上司と迷子再び


──あの日レオが差し出してきた手を握り返し、ライブラへ所属をしてから早いもので半年以上が経過しました。
その間にも色々疑われ続け、血を抜かれ、腕を1本寄越せ寄越さないで揉め、指で妥協してもらったり指が再生して発狂したり慰められたり色々な体験をしました。
ライブラでツェッドさんという新入りも増え、騒がしさが益々増したりして(主にザップさんの)記憶も少しずつ取り戻したかったけど、日々が激動すぎて新しい記憶ばかりが増えていきます。
正直しんどいです。
平穏な日常が欲しい。
きっと記憶を失う前の私も同じような思いで戦っていたのではないでしょうか。
守りたい想いしかいまだ取り戻せてはいませんが、私は元の体に戻り死ぬことも、記憶を全て取り戻すこともまだ諦めてはいません。
心はボロボロですが、とりあえず体は五体満足そのものです。───





「──で、ここは一体どこなんだ?」
『スティーブンさんそれ私に聞いてます〜?残念ながらわっかりませーん!』




心の中で日記を書いているかのように現実逃避をしていたが、スティーブンさんに声をかけられたことによりそれは中断された。
あはは何処なんでしょうねとニコーっと笑いながら返すと同じようにニコーっと笑った顔で言葉を発すること無く原因を探れもしくはここが何処か調べてこいというような圧力を感じた。
一応上司な彼の指示(出してはないけど空気は読まないと後がめんどくさい)に従って辺りを見回す。


見渡す限り何処までも続くのどかな田舎の風景。
山と畑が多く、高い建物やどんな田舎にだってあるはずの電柱や鉄塔なんて1つも見当たらない。
スティーブンさんをちらりと盗み見れば、ここに来る前に堕落王フェムトの暇潰しの作品しかもこいつがクソほど厄介でほぼBBと同レベルというライブラ総出の最悪な戦闘があり互いの服も体もボロボロだった。
私の怪我はもう再生し終えたが、生身のスティーブンさんはちょっとしんどそう。


戦闘が起こったのは昼前。
収束したのが午後15時すぎ。
今いる場所の日の高さから見て大体15時頃で間違いない、はず、多分。
戦闘が終わったあと各自散開撤収の合図が出た後皆すぐに散っていったが、私はスティーブンさんへ呼ばれて近づいた。
そして瞬きをして目を開いたその時にはすでにここにいたのだ。
ここがHLなら異常が無い事がもはや異常事態なので最悪命に関わることに発展しかねない。
でも目を閉じて耳を澄ましても聞こえるのは風の音と鳥の鳴き声、木々のざわめきのみ。
近くに人の話し声は、無い。
端末を取り出してみても見事に圏外。
スティーブンさんも自身の物を確認していたが、状態は同じだったようで表情は芳しくない。



『スティーブンさ〜ん特に異常は見受けられないし、ここから人が居そうな方へ移動しませんか?』
「……晴ここに現れる直前変な音を聞かなかったかい?」
『音…ですか…?いえ、特に聞こえませんでしたけど…?』
「そうか……うん、ここで立ち止まっていても仕方無い。移動しよう山側を背に歩く。」
『その心は?』
「晴、キミだったら何処に住みたい?」
『なるほど納得です。山の恵みは良いけれど住みやすさは平野ですねぇ。』
「だろ?山にも人はいるだろうが限られてるだろうな。」
『納得です。んじゃ、日が暮れる前に移動しちゃいましょうか。皆もここらにいたりしないですかねぇ。』
「ほぼ全員が立ち去った後の事だからなぁ。居たらすっ飛んで来るだろ特にバカトリオは。」
『皆好き勝手に生き延びそうですけどね。一緒にいて騒いでそう。』
「まったくもって行動が分かりやすくて助かるよ。」
『というか、スティーブンさんあの時なんか魔方陣的なの踏んじゃったとか無いんですか〜?』
「心外だな僕がそんなヘマをするとでも?ザップじゃあるまいし。」
『デスヨネー。』



ポンポン会話をしながら民家を目指して歩く。
時折スティーブンさんが痛みでなのか、眉間にシワを寄せながら歩いているのでこの人肋骨でも折れてるんじゃなかろうか…。
支えようかと近寄れば問題ないというように首を振られた。
早めに休める場所を見つけなければと目を凝らしていると、玄関にでかでかと花の家紋の描かれた家を発見。
この雰囲気を見る限り日本っぽい感じだ。



『うーん、ここ多分日本な感じなんですけど、スティーブンさんは日本語話せましたっけ?』
「日本語の日常会話位なら問題ないな。」
『出来る男は外国語もペラペラですかーそーですかー。』
「趣味も実益も兼ねて必要だったから覚えただけさ。」
『ハニトラで?』
「さぁ?どうだろう。」
『うっわーこの大人怖いよぉー!』




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