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清々しい朝。 刀剣男子達もちらほら起き始めている。 厨では炊事当番が料理をしていた。
「う、うわ、うわあああああああああっっっ!!!」
本丸に、絶叫が響き渡った。
「…な、なに!?」 「何事!?」 「え!今の悲鳴、誰?!」 「今のって剣勢だよね?」 「うそ、剣勢の悲鳴?!」
バタバタと悲鳴の方へ皆が向かう。 悲鳴は、審神者部屋からだった。 一番最初にたどり着いた加州と堀川、大和守がスパンッと勢いよく襖を開けた。 中では剣勢が薄氷の布団の横に立ち、自分の頭を抱えている。悲鳴以降、目の前のショックに口をパクパクとさせて声が出ていない。 剣勢の悲鳴で鈍く覚醒して目を擦っている小さな子供がノロリと起き上がった。
「剣勢、何事!!?って…主?…ちょっと、それ主なの!!?」 「え!?主さん!?嘘だよね!?」 「どういう事なの剣勢!」
加州が震えた指で長い黒髪の小さな子供を指差す。 堀川も驚愕に口を覆っている。 大和守が剣勢に声を掛ける。
「……あさから…煩いよ……なにごと…」
まだ覚醒しきっていない薄氷は左手で顔を覆いながら、うつらうつらとしている。 その浴衣は肩がずり落ち、腕の無い右側が脱げてはだけている。
「おーい、何事だよ国広ー。主がどうしたって?」
そこに和泉守も顔を覗かせた。 続いて陸奥守も来る。
「お、おい…なんだぁ…?そのちっせーの…まさか!…おい、国広、どうなってやがるんだ!」 「おんしら、ふっとい声出してどうしたが?………そこのこんまい子ぉは…まさか主がか!?」
2人とも瞠目している。
「いや、どう見てもそうでしょ!ちょっと剣勢、何がどうなってんの!?」 「わか、分からない…起きたら…、らいが…小さく、なってた……」 「はーー、嘘でしょ…。兎に角、薬研呼んで見てもらおう。まさかこんな悪戯、鶴丸さんじゃないよね…?」
剣勢のやっとの答えに、加州が顔に手を当てる。
「僕、一先ず薬研呼んできます!」
堀川が集まった男子達をかき分けて薬研を探しに行った。 そこに入れ違いで鶴丸がやってくる。
「おーおー、何事だ?朝から賑やかじゃないか」 「…鶴丸さん…。この悪戯、アンタじゃないよね?」
加州は我関せずと二度寝に入った小さな主を指差して鶴丸に声をかけた。 鶴丸は審神者部屋を覗き込み、ヒュゥ、と口笛を吹いた。
「こりゃ驚きだ。随分とまあ小さくなっちまったもんだなぁ。残念ながら、これに関しては俺じゃあないぞ」 「じゃあ誰が…」 「らい…こんな、大変な時に、寝ないで…」
剣勢は上体を起こしながら寝てしまった薄氷を揺すっている。 そこに堀川が薬研を連れて戻ってきた。
「加州さん!連れてきたよ!」 「なんだ、主が小さくなったって聞いたが、本当か?」 「そーなの。これ見てよ」
加州は返事をし、鶴丸は半歩身を加州に寄せて審神者部屋の入り口のスペースを空けた。
「驚きだろう?オレも吃驚だ」 「…その言い方はアンタの悪戯じゃあないんだな?」
薬研の言葉に、鶴丸は頭の後ろで手を組んだ。
「おいおい、そんなに信用ないのか、オレは」 「やりかねないって話だって…」
加州は溜息を吐いた。 薬研は薄氷に近づいて顔を覗き込むために、剣勢とは薄氷を挟んで反対側の畳に膝をついた。 熱、脈、顔の色、目蓋の裏の血色を順番に見ていく。 薄氷は寝惚けながらそれに応じるが、自分に何が起きたか、まだ理解できていないようだった。 薬研は立ち上がり、眠そうにする主を見下ろして腕を組んだ。
「どうだ?」 「なんともないな。病気でも風邪でもなさそうだ。…ただ…」 「ただ?」
