をされ、ついでに余計な行動をするなと言わんばかりに笑顔で器用に睨まれる。


…あれ?私の人権は?
…シテ…ドウシテ…


約束ガチガウヨォ……なんてショックを受けていたが、そもそも私の人権保障はお願いしてなかったやと開き直って夕日の射し込む畳の上で大の字に寝転がる。




……今夜はどこに向かわされるんだろう?




「伝令ェ!伝令ェ!先遣隊ノ隊士達ノ援護ヘ向カエ!」
『出番ねー行きますよ。場所はどこですかー?』
「那田蜘蛛山ヘ向カエ!サッサト行カンカー!」
『初日から一週間はめちゃくちゃ怯えてたくせに今は尊大な態度すぎない?』
「晴ハ人ヲ食ワナイ!私ノ目ハ!節穴デハ無ァイ!!」

ばさばさと翼をはためかせて私を急かす。
嬉しいことを言ってくれる烏だなぁとニコニコしながら部屋から飛び立つ背を追う。
屋敷の廊下で腕を組んで寄りかかるスティーブンさんとすれ違った。


「行ってらっしゃい。」
『行ってきます!』


久しぶりに顔を見て言葉を交わしたが顔色は良さそうで安心した。
門を出てからは更にスピードを上げて目的の場所へ向かう。
夜の闇の中で戦う事を苦には思わないし、夜の空気は好きだ。
懐かしいような気持ちになる。


仲間と共に駆け抜けた……そんな気がしてくるのだ。


駆け抜けてたどり着いたその山の麓。
自分のいる位置が風下のようで、色んな匂いがするがその中でも血の匂いが圧倒的に多い。

『うーん、やばそう。まずは誰かに会えたら情報貰って…』
「村木さん!」
『ん?ありゃ、竈門君だ。鬼殺隊の任務?』
「はい!村木さんはどうしてここに?」
『ここに行けって頼まれたんだ。妹ちゃんもお元気?』
「禰豆子も変わらず元気です!」

竈門君のかけ声に同意するように箱の中からカリカリと爪で引っかく音がする。

目の前の恐ろしさが漂う山から目をそらして会話を続けていると、この時代には珍しい金髪の少年となぜソレを被ったのかと聞きたくなる猪頭の推定少年が会話に入ってきた。

「炭治郎ー!!そのお嬢さんを俺にちゃんと紹介しろよ!何和やかに会話しとんだぁあ!初めましてお嬢さん、俺は「おい!お前強いだろ?!俺と勝負しろ!!」」
『ワァ元気一杯ダァー。』
「失礼なことを言うな伊之助!善逸もすぐに恥を晒すな!」

胸焼けしそうな程キャラ濃いーなオイ。

『ねぇ、君たちここには任務で来たんだよね?じゃれあってていーの?』
「あ゛ーーー!!思い出しちゃったよぉお!待ってくれ!ちょっと待ってくれないか!怖いんだ!目的地が近づいてきてとても怖い!!」
「なに座ってんだこいつ。気持ち悪い奴だな…。」
「お前に言われたくねーよ猪頭!!」
「気持ち悪くなんてない!!普通だ!お前らが異常だ!」

ぎゃいぎゃい吠えあっている彼らを横目に山の入り口へ目を向けると、そこには命からがら逃げてきたであろうボロボロの鬼殺の青年がいた。
ダッシュして近づけば私の様子に気づいた竈門君たちも駆け寄ってくる。

『出血がひどい、止血しますね。』
「……たす…助けてくれ…!」
「大丈夫か!どうした!」

止血の為に持っていた手拭いを使おうとした際に、キラリと何かが光った。
その後すぐにぐんっと引っ張られて吸い込まれるように山へ戻される隊士。

「アアアア!繋がっていた…俺にも!!たすけてくれぇええ!!」
『私は先にあの人追うから!死なないようにね!』
「村木さん!!」

ぐっと膝をバネにして飛び上がる。
こういう時ザップさんなら反射的に血を糸のようにして付着させて見失わないようにのばしてるんだろうなぁ。
その辺の経験もとい判断力が私には足りない。
目に見えるものだけでこなそうとするからあと一歩が届かず出遅れるのだとスティーブンさんに怒られてしまう。
今回のこれもばれたらお説教確定だ。
しかも異世界だからいつも止めてくれるクラウスさんがいない。詰んだなこれ…。
そうこう考えているうちに連れ去られた彼に追いついた。

