この世界でのプロローグ。エンドロールはまだ来ない

ダッシュで上司のもとに戻り、一晩起きたまま過ごして翌朝起こったことを報告する。

『かくかくしかじか。』
「まるまるうまうま?」
『は?このアホみたいなノリにのってくれるスティーブンさんは地雷です。やめてください。』
「キミが始めたんだろう?なんで僕が否定されてるんだ?」

私に向かって溜め息を吐いてさっさと話せと促してくるので、へいへいと掻い摘まんで説明をする。

『たぶん竈門君と同じ組織の人でしょうね。桜餅みたいな髪色の甘露寺蜜璃さんに会いまして、鬼を殺すには日光か日輪刀で頸を落とすことが条件らしいです。あとなんかいた鬼が途中で声変わりしたみたいに雰囲気も変化してまして…顔と声が合ってなくて、気持ち悪くて思わず放り出しちゃったら甘露寺さんが斬ってくれました。』
「晴キミはなにをやっているんだ?」
『いや、だってあれはビックリしちゃいますって…唐突に良い声が手元からするんですよ?』
「ヘッドロックでもしていたのかい?」
『いや、【妖怪頸置いてけ】になろうとしてサクッと鬼の頸は落としたんですけど、死ななくってなんでー?ってサイコパスのように遊んでたら甘露寺さん登場からの説明した状況に陥りまして…』
「本当に何をやっているんだお前は…突っ込みどころが満載過ぎるぞ。」
『私もちょっとはしゃぎすぎちゃったなって反省しましたよぅ〜。まっじですんません…』

片手で顔を覆って天を仰ぐスティーブンに、顔を覆いながら頭を下げている晴。
それぞれ天と地を見つつ、パッと顔を戻して会話を戻す。

『今夜もう一度甘露寺さんに会えるように段取りはしてありますけど…なんかお館様?に会ってほしいとかなんとか。』
「そうか。まぁ、会っておいて損は無いだろう。HLに戻るために協力者は欲しい所だからな。」
『そーですね。なら今夜一緒に行きましょう。』

ところで雰囲気の変わった鬼はなんて言っていたんだ?というスティーブンの質問に対して目を逸らしてもごもごといやーよく聞こえなくってーと言い訳を話す。
呆れてため息を吐くスティーブンと体育座りで小さくなる晴の2人を朝日が照らしていた。



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昼の間は何もすることが無いのであの鬼と戦った場所へ行くと、暗くてきちんと確認出来ていなかったが小さな村がそこにはあった。
周囲の噂話を拾えば、昨夜争うような音がしたとか行方不明者が出なかったとか近所で大きな大根が取れたとかそんな話しをちらほらと聞いた。
争うような音は鬼との戦闘の時のものだろうし、行方不明者云々は昨夜退治したの鬼の仕業だろうからもう新しい鬼が来ない限りは安全だろう。
見慣れないヤツだとじろじろ見られていたが、にこやかに挨拶を交わせば特にこれといって怪しまれたり絡まれることはない。

ふと、昨日見たピンク色を見た気がしてあたりを見回せば、詰め襟の服に羽織を着た青年と話し込んでいた。
青年の羽織は半々で模様が違うため別の生地を縫い合わせていると見た…これがハイカラさんってやつか???
まぁいいやと軽く流してその場を離れることにする。
…だって鬼退治の人に会うことは私のトラウマを刺激するというか、ほら、こう、殺気に満ちたお部屋に連れて行かれて囲まれた記憶が蘇るのであまりお仲間がいるであろう場所には進んで行きたくないんだよなぁ…なんて誰に言い訳しているのかよく分からないまま彼らから背を向けた。




しかし現実は残酷で




「あらっ!晴ちゃんは本当に日の下でも歩けるのね!すごいわ!!」
『わーまじか…フラグの回収早すぎでは?今北産業なんて望んでないんだが??』
「…甘露寺、こいつが」
「ええそうよ!さっき冨岡さんに話した鬼の晴ちゃん!可愛らしいでしょう?!それにとーっても強いのよ!!」

キラキラと輝かしい笑顔を振りまいて話す甘露寺さんと無表情だがこちらを警戒して刀に手を添えている冨岡さんとやら。
態度に差がありすぎじゃない??
何はともあれ人として挨拶はせねばと向けていた背を向きなおしてとりあえずお辞儀の角度は45度!!

『初めまして。ご紹介に預かりました村木晴と申します。』
「あぁ。」

深々と頭を下げたのは私だけど、これ引かれてるの?「あぁ。」しか言われてないんやが??
自己紹介私したよね???自己紹介で反応返せよ??
あれですか。鬼の私には名乗りたくないってか???お?戦争か??やるぞ???
心の中でファイティングポーズを取った所でゆっくり頭を上げた。

「…冨岡義勇だ。確かに鬼の気配がするのに何故お前は日を浴びても死なない?」
「私も詳しく聞きたいわ!教えてちょうだい?」
『冨岡さんですね。よろしくお願いします。あー、えーっと、そうですね…ざっくり言っちゃえば鬼だけど種類がまず違うんですよ。』
「鬼に種類があるのか?」
『うーん、簡単に言ってしまえば私は外国産でここのは日本産って事です。』
「外国にも鬼がいるのね?」
『ウン。』

