テンション上げて勢いで押さえ込んだモン勝ち

ニコニコと笑っている上司を連れて座敷で対面する。
日本語不自由設定のはずなんだよなぁ。
まあ、言葉が分からなくても私の勢いが面白かったんじゃないのって適当な事を言ってながしてしまったけども。

「さて、そろそろきちんと話し合いをしようか。」

庭から場所を応接室に移し、にらみ合う柱たちと嬉々としてお茶を飲む晴とでその場の温度差は増すばかり。
しかし柱たちが吠えようとしないのはお館様に静かにしているように、と指示があったからだ。

『いーですよ!何から聞きたいんですか?』
「そうだね、まずは君は人を襲わないと言ったね。そう言い切れるのは何故?」
『そもそも襲う理由が無いからですね。』
「そう。じゃあ、太陽を克服できたのは?」
『克服どころかはじめから太陽の下を歩いてました。』
「君は鬼舞辻無惨を知っているかい?」
『キブツジムザン?知らないですね。それって人の名前ですか?』
「鬼の始祖。彼がいるから鬼は作り出されるんだ。」
『名前の通り無惨な人生送ってそうっすね。』
「ふふ、君は本当に鬼舞辻に作られた鬼では無さそうだ。」
『どのあたりでその判断が出来るんですー?私今いくつかの質問に答えただけですよね?』
「鬼舞辻無惨の名前を口にした鬼は死んでしまうんだ、だからかな。」















『えっ。……えっえ?私今死にそうだったの…?嘘…人畜無害そうなお綺麗な笑みを浮かべてやることがエグくない…?こわ…。』













柱の人達に抜き身の刀身握りしめてガタガタ震えてろって啖呵切ったけど、震えるのは私になりそう…。
人の上に立つ人って全てを受け入れて包容力で包むか、エグいこと込みでカリスマ性を振りかざしていくタイプかどうしてこうも両極端なんだよ…。
ちなみに前者は我らがボスのクラウスさんで後者はスティーブンさんね。
今後者にお館様がNEW!って更新されたけども。
思わず横で足を崩して座っていたスティーブンの服の裾をキュッと握りしめた。
スティーブンはきょとんとした顔で晴の掴んだ場所を見て、







「フッ。」







鼻で嗤った。









[ゆ、許せねぇ!!謝ってくださいよぉ!!!可愛い部下が怯えてるのに鼻で笑うのはひどくないです??!しかもわらうって笑みの方じゃなく嘲笑う方でしょう!!??]
酷いよおぉ!!可愛い部下がうっかり死んじゃったらどうすんですか!!!???と襟首を掴んでガクガク揺さぶっていると、
[HAHAHAキミがそう簡単に死ぬわけないだろう?不死者なんだから。これで死んでいたら解剖を余すとこなく行ってから他のBBにも有効か試した上でクラウスへ報告だな。その後でキミの死亡報告をして葬儀をしてやるさ。]
[それ絶対中身空っぽの棺じゃないですか!!しかも実証実験してたら結構な日数かかりますよね??!!報告おっっそっっ!!!!!というより、死ぬならその前に記憶を取り戻してからがいいんですが!?]
[記憶は頑張れとしか言いようが無いな。]

畳の上でがっくりうなだれた晴はゴメン寝状態のまま

『この世はクソ。上司もクソ。みーんなクソ。もう何も信じられない。』

べそべそ鼻を鳴らして泣いていると前方の柱の一部がそわそわとし始めたのが空気で分かった。
言語を切り替えて喋っていたため、なんの会話をしていたのか知りたいのだろう。
私が上司の襟首を掴んで揺さぶりながら騒ぎ立てて、その後に私が落ち込むもんだからどうしたらいいのか分からない、といったところか。
誰が動くかな〜なんて思いながら顔を両手で覆いながら上半身を起こす。
先に口を開いたのはフェイスペイントを施した大男だった。

「あー、おい、派手に騒ぎ立ててたがなんて言ってたんだ?」
『…上司が、私が死んだら解剖しまくって空っぽの棺で葬式してやるよって…ひどいよぉ…。』
「は?」
『は?ってなりますよね!!?ほらぁあ!!やっぱり人でなしじゃん!!人の皮を被った鬼よりタチ悪い腹黒陰険鬼畜上司め!!』
「いや、待て待て。派手に経緯を説明しろ。騒ぐな、お館様の前だぞ。」
『うわぁーん!お館様お茶とお菓子美味しいです!ありがとうございます!!うちの上司と性格どっこいどっこいだけど!!!』

