治療とこれから

これから書き分けのために[]は英語で話している内容として書きます。


『ごめんくださーい!どなたかいらっしゃいませんかー?』
「はーい!少々お待ち下さーい!」


門の前で声をかければ中からパタパタと駆けてくる足音が聞こえ、着物を着た30代半ばの女性が顔を出す。



「お待たせしました。…あら、鬼狩り様では無いようですが、ご用件はなんでしょう?」
『すいません連れが怪我をしておりまして…行く宛もなくって…申し訳ありませんが一晩でも構わないので泊めていただくことは出来ませんか?』
「まあ!それは大変!お医者様を呼びますので中でお休み下さいな!あなた!お医者様を呼んでちょうだい!」
「わかった!すぐに呼んでこよう!」



旦那さんが後ろに居たようで走って行ってしまった。
そのままこちらへどうぞと案内されるまま後ろをついて行き、8畳の畳の部屋に通された。
布団を出してもらい、手伝って床を整えるとそこに寝て待つようにとスティーブンさんに言って女性は立ち去ったので、言葉を切り替える。



[とりあえず寝床確保出来て良かったですね。お医者さんも呼んでもらえるみたいですし、至れり尽くせりだ。]
[ああ、そうだな。そこは良かったんだが…“オニガリサマ”ってなんだろうな?晴は知ってる言葉かい?]
[んー…知らないですね。文字通り鬼を狩ってる人なのか何かの仕事の比喩なのか…。というか、私はスティーブンさんや私の服装を怪しまれなくって良かったっていう安堵しか無かったですね。私はワンピースだし、スティーブンさんスーツだし。]


着物を来ている人たちの中で浮く服装なので洋装で面倒な事になるかと思いきや、すんなり入れてくれたので良かったな、と。そう告げると確かになと頷かれた。
…日本に洋装が入ってきたのって何時の時代からだったっけ?と頭を捻っても思い出せない。
まぁ、いっか。


[あ、着替えはっけーん。浴衣ですね。]
[薄っすらとは分かるんだが…キミ結べるかい?]
[適当で良くないですか?パジャマと一緒ですよ。どうせスティーブンさん身長あるから丈足りないし、とりあえず左前で着ればいいですよー。帯は蝶々結びでもしてくださいな。]
[おい、日本人。]
[今の日本人そんなに伝統衣装の着方知ってる人居ませんって。たぶん。というか、覚えてません。]
[そういやキミ記憶喪失だったな。]


そうこうしている間に医者を連れた旦那さんが戻り、診察をされたスティーブンさんはにこやかに日本語で対応してみせた。
肋が1本折れていたらしく安静にするよう言われたのだが、行く宛が無いことをさらっと説明しつつ、ここの家主たちの同情を誘うような言葉をまぁ、驚くほど並べる。
よくここまで口が回るものだと思いながら私も悲しげな顔をすることを忘れない。
寄り添うようにスティーブンさんの左腕に触れ、健気な少女(笑)を装う。
人の事言えないな〜なんて思いながらもここへの宿泊許可をもらい、着替えも数点頂けること、私さえ良ければここでお手伝いさんとして置いてもらえることになった。
もう少し行けば大きめの町もあるらしく、そこで人手を探していた宿場町の方にも話を通してくれるらしい。
働き口があるならここでのお金は返せるし、これからの路銀になる。
お金はあって損は無い。


「お世話になります。」
『宜しくお願いします。』
「こちらこそ宜しくお願いしますね。」
「ゆっくりしていってくれ。」


お互い頭を下げて挨拶を交わし、今日の食事をここに運んでくれるとのことだったが、少しでもお手伝いさせてほしいと頼み込んだ。
明日から働かせてもらうにあたり、奥様に案内がてら食事の準備を一緒にさせてもらえることになった。



「普段我が家はこれといって特別することは無いのですが、藤の紋を掲げることで鬼狩り様に宿と食事を提供しているのです。」
『あの、オニガリサマって?』
「あぁ、文字通り鬼を狩り人を守ってくださる方々ですよ。鬼狩り様に私は助けていただいたので、そのご恩を少しでもお返しするために藤の紋を掲げたのです。」
『へー、そうだったんですね…。というか、鬼って存在するんですね…。』
「そうですね、私もおとぎ話だと思っておりました。鬼を知らない方が幸せだと思います。ですが、たしかに存在して人に仇なすものであることもまた事実。それらから守ってくださる鬼狩り様を大切にもてなすのが藤の家です。」
『なるほど…。でもなぜ藤なんですか?』
「鬼の弱点は藤の毒と日の光だと聞いています。だから日中鬼は存在せず、人々に広く知られていないのです。いつでも鬼狩り様は闇の中で戦い、我々を守ってくれているのですよ。あとはそうですね、夜は藤の香を焚いて鬼が家に入ってこないようにしているんです。」
『ほへ〜。藤と鬼狩り様ってすごいですねぇ…。』


手を動かして話しを聞いていると、日光がダメと聞いて物語上の吸血鬼と似ているなと感じた。
私は不死者で吸血鬼だけど、そう判明してからも日光は問題ないし、血も摂取はしていない。
肉を食べる時にめちゃくちゃレアで焼くくらいなもので、血を飲むという行為をどうしても心が受け付けないのだ。
まぁ、吸血鬼と自覚して半年経つけど心は人間のままだもの。
倫理観とか道徳的に無理なやつですよ。
それでも色々と吹っ切れてしまえば生きやすくなるんだろうなぁなんて思いながら煮物を盛り付けた。

[ 10/19 ]

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