鬼狩り様と私
───それは働きなれ始めた数週間後の夕方の出来事でした。
その日は宿場町の方へ働きに出ていて、仕事を上がるギリギリに女将さんにお使いを頼まれたのです。
「晴ちゃん申し訳ないけど、足りなくなってしまった大根とお野菜をいくつか買ってきてほしいのよ。頼めるかしら?」
『はい!大丈夫ですよ。』
笑顔で答えた私は渡されたお金とかごを手に市場へ向かったのです。
顔見知りになった八百屋のおじさんからおまけを貰いつつ、不思議な話しを聞きました。
なんでも最近夜な夜な子供が消え、それを探しに出た親も居なくなっているのだと言いました。
不審者に襲われたのでは?神隠しにあったのでは?はたまた化け物に襲われたらしい、等々不気味な噂話が出回っているので何はともあれ夜は気を付けた方がいい、と───
『そんなこんなで解決のために調査がてら鬼狩り様がそろそろ来るんじゃないですかね〜?』
スティーブンさんどう思います〜?なんて聞きながら晴はお茶請けのお饅頭をむっしゃむっしゃと食べていた。
『あ、これめちゃくちゃ美味しい…!』
「ねぇ、緊張感って言葉を知っているかい?」
『Hahaha!存じ上げませんねぇ。』
「確かこの前お世話になっている宿屋の女将さんには息子さんがいるって晴が自分で言っていたはずだけど?」
『今すぐにでもパトロールに行ってきまっす!!』
緑茶をグビッと飲み干してお饅頭を流し込んでから立ち上がり、バタバタと出ていこうとする晴を横目に布団へ潜り込もうとするスティーブン。
『可愛いくって優秀な部下が夜勤をしようとしてるんだから起きて報告を待とうとか思わないんですか?!怪我が治るまで安静にしててほしいので来てくれとは言わないけども!!!』
「カワイクテユウシュウナブカガイテボクハシアワセモノダナァ」
『わぁ綺麗な棒読み!ちくしょう!』
行ってきます!!バタバタ走り去る晴の足音を聞きながら目を閉じるスティーブン。
しかし、すぐに目を開けて体を起こし部屋の外へ出る。
「さて、可愛い部下が頑張るなら俺も動かないといけないな。」
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夜の月明かりを背に町まで走り抜け、人がほとんど居ない事を確認してから耳を澄ませる。
丁度私がいる場所から真っ直ぐに走って遠ざかっていく足音が1つと左側から走ってくる音が1つ。
左側の音の主とはあと30秒程で出会うだろうなと思った次の瞬間、走り抜けた音と気配を確認。
背後から刀を首に突きつけられ声をかけられた。
「貴方からは鬼の匂いがする!ここ最近人を襲っていたのは貴方ですか!?」
『いいえ。…その様子だと君は鬼狩りかな?聞き方が随分物騒だね。』
「俺は鬼殺隊 階級癸 竈門炭治郎です。貴方は鬼…ですよね?」
『ご丁寧な自己紹介どーも。鬼かって?その答えは“はい”であり“いいえ”でもあるかな。』
「どういうことですか?」
『私は人を襲ったことも食べたことも無いし、鬼は鬼でも吸血鬼なので分類が違うというかなんというか…うーん説明が面倒なので省いていい?とりあえず君の敵ではないです。』
「!貴方も人を襲わない鬼なんですね?」
貴方“も”ってことは他にも理性的な鬼がいるのか〜…。
敵に回ったらめんどくさそうな予感しか無いなぁ。
そんなことを考えながらおどけて返す。
『そうで〜す!だから刀、下ろしてくれません?』
「いきなり刀を抜いて突きつけてすいません。」
『…私が言うのもアレなんだけどさ、もっと疑った方がいいと思うよ?』
刀を下ろしたのを確認してから振り返ると、緑と黒の市松模様の羽織を着た少年の姿がそこにあった。
背負っている箱からもう1つ気配を感じるが、突付くとめんどくさそうなのでスルーすることにした。
「貴方からは嘘の匂いがしなかったので信じます!」
『匂い?ちょっとよく分かんない子だなぁ…というか、向こうに走って行った人がどんな人なのか君は見た?』
「いえ、俺は貴方の匂いを優先してしまったので…」
『え゛匂い匂いってさっきから言ってるけど私ってそんなに臭いの?』
「そうでは無くって、俺鼻が良いんです。なので鬼の匂いを感じて…といっても腐臭では無く浴びたような血なまぐささというか…」
『アッソウデスカ……ちなみに私以外の鬼の匂いはする?』
「…します!」
あっちです!と走り出した彼に続いて走る。
その方向は私から遠ざかっていた足音を追うものだった。
いくつもの道を曲がり、走り続けた先に見えたもの。
それはおかしな事に私が先程飛び出したはずの藤の家の裏へ向かっていた。
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