既視感と記憶と決意

暗闇を駆け抜けて来た道を戻れば気絶した藤の家の夫婦とスティーブンが外で変わらず待機していた。

『スティーブンさーん戻りましたー。』
「うん。お帰り晴。あの子は?」
『怪我も無かったので大丈夫かと。今日の事は悪い夢を見たと思って忘れてくれればいいんですけどね。』
「説明しなかったのかい?」
『私自身何が起きたかよく分かっていないことを説明するのは難しいです。あと別に自分が化け物って話しはする必要性を感じませんでした。』
「まあ、そうだね。キミは泣き虫の臆病者だからな。」

馬鹿にするように、からかうように、いつものライブラでのやりとりのように晴を煽るスティーブン。

『うるせーやい。懐いてくれた子に手のひら返されたら誰だって泣くやろがい。…で、中戻ります?』

それをさらりと流して竈門のもとへ合流をするか聞いたことに対して呆れを浮かべてため息を吐いた。


「ふぅ。わざわざ面倒事に巻き込まれに行くのか?」
『流石に竈門君に鬼でしたっけ?あれの後始末を1人でさせるのは流石に…。』
「はぁー…。いいかい?あの子はあの鬼の殺し方を知っていた。つまりあの子供はただの子供では無く、僕らのような専門家だ。」


任せてしまっていいと思うよ。とスティーブンが言うと、戦闘音がする所を避けて自分達が寝泊まりしていた部屋へと向かう。
藤の家の夫婦を放置して、だ。

鬼はこの上司の方では?と思いつつ、周りに他に鬼がいないことを確認し、夫婦の安全だけは最低限確保してスティーブンの後を追う。


「そんなことより、さっさと自分で武器の創造くらい出来るようになってくれよ?情報収集したけど確か廃刀令が出てるんだろ?持ち歩けないなら自分で作れ。」


いつでも木の棒がその辺に転がってると思うなよ。などとひと睨みされて、藤の夫婦をそんなことって言いやがったな…と不貞腐った私は『はぁーい。』とおざなりに返事をした。

絶えず奥から聞こえる戦闘音にそわそわする。
私より年下であろう男の子が戦っている状況になんだかもやもやとして気分が晴れない。
どこかで感じたことのあるような感覚だった。
私が記憶を無くす前に同じ様なことでもあったんだろうか…。
既視感なのか、年下の子が戦っているという事実が嫌なだけなのか…。








──ふいに、脳裏に過るのは槍を持った男の子の後ろ姿。








彼は誰なのだろうか……‥‥──









                 分からない







         判らない




                       解らない







               わからない









ワカラナイ。











そんな私が思う確かな事は、ここで竈門君を1人で戦わせてとんずらしたら絶対に後悔するという事実だけ。




『スティーブンさん、私やっぱり竈門君のフォロー行ってきます。』
「僕の話しは聞いてたかい?」
『ええ。勿論しっかりばっちり拝聴いたしましたとも!』
「キミは賢いと思ってたんだけどな。」
『そりゃあありがたいことですね〜。期待に応えたいので完全なる勝利をスティーブンさんにお届けしますよ!』
「そうじゃないだろ…」


がっくり肩の力を抜いたスティーブンにしたり顔で笑う晴。


「はー…、10分だ。10分で片を付けろ。それ以上は認めないし、オーバーすればキミを氷漬けにして砕くからな。」
『はい!たとえ氷漬けにされて砕かれた所で死にませんけどね!ドヤァ!』


怒られないうちにピュッと逃げるように立ち去り、竈門が戦っている場所へ急ぐ。
辿り着いたその先で、先程まで居なかった黒髪の口枷を付けた女の子と共に戦う竈門を見つけた。


丁度負傷して吹っ飛ばされる竈門を見て、その背後に回り壁とのクッション代わりになる。


「えっ!?」
『ぐっ…!大丈夫?』
「は、はい!すいませ…」
『謝ってる暇があるならしっかり刀を握って立って!』


ほら来るよ!と背を押して逃がし、伸びてきた蔦を払う。
視界の隅で女の子が鬼へと飛びかかっていく。
爪もあるようなのであの子は十中八九鬼なのだろう。

「禰豆子!」
『鬼かぁ。でも、人を襲わず人と一緒に戦うなんて親近感が湧いちゃうねっ!お揃いじゃーん!』

軽口を叩きながら攻撃の手は緩めることはせず、3対1で背後に守るものは何も無い状況ならば、自ずと勝利は見えてくる。

『そろそろ眠って下さいな!そぅらよっ!』
「くそぉ!!お前が死ねぇ!!!」

大振りの攻撃を潜り抜けて、隙を見せた胴におもいっきり木の棒を振り抜き竈門の方へ飛ばす。
この衝撃に耐えきれずにバキィッ!と派手な音をたてて木の棒は砕けたが、問題は無い。







「水の呼吸漆ノ型雫波紋突き!」








晴が吹き飛ばした先には、鬼の頸目掛けて己の呼吸の中で最速の型を構えて待ち構えていた竈門がそこにいた。
茫然とした顔で頸と胴体が離れた鬼は、その顔を絶望と渇望するような目でこちらを見てくる。



「…ぼく、は…ただ、家族といっしょ、に…どうして、……お前たちだって…鬼と人なのに、いっしょにいられるんだよぉ…ずるいぃ……」
「…君は道を過ってしまった、それは変えられない事実だ。でも、家族と一緒にいたい気持ちは俺もよく分かるよ。」



落とした鬼の頸のそばに膝をついて会話をしている竈門。
そこに近づいて泣いている鬼に言葉を告げる。



『家族かぁ…。ねぇ、君が家族と居たいように、今まで君が殺して食べてきた人達にも大切な家族が居たんだよ。』



人の理性を取り戻したその子は、泣きながら繰り返しごめんなさいと謝りながらさらさらと灰になって消滅した。
鬼の言葉を聞いてどこか凹んだような様子を見せた竈門に禰豆子が近寄り頭を撫でていた。

「むー…」
「禰豆子…あの子は一歩間違えれば俺達が辿る道だったのかもしれない…そう考えると今更震えが止まらないんだ…」
『…君は、君達は他人を蹴落として、殺して、人の明日を奪ってまで生きたいって望むの?』
「むー!」
「しません!禰豆子が望んだって絶対にさせません!」
『なら怯える必要は無いんじゃない?もしとか、こうだったら、なんて有りもしない過去を心配したってしょうがないじゃん?君は道を間違えなかった、それが真実だよ。』
「ま、世の中キミ達のように意思が堅い人ばかりじゃないけれどね。」
「!貴方は…」
『あ、こちら私の鬼より鬼畜上司なスティーブンさんで、私は村木晴。よろしくね?』
「こらこら勝手に人の自己紹介をするんじゃない。しかもキミは喧嘩を売ってるのかい?高価買取してあげようか?」
『きゃーこわーい(棒読み)』
「あ、えっと、俺は竈門炭治郎でこっちは妹の禰豆子です!お二人は仲が良いですね!」
「む!」
「そうだね、別に悪くはないんじゃないかい?」
『やだ…スティーブンさんがデレた…!』
「キミなぁ……」




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