「どうして一般人が…!私たちから離れて!」
「助けてくれ!」
『私は鬼殺隊の御館様からの依頼でここに来たので助けますよ。皆さんに糸がついてるって解釈でいいんですかね?』
「そう!私たちこんなに強くないもの…!助けて!」

会話をしながらもブンブンと風切り音をたてながら刀を振り下ろしてくる。

『りょーかいです!ちなみに此処へは何人編成で来たんです?』
「10人!」

そこまで聞ければ十分だ。
避けることしかしていなかったが手をぐっと握って爪を手のひらへ突き刺す。
ブツリと音を立てて血を流す。


『なんちゃって斗流血法刀身薙刀……なんて言ってみたりして。』
「ひっ…!お、鬼!!助けに来たなんて嘘ついたのか!?」
「鬼?!あなた…どうして…!?」
『色々と事情がありまして。でも助けに来たのはほんとうですよ。信じてくれとは言わないけど、動けるようになったらちゃんと逃げて下さいね!』


ずるりと生成した薙刀を振って向かってくる刀を受け流し、背後へ回り糸を斬る。
周囲に小さな蜘蛛がいることも確認しつつ、少しでも踏みつぶして殺していく。
繋がったその瞬間にもう斬ってすぐ隊士を自分の背後へ回す。


『ねぇ!糸の切れた動ける人から逃げられません?!』
「動ける…!でもまた操られたら…!」
『限界まで山下って!鬼に近いから余計に強い力で操られるんですよ!』
「そうか…!操られる力が弱まれば俺達でも対処出来る!」
『ある程度のところまでは殿務めるんで!頑張って!』
「そうやって油断させたところで殺すつもりなんじゃ…!?」
『別に信じなくていいって言ったじゃん!下れば鬼殺隊から新しく3人が応援で来てる!その子たちと合流できたならあなたたちよりよっぽど強いから確実に下山出来る!前見て走って!』

薙刀を一振りするだけでブチブチと糸が斬れていくので、変な足運びを一瞬でもしたり、刀を持つ腕が不自然に上がった瞬間に柄を如意棒のように伸ばして完全に操られる前に対処していく。
血で作られた武器の利点を最大限に利用していく。
本人ですら気付く前に対処をしているので薙刀を振り回す度にびびられてしまうがそこはご愛嬌、と言うことにしてほしい。
彼らを守ることに神経を注いでいるから自分への糸の切断は後回しになっているが、私を操るには強度が足りない。
無理矢理動かせば外れる。
最悪腕が切断されたところですぐにくっつけて治るし問題ない。
…自分の体のパーツがばらばらにされることに慣れていくのは良くない、とは思っているがやっぱり不死者の体って肉盾するには便利なんだよなぁ。

走ってどんどん麓まで近くなってくると前方から戦闘音が聞こえ始めた。

「誰かが戦ってる!?」
「鬼殺隊同士だ!!」
『操られてる方はもう亡くなってる!血が流れすぎてる!』
「そんな…!!」
「!お前たち無事だったのか!」
「村田!他の奴らは!?」
「無理だった!操られて殺し合いになった!今応援の癸の隊士が2人山頂へ向かっていったんだ!俺たちはこのまま下山して立て直そう!柱が来るまで持ちこたえないと…!!」
『生きてれば時間稼ぎはいくらでも出来る!今は…!』

立ち止まらずに走れと伝えたかったのに、誰かにおもいっきり背中から押されたような衝撃が加わる。
地面に倒れこんで体を起こそうとするが、背中から押さえつけられる。
自分の背中側の糸を後回しにしていたツケがきたと言わんばかりに、どんどん糸は増えて隊士へ向かっていった。
まるで蜘蛛が獲物を糸で巻いて保存するかのように。

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