この世界の外国にBBがいるとは思えないけど。
だってBBは異界産だし…。
でもそこまで説明するのは面倒。たぶんお館様の前でスティーブンさんが説明してくれるよたぶんきっと!
上司に全部投げて押しつけちゃえの精神で適当に話しを合わせていると、興味深そうにしかし腑に落ちないといった顔の冨岡さんが質問を重ねてくる。

「お前とその他の鬼の違いは?」
『不死か否か。』
「…なぜ不死だと判断出来る?」
『私を飼うことに決めた組織の文字通り血の滲む努力あっての調べにより判断されています。私は不老不死です。』

長い年月をかけて殺す為の方法を探しながら牙を磨いているんですよ。なんて我らがリーダークラウスの姿を思い浮かべながら喋る。

「不死だと証明出来るのか?」
『んー痛いのは嫌なのであまりやりたくないですねー。…でも、証明しろと言うのならその刀で私の頸を斬りますか?良くはないけど良いですよ。私の上司からも許可が出れば、ですけど。』
「その上司さんは今はいるのかしら?」
『別行動中ですね〜。でも今夜甘露寺さんとの約束のために一緒に会いに行くつもりでしたよー。』
「お館様に会ってもらえるのね!ありがとう!先程会うための段取りをしましょうってお返事がきていたの。早いほうがいいわ!」

昼間に会ったならその分予定を前倒ししましょうとふんすふんすと意気込む甘露寺さん。
そんな甘露寺さんを横目に何を考えているのか分からないすんとした顔の冨岡さん。
対照的な二人と話し込んでいると背後から聞き慣れた声が。

[晴この二人は?女性の方は今朝報告してきた人かい?]
[はい。そーです。男性の方は先程初めて会いまして、ギユウトミオカさんです。]
「!?晴ちゃん外国の言葉話せるのね!凄いわ!彼、なんておっしゃってるの?」
『え?あぁ、はい話せますねー。えっと、お二人は誰なんだー?的な感じです。今朝甘露寺さんの話はしてあったので、冨岡さんのお名前を伝えました。』
「…そうか。」
「外国語だと冨岡さんは義勇冨岡になるのね〜。」
『はい。名前が先にきますねぇ。』

ほわほわとした空気の中自己紹介をスティーブンさんの分も済ませて、甘露寺さんが鎹烏という訓練された鬼殺隊の烏にお館様への文を持たせて飛ばした。
二人は鬼殺隊の柱という立場で階級で言えば最高ランクの立場であることを話してくれ、どうやらこのままお館様が住まう屋敷まで行くらしい。
場所は秘密にしているから途中から目隠しに耳栓やら拘束された上で連れて行かれるようだが…。
まぁとどのつまり、この二人はお館様というトップの人間に会うまで私たちの監視役ということになる。
冨岡さんが甘露寺さんと合流していたのはたまたまで、更には冨岡さんとはまた別の柱にお館様から私たちを監視する招集がかかっていたんだそうな。

そんなこんなで四人での移動が決定した。
と思ったら、柱ですらお館様のご自宅訪問は直接出来ないらしい。
魔術とかそんなもんは無いこの時代、世界でお偉いさんを隠すためにはリレー形式のおんぶで運ばれていくようで…ふと、疑問に思ったことを運んでくれる隠の人に聞いてみた。

『筋肉もりもりの人でもこうやって運ぶんですー?』
「え、ええ。そうです…」
『ほぇ〜すごいっすねぇ…』
[晴キミどこに関心してるんだ?]
[え、だってだって、すごく重量ある人でも例外なく運んでくれるんですよ?私にめちゃくちゃ怯えててもちゃんとおんぶして運んでくれるってすごくないですか?]

私がスティーブンさんとにこにこ和やか(?)に英会話していたときの隠の方々の表情は、まるで信じられないものを見る目付きでこれでもかというほどかっぴらいていた。
うん?会話の内容知られても問題は無いけれど、分かってる人いない…よね?
こそこそ隠同士で話していた言葉を盗み聞きすると、ただ単に鬼の私が隠の人を褒めたことに驚いただけらしい。
ちょっと安心した。

「すてぃーぶんさんはなんておっしゃっていたの?」
『えっと、どうやって移動するのか疑問だったようなので隠の方に運んでもらうんですよーって伝えただけですよ。』
「…外国の言葉しか彼は話せないのか?」
『ソウデスネ。私は母国は日本なので話せますが、彼は生粋の外国人さんですので。』
「…そうか。」

彼らと合流してからスティーブンは笑顔の仮面を貼り付けたまま英語しか話さなくなったので、協力者になるまではろくに日本語を話すことは無いだろう。
彼らに隠れて会話をするには問題無いが、あまり隠しすぎても怪しまれる。
私は彼らの敵対する鬼とほぼ同等な存在であり、甘露寺さんの言葉が無ければ私は冨岡さんには出会った瞬間に斬られていただろうから。
この策は余計に事態をややこしくするだけだと訴えたいが、あの鬼畜上司は今のところ日本語がしゃべれませんごっこを続ける気のようで…。
説明を上司に丸投げしようと思っていたのに自分でやらなきゃいけなくなりそうで、胃が荒れそうだと思わず遠い目をしながら隠の背に乗った。



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