そこにいたメンバーが薬研の二の句を待った。
「一つ、心当たりはある」 「心当たりって何?」 「薬だ」 「薬ィ?主、薬嫌いじゃん。自分から飲むと思う?」
加州は声を上げた。 それに薬研も首肯して、薄氷を見下ろした。
「大将のことだ、自分で飲んだ訳じゃないだろうな。一服、盛られたか。…噂にしか聞いたことはないが、APTX-4869という薬があってな。どうやら幼児化する薬らしい。実際に存在するかは不明だが」 「ふぁーーーーあーーーー」
薄氷が大きな欠伸を上げて頭をガリガリと掻いた。 薬研や加州達は会話をやめ、揃って薄氷を見る。 剣勢は薄氷に声を掛けた。
「らい、起きた……?」 「んー?何みんな揃って、何事なの…?」 「…主さん、自分の体見て下さい」 「何…」
薄氷は堀川に見せられた手鏡を覗いて自分の体を見た。
「な、何これ!!…は?……はぁ!?」
薄氷は大きな浴衣を左手で引っ張り、自分の体をパタパタ触りながら素っ頓狂な声を上げた。 浴衣が肩からずり落ちる。
「やっと現実を見たか…起きるまで長すぎだろ…」
和泉守が溜息を吐いた。
「主、浴衣肌蹴てるって」
加州が浴衣を着せて、溜息を吐いた。
「な、何がどうなってるの!!なんで私小さいの!」
剣勢より小さい!と頭に手を当てて、ショックを受けている。 その1人で阿鼻叫喚になっている主の体をヒョイと持ち上げたて小脇に抱えたのは鶴丸。
「よーし、この驚きの姿を本丸中に広めてこよう!ははは!行こう主!」 「えええうそうそ!嘘でしょ!」 「はーあ!?何考えてるの鶴丸さん!この大変な時に!」
薄氷が声を上げて拒否をし、加州が片眉上げて「ありえない」と言った表情をして、小脇に抱えられた薄氷を取り返そうと主の体を掴んだ。 2人に引っ張られて、薄氷は「あいたたたたたた」と声を上げている。
「はーい、落ち着いて!2人とも!」
堀川が隙を見て薄氷を取り上げ、素早く和泉守に託すと、両手で制して止めに入った。
「あ、おい!どうすんだコレ!」 「兼さん、ちょっと主さん抱えてて。2人とも、コレは本丸の事件だよ。無闇矢鱈にこの事態を広めるべきじゃ無いと思う」 「ほーら言ったじゃん鶴丸さん!」 「…かと言って、主さんが小さいのは解決しなければいけない。この本丸は主さん特製の結界が張ってあって、外からは入れない所謂密室…僕ら内部の犯行が高い。まずはほんとに薬のせいなのか、その他呪いとか術なのか、まずは専門家の意見を聞かないと。この事態を知る者のは最低限!どうかな?」 「ほー、内部の犯行。そして有識者の意見だな。コレを皆に伝えられないのは惜しいが、仕方あるまい。じゃあオレは術や祈祷に詳しい石切丸あたりに驚きを届けてこよう」 「待て待て国広。その有識者のうちの誰かが犯人だったらどうすんだ?」 「何も主さんと有識者一対一にする事はしないよ、兼さん。僕らが必ず参加する。僕らの目があれば、犯人は悪戯に行動に移せないだろうからね」 「もしこん中に犯人がおったらどうするがか、堀川」 「…そのときはその時…かな?」
堀川は顎に手を当てたまま審神者部屋に居る刀剣男子を見回した。
「分かった。わしは、南海先生を呼んでくるぜよ。何か知っちゅうかもしれん」 「そんじゃ、オレも石切丸に驚きの知らせを伝えてくるかな」
そう言うと、鶴丸と陸奥守はとたとたと審神者部屋を後にした。 ひとまずその場は堀川のおかげで収まり、和泉守に抱えられた薄氷は彼の内番服を握りホッと溜息を吐いた。
「…こ、怖かった……」
薄氷が小さく呟いた。 それを聞いた堀川が眉を下げて和泉守に抱きついている小さな背中をポンポンと撫でた。
