刀剣サイドストーリー | ナノ



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「寒い寒い…。んあーーー愛しい炬燵よ…」

私の声が小さく廊下に響いた。
昨晩から深々と降り続いた雪は、朝には庭一面を白くするほど降り積もっていた。
お陰で本丸の屋敷はキンと冷えている。
つい先日から、暖を取るために、居間には炬燵とストーブが置かれていた。
今日、炬燵に足を突っ込んでいた先客は、加州と大和守だ。2人は褞袍を羽織って、お茶を飲みながらゆっくりしている。
私が居間に顔を出したら、「主だー」と声を掛けられた。
私はいそいそと居間に入ると、炬燵にぬくぬくと潜りこんだ。

「うわ!主、オレの足触った!主ってば、足冷たい!」

加州がビクっとして声を上げた。

「ごめん、清光…。ホント、部屋も廊下も縁側も寒すぎて、足の感覚ないよー。この本丸、全面床暖房にして欲しい…」

あー、寒すぎて足痒い。私がそう言った瞬間、加州が炬燵から足を抜いた。

「……主、うつさないでよ」
「清光、それは水虫…。主のは霜焼けだから」

同じく炬燵に入っていた大和守がすぐにツッコミを入れる。
加州は足を炬燵に入れ直し、湯飲みのお茶を飲んだ。

「分かってるって、ジョーダン。…でもホント、今日はなーんも当番入ってなくて良かったー。寒くて死んじゃうよ」
「あれ、今日の当番って誰だっけ?」

加州の言葉に、私は疑問の言葉を投げた。
えーと、と加州は綺麗に紅いマニキュアの塗られた指で空中を指さす。

「畑がー、鯰尾と骨喰。また鎌と薙刀を勘違いしてるんじゃない?んで、馬番が来派3人。馬着変えるから、今日は3人なんだって。で、洗濯が堀川と和泉守。和泉守が寒い寒いずーっと文句言ってるのを堀川が宥めてた。厨番が、いつも通り燭台切と歌仙。あ、当番じゃないけど、手伝いに小夜と剣勢が居たな」
「みんな寒いのにご苦労様だね…」

私がしみじみとそう言うと、大和守が湯呑みを両手で持って私の方を向いた。

「主だって、今日も長義さんに見張られて審神者業してたじゃん。…ってあれ?主、仕事終わったの?」
「言わないで、安定。長義から逃げてきたの。あの部屋、寒すぎて仕事にならないから」

私がそう言って、右側の褞袍の合わせを引っ張っていたら、山姥切が顔を覗かせた。

「…ここに居たのか、主。本歌が凄い顔をして探していたぞ」
「…げ、マジ?山姥切、絶対言わないで。此処でもう少しあったまったら、仕事に戻るからさ…」
「分かった」

山姥切は頷くと、廊下を歩いて行ってしまった。

「よくあんな冷たい廊下を皆平気で歩くよね…」

私はそれを見送りながらポツリと呟く。
加州が蜜柑を剥きながら首を傾げた。
大和守が鼻をかむ音が聞こえる。

「主、年がら年中裸足だからだよ。主は和服なんだから、足袋履けば?主のサイズの足袋、どっかにあるでしょ。持ってないなら、オレのあげても良いけど…いる?」
「いや、いい。私、足袋嫌いなんだ。なんか、あの包まれてる感と親指と他の指が分かれるの駄目…」
「だって主、草履履くじゃん…」
「あれは別でしょ…」
「全然別じゃないじゃん」

じゃあさ、と話を聞いていた大和守が、鼻をかんだティッシュを近くのゴミ箱に捨てながら、提案をしてきた。

「乱から毛糸の靴下貰ったら?アレあったかいらしいじゃん」
「それいいね…乱から毛糸の靴下貰ってこようかな…」

「…毛糸の靴下を履いたら、仕事をしてくれるのかな?…主?」

地獄から聞こえてくるような低い声が、廊下から聞こえてきて、私は錆びた玩具の如く、ギギギと廊下に顔を向けた。
そこには拳を震わせた長義。
…顔が怖い。

「ヒィ!鬼!」
「誰が鬼だ!」

長義は鬼のような形相で居間に入り込むと、私の首根っこを引っ掴んでズルズルと炬燵から引っ張り出した。
私は炬燵の天板を左手で掴んで抵抗するが、手が乾燥していて、ツルリと離れて行ってしまった。
天板を掴んだ時、加州と大和守は蜜柑の籠と湯呑みを持ち上げて避難させていた。

「ああ〜〜…」

私は情けない声を上げる。炬燵から両足まで出てしまったところで、長義が手を離したため、私は後ろへひっくり返った。

「仕事をするんだ、主!」
「やだー!寒い!風邪引く!」

私がバタバタと両足と左手を動かす。まるで駄々っ子だ。

「そう簡単に風邪は引かない!いつまでも仕事しないから、あんなに仕事が溜まったんだろう!毎日コツコツやっていれば、こんな事にはならないんだ!自分で蒔いた種じゃないか!」
「やだ!寒い!せめてストーブ置いてくれないと仕事しない!」

私はガバッと起き上がって胡座を組むと、訴える様に長義を見上げた。

「ストーブ置いたらずっと目の前に座って仕事しなかったのは何処の何奴だ!?」
「私です!手が悴んで仕事にならないもん!」

「もうさー、喧嘩は他所でやってよー。ほら、主。これあげるから」

加州がペンっと私の顔に付けたのはカイロだった。
じんわり顔があったまる。

「あーー、あったかあい…。ね、清光、これくれるの?」
「あげるから、仕事してきなよ。終わったら、炬燵で蜜柑食べよ?」
「食べるー。…………………じゃあ、ちょっとだけ、頑張ってくる」

私は「よっこらせ」と腰を上げて、褞袍の右の合わせを引き寄せて、立ち上がる。
左手でカイロを頬に当て、温かさに頬が緩んだ。





安「主も飽きないね。仕事サボるの」
清「まあ、でも…それでもちょっとずつ頑張ってくれてるなら、いいんじゃない?主のペースでさ」
安「まあ、あの人マイペースだからね…」
清「…あ、籠の蜜柑、無くなった…安定ってば食べすぎ。主のご褒美の分、取っとかないといけないんだから、食べる量セーブしてよ」
安「だって、昨日買ってきた蜜柑、すごい当たりじゃん?美味しいよ」
清「“訳あり蜜柑”って書いてあったけど、甘ければ“訳あり”でも全然いいよね」
安「僕たち、昨日いい買い物したね」
清「そうだね。…んじゃ、ジャンケンで負けた方が台所に蜜柑取りに行く」

じゃーんけーんぽん!

清「ぐあーー、俺の負け!?食べきったの安定なのに!」
安「行ってらっしゃーい」
清「…行ってくる」


冬。今日も本丸は平和です。


…………………………
(20200129)
冬の醍醐味。


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