いらない一言を添えた事により、あちこちの血管がはち切れそうなほど怒りを滲ませた傷だらけの男が吠えた。

「てめぇ…!黙って聞いてりゃ好き勝手言いやがって!」
『自分の生死かかってんだぞ!!?好き勝手言わなきゃいつ言うんだよ!!今でしょお!!!死んじゃったらどーしようもないし!死人に口なしっていうじゃろがい!!口を閉じたら終わるんだよこっちはよぉお!!言いたい事も言えないこんな世の中じゃPoisonんん!!!』
「クッ…やめ…、やめなさい晴。笑いが止まらないだろう?」



ぴたりと動きを全員が止めた。
視線の先では手で口を覆いながら小刻みに震える上司がいたのを見て一言告げた。



『…日本語不自由ごっこはもう終わりですかー?クソ上司様。』
「ふ、ふふっ…根負けしたよ。けどな晴、お前一人で話しくらい纏めなさい。」
『やったぜ。勝った!話しを纏めあげるっていうのは上司の腕の見せ所では?』
「部下の成長を促すのも上司の務めだろう?」
『しるk』
「おい!!どういう事だァ!!外国語しか喋れねェってのは嘘かァ?!」
『そうですね〜。うっそぴょーんってヤツですぴょん。』
「殺す!!!」
「実弥やめなさい。」
「晴煽るな。」
「普段は優しい子なんだけれどね。」
「いやいや、こちらこそ部下の教育がなっておらずお恥ずかしい。」

いやいや、こちらこそ、なんて保護者面談のような会話の後事情説明に入る。

伝えたことは4つ。

・自分たちは外国の牙狩りであり、ここでいう鬼狩りであること
・いつの間にか日本にいたこと、原因は特殊な鬼の血鬼術のせいかもしれないこと
・人を襲うつもりは無いこと
・鬼殺隊の邪魔をする気も、鬼側へつく気も無いこと

鬼殺隊としての要望は4つ。

・晴の血や髪など体の一部の提供をし、研究へ協力すること
・人を襲わないことの証明をすること
・証明が出来なかった場合は身柄を拘束し、生死は問わないこと
・証明が出来た場合は鬼殺隊へ入隊しないか、という誘い

4つ目に関しては柱の半数以上が異を唱えていたが、お館様の「野放しにするより手元に置いて共闘してもらった方がより多くの人を救うために動けるよね?」(意訳)という説得の元渋々納得するそぶりをみせた。

『いやいやいや、というか私に対する縛りキツすぎません??いや、何も問題無いですけども。でもでもやっぱりおかしくなーい?あちらさんが一方的に得してますやーん。』
「まあ、そうだな。」
『人を襲わない証明が出来ようが出来まいが私っていう実験素材をちゃっかり確保してるじゃん。』
「そうだなぁ。」
『もうちょっと頑張れなかったんですか?番頭の名が泣きますよ?』
「ボクには基本的に全く被害がこれっぽっちも無いからなぁ。」
『ほらー!!これだよ!!もー!!やだぁあ!!!』

ギャンギャン喚くが、次の瞬間にはケロっとした顔で質問をする。

『っていうか、どーやって襲わない証明するんです?今こうやって言葉を交わしてることは証明にならないんですかー?』


しないことの証明って難しくないですか?と聞けば実弥と呼ばれていた男がおもむろに刀を抜いて振り上げるより速く、










「エスメラルダ式血凍道 絶対零度の剣-エスパーダ デルセロ アブソルート-」













晴の体を氷の刃が貫いていた。

『えっ…?』

ごぷりと腹から大量の血を流し、口からも吐き出して畳に倒れこむ。

「ヒッ…!あ、あの!貴方と晴ちゃんは仲間ではないの!?上司と部下だって言ってたじゃない…!」
「!なぜ、貴方は血鬼術を使用できるんですか?」

口に手を当てて青ざめる甘露寺と、蝶の髪飾りをつけた女性がスティーブンへ問う。
他の柱たちは皆警戒体制に入った。

「なぁに手っ取り早くあの子が人を襲わないことを証明するためさ。あと、そちらのお嬢さんの質問だが、これは血鬼術ではないよ。鬼を殺すために編み出されたものだ。キミたち鬼狩りが特殊な刀を使って戦うように我々もまた己の身体を特殊な武器にして戦うのさ。…そろそろその殺気を納めてくれないかい?敵対するつもりはないんだ。」