「そうだよね。揉みくちゃにされて、びっくりしたよね主さん」 「あーるじ。着替えどうする?一応着替えとくでしょ?いつまでもそんなサイズの合わないやつ着ててもね」
服どうしようか、と加州が声を掛けた。
「オレの…だと、らい…ブカブカ、だよね?」 「俺のもデカイだろうな。大将の今の身長で合うのは秋田辺りじゃないか?」
和泉守に抱きついたままの主を見上げ、剣勢と薬研は話をする。
「清光、これは秋田に事情を話すにしても話さないにしても服借りた方がいいかもよ?」
大和守が言う。 加州と堀川は「うーん」と難しい顔をするが、ハアと溜息を吐いて、加州は頭を掻いた。
「…薬研と同じ粟田口だし、秋田はそんなにベラベラ喋らないと思うし、貸してもらうか」 「じゃあ、私も行…」
薄氷が『行く』と言う前に、堀川が人差し指を薄氷の唇に当てて黙らせた。
「主さんは僕たちと此処に居て。加州さん、大和守さん、薬研と一緒に秋田に事情を隠して服借りてきてもらってもいいかな?」 「そーね、主は部屋から出ない方がいいかも。ついでに今日の厨番に『主は部屋で食べるから俺らが持っていく』って言ってくる」 「ありがとう」
パタパタと加州、大和守、薬研が部屋から出て行き、審神者部屋には剣勢、堀川、和泉守が残った。
「…はぁ。なんか、堀川が頼もしい…」
薄氷は和泉守から降りると、布団の上で胡座を崩して片膝を立てて左手で頭を掻きながら首を垂れた。
「…何言ってんだぁ?主。国広はいつも頼もしいぜ?」 「知ってる…今回はマジでいつも以上に頼もしい。ホント、助かった…」
脱力、と言った感じだった。 『自分の幼児化』と言う事態に、思った以上に頭が混乱しているようだ。 これは自分がしっかりしなくては、と剣勢は正座の上に握った拳にギュッと力を込めた。
「さて、主さん。何にも心当たり無いの?昨日とかご飯以外に食べたものとか…」 「うーん…昨日は久しぶりに早起きしたから滝に打たれたよ?後は石切丸の所で剣勢と四手を沢山折って、石切丸が薄荷の飴くれた。その後は剣勢が厨に行っちゃったから暇つぶしに朝尊と本の整理したよ?したら肥前がお菓子持ってきたからそれ3人で摘んでさ。あれ美味しかったなぁ、なんで言ったっけ…かんざし?」 「主さん、石切丸さんから貰った薄荷の飴…食べた?」 「勿論。貰ったから」 「あーー…なんか、失敗したかも…」 「やばい気がするのはオレだけじゃねえよな、国広…」
堀川と和泉守が手で顔を覆っていた。
「…え、なんかマズい?」
薄氷はキョトンとした。
「…マズいも何も…」 「昨日食ったモンの中になんか入ってる可能性高えぞ…」 「え…マジで?」 「大マジだ」
「あるじー、堀川ー、和泉守ー、服とご飯持ってきたよー」
加州の声が聞こえて、堀川が襖を少し開けた。
「ああ、加州さん…。大変なことになったかも…」 「なに、どうしたの」
加州、大和守、薬研が秋田の服と小鍋を手に入ってくる。 小鍋を剣勢が受け取る。鍋を開けると、中は具沢山な卵雑炊が入っていた。風邪やら体調不良やら、加州達が何か出任せを言ったのだろうというのが見えた。 薄氷は小鍋の蓋を閉じて、秋田の服を受け取り、モタモタと着替え始めた。
「それが…」
かくかくしかじか、堀川が加州達に手際良く説明をする。 それを聞いた三人は、和泉守と堀川がした様に、頭を抱えた。
「それどっちかじゃん!一服盛られたとしたら!」 「でもよ。石切丸がすると思うか?」 「しないね」 「肥前の野郎は?しねえだろ?」 「じゃあ一体誰が…」
「…主、入るよ」
声がして、襖の近くにいた加州が開ける。 入ってきたのは石切丸と鶴丸だった。
「あー石切丸ー」
着替え途中だった薄氷は石切丸に声を掛けた。