いくら殺気を向けられようと、何を気にするでもなく飄々と言葉を返す。
さらに悪気はさもありませんと言うように説明を続ける。

「こちらの手の内を明かしてみせたのだって、私なりの誠意のつもりなんだがな?」

ニコニコと笑いかけるスティーブンと刀に手を掛ける柱たちと同じくニコニコしているお館様。

「………ところで、いつまで寝たフリを続けるんだ。とっとと起きろ晴。」

いつまでふざけているのかと責めるように晴へ言葉を告げる。
ピクリと倒れた体が動きだし、普通の人間なら死んでいる量の血をぼたぼたと垂れ流しながら上体を起こす。

『せめてさぁ、「今からお前を傷つけて、弱っても人を襲わないか確認するからよろしくぴょん☆」ぐらい言ってからやってほしかったっすわ…。』
「お前の安全性を証明するためだぴょん。」
『可愛くないのでマイナス10点。もっときゅるんきゅるんのぶりっ子風に言って。』
「あまり調子に乗るなよ?」
『ハハッさては私が向こうさんを煽ってた事について実はめちゃくちゃ怒ってますね?』
「当 た り 前 だ 。余計な手間をかけさせるな。」
『へーい、ごめんなさーい。』

だって反応が良すぎるんだもーん。うぇー口の中血まみれすぎてゆすぎたーい。なんてユルユルの会話をしていると、ふと甘い香りが漂う。
顔を上げれば目の前にいつの間にか来ていた実弥が腕から血を流す姿があった。

「おらっ!鬼ィ!!餌の時間だァ!!」
『やだ…自傷癖でもあんのオニーサン…。』

手当てしないと駄目だよー死んじゃうよ?なんて言いながら手拭いを荷物から出して止血をする。
ポカンと晴を見やる柱たち。
空気がおかしいことを感じ取ったお館様がおかっぱの少女へ問いかける。

「何が起きているのかな?」
「怪我をした鬼のお姉さんが、血を流している不死川様の治療をしています。」
「そう。なら、彼女が人を襲わないことの証明が出来たね。しかも結構な血の匂いだね。激しい負傷していても襲わない、という確約も出来たようだね。」

お館様のその一言で渋々納得する人たちとニコニコとしている人と、心配そうに見てくる人、様々な思惑を抱きながら皆スティーブンと晴の出方を待っていた。

「晴、キミが決めていい。キミはどうしたい?」
『…正直私が一括りに鬼って存在なだけで殺そうとしてくる人たちと居たくないです。スティーブンさんは人なのに私のせいで襲われたとして、危うく死にかけられるのも気分良くないし、でも私は死なないし、鬼なのもどーしようも無いです。』



「なら鬼殺隊に所属するのはやめるかい?ボクは別にそれでもいいが?」



『ううん。やめない。私を殺そうとするのはいい。腕でも足でも臓器でも欲しいならあげる。でも、スティーブンさんには何もしない事を鬼殺隊側は約束して下さい。』

「勿論。手を貸してくれるんだね。我々は君たちを歓迎するよ。」

それじゃあ自己紹介をしようか、というお館様の一言でそれぞれが柱名と名前を名乗り、こちらも所属と名前を名乗りあった。
その中の蟲柱の胡蝶が、パンと手を合わせて告げる。

「お二人は私の屋敷でお預かりしましょう。村木さんにご協力頂きたい事もありますし、拠点は必要でしょう?」
「それはありがたいな、宜しく頼む。」
『お願いしまーす!』
「はい、じゃあ隠の方にまた乗せて頂いて蝶屋敷に向かいます。着いてから屋敷についての説明と、これからの動き方を話し合いましょうか。」

例え表向きだとしても笑って迎え入れてくれるならその方が気分がいい。
にこやかに胡蝶の元へ向かうが、自分に向けられている目が笑っておらず、怒りを堪えているような目で見てくる事も重々承知している。
あーあ、なんて心でため息を吐いているとそっと近寄ってきた上司が

「ボクはキミに守られる程弱い存在では無い筈なんだけどな?」

なーんてからかうように言ってきたので、

『知ってますよー。でも、仕方ないじゃないですか。大切になっちゃったんですよー。戻るその日までは上司で同じ迷子で仲間の貴方の隣に立たせて下さいよ。あのイカれた日々に戻ったら、その時はちゃーんと部下として後ろに控えますから。ね?』

そう言って笑えば、スティーブンは仕方ないと言うように肩を竦めてみせ、その光景を複雑な表情で見つめる視線に気付きながらも知らないフリをした。


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