「…これは…鶴丸から聞いてはいたが、本当に小さくなってしまったのだね」 「な?驚きだろう?」 「全く驚きだ。申し訳ないが、この様な術は私は知らない。…役に立てなくてすまない、主君」 「本当にこんなに小さくなっちゃう術は無いんですか?石切丸さん」
堀川が粘り強く聞く。
「何度も言うようだが、この様な術は心当たりが無い」 「無いのか…。すいません、石切丸さん。ありがとうございました。この事は他の人には言わないでくださいますか?皆に言うとびっくりすると思うんで」 「勿論だよ。しかし一体誰がこんな事を…」 「僕たちも分からないんです…」
審神者部屋に居る全員が腕を組んで頭を悩ます。 「あ、」と着替え終わった薄氷が思い出した様に声を上げた。
「何?どうしたの、主」
大和守が顎に当てていた手を離し、顔を上げて薄氷を見る。
「大した事じゃ無いけど…」 「なんでも言ってみてよ」 「うーん、えっとね」
薄氷が言い掛けたところで、審神者部屋の襖が叩かれた。
「あだつぜよー主。先生連れてきちょったきに」
審神者部屋に陸奥守と南海、それに肥前もついて来た。 南海は小さくなった主を見ると、目を輝かせて刀剣男子たちを掻き分けて部屋へ入った。
「おお、これは素晴らしい!!本当に縮んでるとは!」 「……は?」
その場の全員が口をあんぐりと開けて、南海のリアクションに一拍置いて反応した。
「…先生、もしかしてコイツに何かしたのか…?」
肥前が眉に皺を寄せてやっと言葉を発する。
「ああ、そうなんだ。資料にAPTX-4869と言う薬があると知ってね!是非作って試して見たいと思ったんだ。したらどうだい!主が見事に小さくなっているじゃないか!これは大発見だ!」
興奮した様子で話す南海。 犯人がついに見つかった瞬間だった。
「お前なぁ…!」 「らあてことしてくれたんじゃ先生!こいじゃ“まっどさいえんてぃすと”じゃ!」
和泉守と陸奥守が怒る。
「…ねえ。もしかしてその、あぽと…なんとかって薬、かんざしに入ってた?あの朝尊と交換したヤツ?」 「そう、そうさ!主!」 「…どういう事?」
薄氷と興奮冷めやらぬ南海の会話に堀川が眉根に皺を寄せた。
「…いや、さっき話そうと思ってたんだ。朝尊とかんざしを交換した事…」
肥前と南海と三人でかんざしを食べていた時、南海から「主、此方の方が大きいよ。僕のと交換しよう」と手渡されたかんざしに薬が仕込まれていたのでは、というのだ。 南海と薄氷以外のその場の全員が溜息を大きく吐いた。
「…以後、主君の食べる物は毒味が必要な様だね」 「そうだね…。主さん、これからは無闇矢鱈に貰った物を食べちゃダメだよ?」 「なんでよー。家族がくれた物だよ?そんなに疑心暗鬼にならなくてもいいじゃん」 「主さん、今それで痛い目見てるの分からないの?」
堀川が諭す様に言う。
「別に小さくなってるだけじゃん。ていうか、これいつまで小さいの、朝尊」 「資料の通りに作ったのだけれど、なかなか上手くいかなくてね。効き目が現れるまでに時間がかかる上、持続性は無いんだよ。白鼠で実験したときは、小さくなってから4時間が限度だったよ」 「4時間かー…あとどれくらいで4時間なんだろう…」
薄氷は元に戻るまで、部屋で過ごす事になり、小さくした犯人の南海は、お仕置きとして堀川の手により、逆さ吊りで居間の欄間に括り付けられることになった。
「僕も結構邪道なんでね」
………………………… (20200506) 遅刻ですが、子供の日記念小説でした(笑) ちょっと某名探偵コ●ンネタ入ってますねwwww 謎小説だなw
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